音楽ストリーミングサービスSpotifyが毎年年初に発表する、今年注目の次世代アーティスト「Early Noise」。その選出アーティスト10組がこのほど発表された。プレイリストやショーケースライブなどで1年を通して継続的にサポートしていく新人プログラムで、これまで、あいみょん、Official 髭男dism、King Gnu、ビッケブランカ、Vaundy といった様々なアーティストが、同プログラムを通じて新しいリスナーを獲得し、次のステージへとステップアップしている。その確かな先見性から、年を追うごとに音楽リスナーが大きな関心を寄せる内容となっている。

【写真】Spotifyネクストブレイクアーティスト選出 福岡在住17歳の気鋭Doulら10組

■「Early Noise」選出アーティストはどれだけ能動的に聴かれているかを重要視

 その選定基準は実に明快だ。1年後に飛躍している姿がイメージできる、今後の伸びしろと可能性を感じさせるアーティストであること。また、リスニングデータの分析や音楽シーンのトレンドも予測しながら、1つのシーンやジャンルに偏らないようにしていると、Spotify Japan コンテンツ統括責任者の芦澤紀子氏は説明する。

「ストリーミング数やリスナー数はもちろんですが、どれだけ能動的に聴かれているかを重要視しています。今、話題になっているアーティストではなく、1年後にどれだけ飛躍しているかを念頭に置いて選考しています」(芦澤氏/以下同)

 能動的に聴かれている指標としては、ライブラリー(お気に入り)へのセーブ数や検索数、コンプリ―ション率(最後まで聴かれているか)、検索やアーティストページからどれだけ曲が積極的に聴かれているかなどもチェック。また、ソーシャルでのバズ(バイラルチャート)やリスナーの注目度(急上昇チャート)などの指標も参考にしながら、多角的な観点からアーティストを絞っていくわけだが、伸びしろの部分など、データ分析だけでは測れない点も多い。そこは、日々楽曲を聴いている音楽チームのスタッフの経験に基づいた“感覚”も多分に加味されるという。

 また、近年、ブレイクポイントまでのリードタイムが短くなっており、1~2ヶ月で大きくトレンドが変わるといったことも考えられるため、発表タイミングまで間を置かず、短期間でアーティストを選出するようにしているという。そのため、ここ数年は11月頃に音楽チームのスタッフが案を持ち寄ってデータ解析を行い、12月に選出アーティストが決定するというスピーディーな流れになっている。

■グローバルプログラム「RADAR」との連携強化で国内アーティスト海外に発信

5年目を迎えた今年、「Early Noise」は1つの転機を迎えた。今回より名称を「RADAR:Early Noise 2021」に改めたのだ。冠についた「RADAR」とは、2020年3月に開始したSpotifyのグローバルプログラムの名称で、世界各地の多様な新進アーティストをピックアップし、世界3億人以上の音楽リスナーに紹介することを目的としている。「Early Noise」は、その「RADAR」との連携強化を図り、気鋭の国内アーティストの作品を、国内のみならず海外のリスナーにも積極的に届けていくという。具体的には、どんな展開となっていくのだろうか。

「Spotifyは注目の次世代アーティストをサポートするプログラムを世界中で展開しています。昨年3月にそれらを“RADAR”の傘の下に束ね、1つのブランドとしてグローバルに展開して、アーティストを支援していくことになりました。昨年の“RADAR”には、日本からは、『Early Noise 2020』に選出されたRina Sawayama、Vaundy、藤井風の3組が選ばれています」

 「RADAR」に選ばれると、「RADAR」の名を冠した各マーケットのSpotify公式プレイリストへフィーチャーされ、世界中のユーザーへレコメンドされやすくなる。もちろん、「RADAR」選出アーティストは、必然的に世界のSpotifyエディターに注目されるため、多様なプレイリストで取り上げられる機会も増え、国際的な認知度が上がり再生回数の向上につながっていく。前出の3組のうち、ロンドンを拠点に活動する新人アーティスト・Rina Sawayamaは、「RADAR」ブランドの恩恵にあずかったアーティストの1人だったと、芦澤氏は振り返る。

