昨年デビュー20周年を迎え、今年の日本アカデミー賞では『コンフィデンスマンJP プリンセス編』『MOTHER マザー』の2作で優秀主演女優賞を受賞した長澤まさみ。シリアスからコミカルまで幅広い役柄を演じ、11日公開の映画『すばらしき世界』では、ヒール役となるテレビマンに挑戦。20年間途切れることなく新たな役に挑み続けてきた印象だが、その裏には常に「孤独があった」という。10代の頃から“孤独”と向き合い、走り続けてきた長澤にその原動力を聞いた。

【写真】大胆なガーターベルト姿で色気際立つ長澤まさみ

■役に対して共感ない 自分への理解も求めていない「100%誰かを理解するのは難しい」

 『すばらしき世界』で長澤が演じた吉澤は、殺人歴がある三上正夫(役所広司)が13年ぶりに出所し、彼を番組の“ネタ”として取材するようたきつけるプロデューサー。利益のためなら下世話さや冷徹さが前面に出る“嫌な役”だ。

西川美和監督は、“この役は長澤まさみしかいない”と思ったといい「きれいな女優さんであればあるほど、なかなかヒール(悪役)を受け入れることに時間がかかると思うんです。でも今の長澤さんなら、これくらいの悪役は、跳ね返してやってくれるだろうなと思ってお願いしました」と語った。

――ヒール役となる吉澤を演じてみて、いかがでしたか?

【長澤まさみ】吉澤はテレビマンとして、深く何かを追求して伝えたいという思いがあるので、妥協しない正義感は大切にしたいと思いました。そのためなら吉澤は女の武器も使うし、何でも貪欲に取り組むので、その思いを強く意識しましたね。

――演じてみて、共感できた部分や逆に理解できなかった部分があれば教えてください。

【長澤まさみ】根本的に、役に対して共感をしようとも思っていないし、理解できないとも思わないんですよね。価値観が違うなと思うだけなので。特に吉澤は、「こういう人もいるよな」という感じでした。ただ、女性が社会で働くことの大変さは吉澤として感じましたね。

――どういった部分でそう感じたのでしょうか?

【長澤まさみ】吉澤は他にネタをとられたくない一心で動いているし、テレビマンは自分の心と感情の折り合いをつけるのが大変なんだろうなと。やっぱり厳しさの中に生まれるものはあると思うので、どこかで冷酷さも持ち合わせているんだろうと感じました。

――信念を持つがゆえに、吉澤は犠牲にするものもあったかと思います。長澤さんも女優業をしてきて、犠牲にしてきたものはあると思われますか?

【長澤まさみ】一つのことに打ち込んでいる時って意外と余裕がなくて。時間もないし、一生懸命打ち込んでいるだけなのであまり感じていないかもしれません。どの仕事にも言えると思いますが、自分がやりたいことをやっていたら、ある程度の犠牲は必要だし、それを犠牲ととるのか、自分に対しての学びととらえるのかは、人それぞれなのかなと思います。

――テレビマンを演じてみて、改めて報道する側とされる側の関係について思うことはありましたか?

【長澤まさみ】私も普段取材を受ける時は、話す言葉に気を付けて責任を持つ努力をしています。お互いにそれがあることがベストなんじゃないかと思いますね。でも、人それぞれ感じ方や思うことは違うので、自分の思っていることを100%伝えるのは難しいですよね。がんばっても伝えきれない部分もあるし、脳の中に入らない限り、本当にその人のことを知ることはできないですから。

■役と自分の狭間での葛藤もない「女優に固定されたイメージはいらない」

――これまで、世間のイメージとのギャップに苦しんだことなどはなかったですか?

【長澤まさみ】ないですね。私自身が、どういう風にとらえられてもいいかなと思っているところがあって。お芝居をしていく上では固定されたイメージを求められていないから、特に気にしていないんです。だから、役と自分の狭間での葛藤はないです。西川監督の作品の登場人物が多面的であるように、いろんな可能性を持って自分自身を育てていきたいです。

――そう思えるようになったのは、年齢を重ねてからでしょうか?

【長澤まさみ】昔からです。女優であるからにはいろんな役を演じたいっていうのは、子どもの頃から思っていました。だからイメージに苦しむこともないし、役によって感覚は違っていたいなと。

――ご自身のターニングポイントになった作品はありますか?

【長澤まさみ】今回のことで言えば、『海街diary』に巡り合えたことが大きかったと思います。あの是枝監督の現場で西川監督に認識してもらえたのだろうと。私は、その時その時でいろいろな女性像を当てはめてもらえていて、色気一つにしても『キャバレー』も『モテキ』も全部違うんですよね。最近の作品で女性的だったのは『海街diary』だと思うので、つながっているのかなと。ありがたいですね。

――これまで演じられた役で、ご自身に近い役はありましたか?

【長澤まさみ】ないですね、本当に自分とは違うなって思います(笑)。同じ価値観を持ち合わせている人っていないんだなと。とはいえ自分が演じるので、自分に寄ってくるものだし。自分ではないけれど、自分から生まれるものなので、どの役も愛着はあります。

■進化し続ける秘訣は“自分を疑う心”? 既存のイメージや価値観にとらわれない生き方

――昨年デビュー20周年を迎えられましたが、ずっと女優を続けてこられた理由は?

【長澤まさみ】やっぱりこの仕事が楽しいからですね。たくさんの人に観てもらえると、本当に嬉しくて。作品は、観てもらえて初めて生きると思うから。人に届けることのおもしろみに、自分自身がときめいているんだと思います。

――さきほど“私自身が、どういう風にとらえられてもいい”というお話もありましたが、女優をしていて孤独を感じることはありますか?

【長澤まさみ】10代でこの仕事を始めた時に、俳優ってすごく孤独な仕事だなと思ったんです。自分で台本を読んで考えて現場に行って。監督やスタッフさんはいるけれど、やっぱりそこで演じるのは自分なので。取材を受けて話した言葉の責任を取るのも自分だし、とても孤独で自分と向き合う仕事だなと。でも、そういう風に自分と向き合うことで得られた感覚もたくさんあります。

――お仕事を始めた頃から、いろいろな感情と向き合ってこられたんですね。

【長澤まさみ】俳優にはおもしろくて魅力的な方も多いので、こういう考え方をするんだって刺激を受けたり、若い頃はそれに憧れて自分に足りないものを考えたり、比較してもっとこうでありたいと思ったりもしました。孤独な仕事ですけど、新しい出会いもありますし、内にこもるのではなく、外に目を向けていきたいですね。

――広い視野を持つことで得るものがあると?

【長澤まさみ】社会が決めたルールにとらわれない価値観を持つことも重要なのかなと思います。最終的に決断するのは自分だし、人に決められて自分の人生があるわけじゃないから。そういう風にとらえたら、孤独を感じている時間よりは、この先のことを考える時間の方が長くなる気がするんです。だから悩むのも重要ですけど、悩みながら進めばいいかなと。

――最後に、今後の目標や目指す方向性があれば伺えますか?

【長澤まさみ】ちゃんと自分を疑っていける人になりたいですね。慣れてしまうことで色々な大切なことを忘れてしまいたくない、という思いがありますし、現状維持がベストだとは思わないので、甘えのない、自分の価値観を持っていられる努力をしていきたいです。


(スタイリスト=Makiko Gibson Miura/ヘアメイク=Mai Ozawa(mod's hair)/取材・文=辻内史佳)