「僕ちゃん→坊っちゃん」「アーム・ジョー→噫無情」「松潤が映画やってたナタラージュン→ナラタージュ」など、福井県立図書館のHPで2007年から公開されている本の「覚え違いタイトル集」。利用者の本探しのヒントにしてもらおうと、当初は20件程度だったが、今では800件を超える。SNS上で度々話題になり、「面白すぎて無理」「笑い止まらない」などのほか、「司書資格を持っている者ですが、まったく探し当てられる自信がない」「こんなのでちゃんと目的の本をみつけるなんて図書館司書ってすごいですね」といったコメントが寄せられている。当館に、司書の苦労や反響などを聞いた。

【覚え違いタイトル集】逆になぜわかった…?「ラムネかサイダーみたいな名前の新人作家」「生姜みたいな名前の人」

■「有益な情報を職員だけで独占していてはもったいない」公開から数年後、じわじわと話題に

――「覚え違いタイトル集」を公開するようになったきっかけを教えてください。

もともとエクセルで職員が事例を共有していたのですが、有益な情報を職員だけで独占していてはもったいないということで、ホームページに公開することになりました。

――公開により、どのようなことを期待されていましたか。

目的の1つ目は、直截的なものです。カウンターで職員に尋ねてくださるお客様はほんの一握りで、多くのお客様は図書館の検索端末で「ない。みつからない」とそのままにされてしまう方が多いに違いない、そのような方に、ヒントとして活用していただきたいと思ったからです。

2つ目は、レファレンスサービスの認知度を高めることです。図書館のレファレンスサービスというのは、実はかなり役立つものであるのに、知っている方は限られています。そもそもカウンターの職員に質問することを敷居が高いと思ってらっしゃる方も多いですし、電話やHPからレファレンスを依頼できるということも残念ながらあまり浸透していません。さらにレファレンスのページに誘導するためには、エンタテインメント性、すなわち「面白さ」が必要だと思います。覚え違いタイトル集は、図書館を知っていただく、訪れていただくためのしかけです。

覚え違いのページを知ってもらうことで、「図書館ってこんなことを聞いても調べてもらえるんだ」とレファレンスについて、これまでよりも理解を深めていただけたら嬉しいです。

――公開してから、反響はいかがでしたか?

公開した2007年は特段反響といったものはありませんでした。ところが2009年に初めて、今でいうバズった状態になりました。その後も3、4年毎に定期的にバズる状態になっています。ただ2020年からは、巣ごもり需要のためかは定かではありませんが話題にしてくださる方が多く、メディアからも取材の依頼が増えました。これまでに何度も話題にして頂いたことで、司書がカウンターで行っている仕事(あくまで一部ですが)がたくさんの方に知っていただけるようになったと思っております。

■覚え違いにもいくつかの傾向あり「漢字は自分が覚えたいように読んでしまう」

――現在800を超える覚え違いのタイトルが公開されていますが、利用者の“覚え違い”によって司書の方が苦労されることはよくありますか。

多くは単純な“覚え違い”ですので、司書が蔵書のデータベースを検索するときに、聞いた内容をそのまま入力せずに、こうすればヒットするだろうと予測して入力したり、掛け合わせ検索などを行えば解決することが多いです。

――「司書さん優秀」とのコメントもありましたが、“覚え違い”されている本を見つけるコツなどがあれば教えてください。

図書のデータベースで解決しない場合は、Google検索などからヒントになるようなことを見つけることが多いです。その際にどのような検索ワードで行うかが重要になってきますので、利用者の方からできるだけ多くの情報を引き出すことがコツです。また普段から話題になっていることや時事等にもアンテナを伸ばしておくとヒラメキのヒントになります。

――特に多い”覚え違い”があれば教えてください。

これという本はないですが、傾向がいくつかあります。
【1】タイトルが長くて全部覚えられない。『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』などがあります。ここまで長くなくても、覚え違いは普通にたくさんあります。

【2】タイトルの一部の言葉の順番が入れ違う。『アーモンドチョコレート入りのワルツ』正しくは『アーモンド入りチョコレートのワルツ』、『わたしとあなたの物語』正しくは『あなたとわたしの物語』、『免疫力がさいごにあなたを救う』正しくは『最後は「免疫力」があなたを救う!』、『おもてなし県庁』正しくは『県庁おもてなし課』などがあります。

【3】漢字の読み違いも多くあります。「わしだせいいち」正しくは「鷲田清一(わしだ・きよかず)」、「かこさとこ」正しくは「加古里子(かこ・さとし)」、「なかむらげん」(宗教学者)正しくは「中村元(なかむら・はじめ)、「とうのけいご」正しくは「東野圭吾(ひがしの・けいご)」などがあります。名前はわりと自分が覚えたいように読んでしまうので、覚え違いが起きやすいです。

【4】ドラマ化や映画化された原作本は、話題になりますし気になる方も多いので、カウンターで問い合わせが多くあります。よく聞かれるということは、覚え違いをされる方もその分多いような気がします。

■利用者からの情報提供による候補出しも 何か読みたいけど読みたい本が見つからない時のコツ

――印象に残っている”覚え違い”タイトルがあれば教えてください。

「はちみつとえんらい」正しくは『蜜蜂と遠雷』ですが、自分も全く同じ”覚え違い”をしていてすごく親近感を覚えました。自分で予約しようと検索したときに出てこなくて、図書館に絶対に入っている本なので”覚え違い”をしているんだと気づきました。

――「覚え違いタイトル集」に関する利用者とのエピソードなどがあれば教えてください。

「おくだなんとかさんの『さらしもの』」という問い合わせをカウンターにて受けた際、その時は残念ながら利用者が読みたかった本がどの本なのかわかりませんでした。しかし後日、「角田光代さんの『さがしもの』」「奥田英朗さんの『サウスバウンド』」「大田十折さんの『草葉の陰で見つけたもの』」など、HPにいくつもこの本じゃないかとこれまでで一番多くの情報提供をお寄せいただきました。一番最初にバズった後のことだったので、反響が大きかったのかなと思います。

――何か読みたいけど読みたい本が見つからない、といった時に本を探すヒントやコツなどがあれば教えてください。

キーワードをスペースでつなぐ掛け合わせ検索をよく使います。ほかには、新聞社の書評サイトは分野を特定せずいろんなジャンルの本が紹介されていてお薦めです。

――“おうち時間”が長い今、図書館をどのように利用してほしいですか。

当館は周辺の恵まれた自然環境と広い敷地を活かし、「緑の中の庭園図書館」をコンセプトにデザインされています。本来ならゆったりと長時間滞在して過ごしていただきたいのですが、現在はコロナ禍の中での開館ということもあり、長時間のご利用はご遠慮いただいているところです。けれども、実際に図書館で本に触れることで思わぬ発見につながることが、図書館に行って本を選んで借りる醍醐味の一つです。短い時間でもご来館いただき、その時々の特集や展示等ご覧いただき、ご自宅でじっくり読書を楽しんでいただければと思います。