「UKの名門レーベル『Dirty Hit』と契約していたこともあり、“RADAR”の枠組みの中で確かな手応えを得ることができました。4月に発表したアルバム(『SAWAYAMA』)の収録曲は、Spotifyで話題の新譜を紹介する人気プレイリスト「New Music Friday」に世界中でピックアップされ、ニューヨークのタイムズスクエアには、それを知らせる屋外広告も登場しました。また、Spotifyユーザーに向けたオリジナルコンテンツ『Spotify Singles』にも起用されるなど、大きな飛躍を遂げることができました」

 言うまでもないことだが、これらの展開は日本人アーティストとしては異例中の異例である。しかし、「RADAR」でピックアップされたことがきっかけで、チャンスが格段に広がることは、Rina Sawayamaの事例が証明してくれた。この成功例を踏まえ、今年は「RADAR」との連携をさらに深め、「日本のアーティストが海外のプレイリストに取り上げられる機会を増やしていきたい」と芦澤氏は意欲を燃やす。

■プレイリスト「Tokyo Super Hits」を冠したイベント開催の意義

 世界のリスナーに発見される機会を増やすという意味では、昨年11月に開催されたオンラインイベント「Tokyo Super Hits Live」も、大きな成果を残した。Spotifyには日本ローンチ時から、日本の音楽カルチャーの今を紹介するプレイリスト「Tokyo Super Hits」がある。海外では、ラップやヒップホップの最新ヒット曲を紹介する「RapCaviar」や、ラテン音楽を紹介する「Viva Latino!」といった人気プレイリストなどが、そのプレイリスト名を冠したライブを実施して注目を集めており、大きな影響力を持つようになっている。「Tokyo Super Hits」もそのような流れの中で、日本の音楽シーンを代表するプレイリストブランドとしてポジションを高め、日本のアーティストや音楽を国内外に広めていきたいという思いが込められている。

 イベント開催が告知されたのは、開催日(20年11月26日)のわずか2週間前。それでも、嵐、Perfume、End of the World、[Alexandros]、ビッケブランカ、Vaundy、マカロニえんぴつといった、誰もが知る人気アーティストから次世代アーティストまで計7組が出演する魅力的なラインアップであったこともあり、イベントの特設サイトのトータルページビューは約300万PVに達した。ライブの模様は、日本のみならず海外でも生配信され、開催当日は「#TokyoSuperHits」が、Twitterの 日本トレンド1位、世界で4位になるほど世間の大きな関心を集めた。

「このコロナ禍でSpotifyとして何ができるのだろうと考えた末に実施したイベントでした。嵐が自身のイベントやテレビ番組以外で初めて参加したイベントであったことや、当日はメンバーの大野さんの誕生日であったこともあり、ソーシャルの反響が大きかったですね。イベントでは、ライブパフォーマンスだけでなく出演者のバックグラウンドに迫る演出を行ったことで、お目当てのアーティスト目的に視聴した人も、知らなかったアーティストに出会うきっかけを提供できました」

 海外のSpotifyからも注目された本イベントは、ソーシャルの反応から見ても、満足のいく結果になったという。プレイリストの認知を高めて、世界のリスナーに日本の音楽やアーティストの発見される機会を高めていく…。プレイリストが強い影響力を発揮するストリーミングシーンにおいては、遠いようで実は1番の近道であり、確実な取り組みだと言える。グローバルとローカルの二軸でサポートを展開するSpotifyの取り組みが、今後どのような成果を挙げていくのか、期待は高まるばかりだ。「RADAR:Early Noise 2021」に選出された10組の中から、新たな成功事例が生まれることを楽しみに待ちたい。

(文・カツラギヒロコ)