昨年がちょうど生誕260年の年だった、江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎(1760-1849)。その知られざる生涯を描いた映画『HOKUSAI』が、今年、全国にて公開(配給:S・D・P)、海外でも順次公開予定となっている。この映画の一番の特徴は、浮世絵師として世に出る前の若き北斎(青年期)を柳楽優弥、その代表作であり、2020年のパスポートの図柄にも選ばれた「冨嶽三十六景」を描いた老年期を田中泯、二人一役で務めているところ。実はこの二人、撮影に入る前も、撮影中も打ち合わせを一切せずに演じたという。

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 柳楽と田中に話を聞いたのは昨年11月に行われた『第33回東京国際映画祭』の最終日。同映画祭のクロージング作品に選ばれ、ワールドプレミア上映される直前の舞台あいさつを控えたタイミングだった。

――北斎生誕260周年という記念すべき年に初披露することができてよかったですね!

【柳楽】僕は、「国際映画祭」での上映というだけでとてもうれしいです。クロージング作品に選んでいただいて、本当にありがたく思ってっています。日本の映画界は『鬼滅の刃』がすごく盛り上がっていますが、『HOKUSAI』が公開された暁には、多くの方に観ていただけるとうれしいです。

【田中】海外公演で世界中を回ってきましたが、北斎って本当によく知られているんです。日本はもちろん、世界中で今は映画どころではないという人たちがたくさんいるかと思いますが、世界中で上映されるといいなと思っています。海外にいる友人たちもすごく楽しみにしています。

――『鬼滅の刃』の主人公が使う技、”水の呼吸”も北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の波をイメージしているという話もありますし、米「LIFE」誌の“この1000年で偉大な功績を残した100人”にも唯一の日本人として選ばれたのが北斎でした。そんな北斎の生涯を二人一役で演じて、いかがでしたか?

【田中】北斎の作品やその評判に触れることは多かったのですが、彼の人生についてはあまり多くのことを知らなかったんです。今回、身をもって演じることができて、光栄でした。すごくいい経験になりました。北斎は『こんな世の中、おかしい』、『もっといい世の中がないのかな』と口癖のように言っていて、最後の最後まで権力に抵抗する姿に共感している自分がいました。お芝居ではなく、心から素直に、震えるようなせりふを発することができてうれしかったです。僕も子どものころから『大人が本当にしなければいけないことをちゃんとすれば、世の中もっと良くなるんじゃないか?』と、思っていたので、北斎に似ているところがあるかもしれない、と思えたこともうれしかったです。

【柳楽】僕も、あの絵は知っていたのですが、青年期の情報はあまり残されていないこともあり、難しかったですね。北斎は世界中の人々が知っているアーティストだということでプレッシャーもありました。でも、気にしすぎてしまうと、萎縮した北斎になってしまうと思ったので、ここは大胆にいこう、と覚悟を決めて、橋本一監督と僕たちの北斎像というものを作り上げていきました。

【田中】青年期の北斎は、悩みに悩み抜いていた時期。一方、老年期の北斎は、もっと生きたい、もっと生きたいという思いの方が強くて、自分もこの年齢ですので、嘘偽りなく年齢を感じながら演じることができましたけど、若い頃の北斎を演じるのは大変だったと思います。

【柳楽】そうなんです(笑)。僕は俳優をやらせていただいていて、絵を描き続けた北斎とは少し違いますが、(東洲斎)写楽や(喜多川)歌麿ら当時のスターたちが台頭していく中で、悔しいとか、もっと上手くなりたいという気持ちは、以前の自分を思い出すというか、自分と重なる部分もあるなと思いながら演じさせていただきました。

【田中】でも、柳楽くんの北斎あっての、僕の北斎ですからね。まさに共同作業。撮影中、一度も会わなかったけど、最高のコラボレーションができたと思っています。

【柳楽】会わなかったどころか、北斎をどう演じるかの打ち合わせもしていないんです。

【田中】二人で相談する機会を作りましょうか?と言われたんですけど、僕が「いらないです」と断りました。どんな演技をしているのか、気にしだしたらつまらなくなると思ったんです。打ち合わせすればできるってものでもないし、監督がすべてを観ているんだからそれで十分。結果、打ち合わせしなくてよかったよね。青年期と老年期の間の、今回の映画では描かれていない空白期間があることが感じられて、すごく面白くなったと思います。

【柳楽】僕も泯さんや監督を信じて、思い切り演じることができてよかったです。撮影したのは一年以上も前のことなので、客観視できる心境になっていますが、出来上がった作品を観て、泯さんの北斎とつながることができた、と思えましたし、見ごたえのある作品ができたのでは、と思います。僕は、北斎のように人生そのものがエンターテインメントになる人が大好き。勇気をもらいました。誰かが勝手に作った枠に収まらなくてもいいんだぞ、と言ってもらえているような気がしました。北斎は、「絶対あきらめない」、そのハートが僕は好きです。この映画で皆さんを勇気づけられたらいいな、と思います。

 映画『HOKUSAI』は今年5月、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国で公開予定。