黒板をキャンパスに、チョークのみで絵を描く“黒板アート”。近年SNSを中心に盛り上がりを見せる中、黒板メーカーの日学(株)が2015年から全国の中高生を対象にしたコンテスト『日学・黒板アート甲子園(R)』を開催している。入賞作品には黒板に描いたとは思えない傑作が揃い、さらに注目を浴びている。昨年、優秀賞を受賞した福島県立会津学鳳高等学校の『掴め!!』は、屏風を押しのけ、何かを掴み取ろうとする猫のリアルな姿が目を惹く色彩も美しい力作。コロナ禍、そして東日本大震災を経験した学生6名の「観た人が明るい未来を掴めるように」という願いが込められている。

【黒板アート傑作集】インパクトありすぎ… 制作過程ほか、チョークで描いたとは思えない驚きの作品の数々

■震災後、復興支援を続けた美術部「福島の高校生だからこそできる“アートによる発信”を」

「制作にあたった夏頃は、コロナ禍のために社会全体が不安に包まれており、学校の再開もどうなるか見通せない時期でした。そこで、作品を観てくれた人たちの気持ちを前向きにできるような力強いメッセージを込めた作品にしたいとメンバーで話し合った結果、幸運を招く猫や縁起の良い錦鯉、金屏風などを描くことに決めました。タイトルの『掴め!!』は、完成した後に決めたものです。私たちが住んでいる福島県の、復興のために頑張っている皆さんへのエールの気持ちも込めました」(美術部部長 小椋千聖さん)

「優秀賞を取れたという喜びと、最優秀賞を取れなかったという悔しさが半々」と言いつつも、美術部員6名で23日間、延べ52時間を費やしてきた充足感からか、「メンバー全員、落ち着いて結果を受け止めていました」と振り返る小椋さん。

 その日々に寄り添っていた顧問の丸山弘樹先生は、さらに6名の奮闘ぶりを代弁する。

「本校のある福島県は、東日本大震災による原子力災害からの復興途上にあります。美術部は、コロナ禍前の数年間、被災して移住を余儀なくされた方々をアートで支援する活動に取り組んできました。そうした経験がベースとなり、何かをやる時は『一緒になって取り組むぞ!』という雰囲気になっていると感じています。作品のコンセプトを決める際には、福島の高校生だからこそできる“アートによる発信”を意識してもらいました。部員たちは、これまでの経験から、アートが持つ社会への発信力の強さを知っています。『掴め!!』には、コロナ禍に打ち勝つという気持ちとともに、福島県民への強いメッセージも込められています」

■普段は授業で使う黒板に思いっきり絵を描く“新感覚” 魅力は「残らないところ」

 作品を観て、まず目を奪われるのが、猫のリアルな表情だ。表現するためにメンバー全員で市内の猫カフェに行ったそう。

「猫カフェで撮影した写真を資料にしました。毛並みの方向を理解して、1本1本丁寧に描きこみ、瞳の透明感を出すためにいろいろな色を入れ、光を入れることで透明感と生命感を表現しました」(小椋さん)

審査員はその色遣いを高く評価。さらに色彩に関しては、「屏風の金色をチョークで表現するために、いろいろな色を重ね合わせることにとても苦労した」とのこと。審査員も「すごく難しい技術だと思う」と評するこの技法は、丸山先生の指導によるものだった。

「制作にあたっては、デッサン的な正確さや色の重ね方による発色効果など、表現効果を追求しました。私の専門である油彩画の技術をそのまま黒板アートに活かしています。本校の作品が絵画的なのはそのためだと思います」(丸山先生)

 同校が大会に初参加したのは、2016年。その後2018年から毎年参加し、2019年大会では、華やかなおせちを描いた作品で最優秀賞に輝いた。プレ大会のポスターを見たときから「こんな新しいジャンルのアートのコンクールが始まったんだ」と感慨深く思い、大会への参加を部員に打診したという丸山先生は、2回の入賞を経験し、黒板アートの魅力をこう語る。

「実際にやってみるとわかりますが、黒板にチョークで絵を描くのはとても難しいです。本気で取り組むには、本格的なアート作品を描くのと同様の気合と根気が必要です。でも消すときは儚い。そんな矛盾が黒板アートの魅力なのではないでしょうか」

 一方、部員たちは……。

「美術部は、本来個人制作なので、大人数でひとつの作品を仕上げる黒板アートはとても楽しいです。真面目に制作するときは全員無言で、チョークの音しかしないくらい集中しますが、休憩する時にはみんなで楽しく談笑していました。何より、黒板アートの魅力は、普段は授業で使う学校の黒板に思いっきり絵を描くということの“新感覚”です。油彩画や水彩画の技術も生かせます。長い時間をかけて苦労して描いた作品を消すのは寂しかったですが、黒板アートの魅力は“残らない”ところにもあると思います」

 チームにとって「黒板アート甲子園」とは、ズバリ「『青春!』です」と語る小椋さん。作品は残らないが、仲間とともに熱中した日々は、一生、記憶の中に煌めく宝物として残ることだろう。

(文/河上いつ子)