今年、52周年を迎える国民的アニメ『サザエさん』(フジテレビ系)。昭和、平成、令和を通じて温かな家庭を描き続けてきたが、名物キャラ・ノリスケ登場回になると、「せこっ!」「クズ」などとSNSがザワつく。実際、「ノリスケ」とネットで検索するとトップ候補に“クズ”がくるなど、“ディスり”はとどまることをしらない。だがネットでの悪評に反し、“憎み切れないろくでなし”を地で行く性格と効率よく仕事をこなす様は、令和における理想的な生き方といえるのではないだろうか?

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■「セコイ」「クズ」SNSでツッコミ絶えないノリスケの言動

 波野ノリスケは磯野波平の甥にあたり、出版社(原作では大手新聞社)勤めの24~26歳。「美人でおしとやか」な妻のタイコと、「バブー」「ハーイ」でおなじみの1歳半の息子イクラの3人家族だ。そしてアニメ公式HPにある通り、「ちゃっかりしているところがありますが、憎めないタイプで何かと得をして生きている」男であり、エピソードもやたらと多い。担当の作家・伊佐坂先生の原稿待ち(仕事中)の間に隣家の磯野家に現れることが多く、そこで遠慮なく昼寝。そして冷蔵庫のジェラートを勝手に食べ、楽しみにしていたタラオを泣かせてしまう。また得意技の一つとして、居酒屋で寝たふりをし、会計後に起きるという「倹約術」(=踏み倒しテク)もお手の物。さらに会社でも同僚の前で禁煙を宣言しては、「最後の一本」をせびり、それをタバコのボックスに溜めていく等々、ノリスケのドケチぶりは枚挙に暇がない。

 また昨年12月13日の放送では、美人揃いと評判の美容院に波平とマスオを引き連れて来訪。その後、居酒屋で、「マスオさんも予約したらどうですか? おじさん(波平)は頭的に無理かもしれませんがね」と、頭髪が薄い波平(大恩人である叔父さん)をディスる。波平が「なーにが頭的だ」と怒るも「美容院に行きにくい頭ですけどね」とさらに追い打ちをかけ、波平が腕を組んで黙り込むとマスオも思わず「ノリスケくん!」とたしなめる…というシーンが繰り広げられた。
 
 このような数々の“無軌道ぶり”に、SNS上では「せこっ!」「クズ」などとノリスケに対するツッコミが後を絶たないのである。

■「憎みきれないろくでなし」昭和の“ダメ”リーマン像の元祖

 しかし、そんなノリスケにも、タラオの子守りを申し出たり、タイコが風邪のときにはおかゆを作ろうとしたりと面倒見のよい一面がある。カツオもノリスケを慕っており(外出時にはドケチのノリスケにたかられるので同行は避けている)、ノリスケ宅への外泊を楽しみにするエピソードなどから、子どもから人気がある様子がうかがえる。調子に乗りすぎて周囲に冷や汗をかかせたり、呆れられたり、たしなめられたりすることも多いが、なんだかんだと憎みきれないのは、面倒見のよさや“人たらし”的な性分が大きく作用しているからだろう。

 隙あらば仕事をサボり、セコくて、お調子者で、呆れられながらも「あいつは仕方がない」として憎悪や嫌悪の対象となるほどではない。そんな「ノリスケ的生き方」は、故・植木等さん主演の映画『無責任シリーズ』や『日本一の男シリーズ』、または『釣りバカ日誌』の浜ちゃん(浜崎伝助)的ともいえるし、社会的な非常識っぷりは『美味しんぼ』の山岡士郎などにも通じ、昭和の「憎みきれないろくでなし」的サラリーマン像の元祖=いわば定番キャラであり、みんなが「そうなりたい」と願っても中々なることはできない姿ともいえるのではないだろうか。

 こうしたストレスフリーな「ノリスケ的生き方」は、なにかと叩かれる現代社会において実際に通用するのだろうか? しかし考えてみれば、かつての昭和的な「勤務時間が長い=残業すればするほどいい」とされる考えは、令和の今となってはもう古臭く、非効率的ともされている。むしろ手を抜くところは抜き、ときには大胆に人に頼ることをためらわない“巻き込み型”の事業推進を是とする風潮が年々高まりを見せており、最小限の労力で最大限の成果を引き出す効率化が評価されるようになってきた。それはまさに、社会に最適化した「ノリスケ的生き方」といえる。
 
 ストレスによって精神的に追い込まれることもなく、手抜きや人に頼ったりしても、持ち前の人当りや面倒見のよさで人間関係も良好…このバランス感覚のよさはもはや誰もが持っているものではなく、ノリスケはむしろ仕事ができる「天才的なビジネスパーソン」かもしれないのである。

 そして担当作家の大御所・伊佐坂先生に対して物怖じもせず、ガンガンと懐に入っていくノリスケの度胸は、忖度よりも“数字”を重視する成果主義に移行している多くの企業にとって重宝する人材であるはずだ。加えて、子どもからも慕われ、陽気で茶目っ気のある親しみやすい性格は、職場でもフラットな意見を出しやすい雰囲気を作ってくれるだろう。そう考えると、ノリスケの「憎みきれないろくでなし」的な性格とは、実は誰しもが憧れるが、なかなかたどり着けない令和の時代の「理想の生き方」なのである。

 コロナ禍の今、ストレスフリーなノリスケであれば、テレワークと称しながら仕事をサボったり、寝そべったままオンライン会議に参加し、その姿が映し出されて怒られたりもしていることだろう。だが策士・ノリスケのことだ、あの手この手を使って肩の力を抜きつつ、軽やかに仕事をこなす「ノリスケ的生き方」をきっと実践していることだろう。