2009年に女優デビュー以来、NHKの連続テレビ小説『まんぷく』、ドラマ『私たちはどうかしている』(日本テレビ系)をはじめ、数々の映画やドラマ、舞台に出演している女優・岸井ゆきの。彼女の芝居は役の大小を問わず、つい目で追ってしまい、いつのまにか“心に刷り込まれる”存在感を見せる。そんな岸井は、主演ドラマ『金色の海』(NHK BSプレミアム)で2021年の幕を開ける。キャリアも10年を超え、「最近、いろいろ変化し始めている」という岸井に迫る。

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■「やっぱり朝ドラってすごい!」、秋田で感じた全国への影響力

 秋田発地域ドラマ『金色の海』は、岸井演じる、心身ともに疲労が蓄積してしまった東京で働く女性・早苗が、夫の実家である秋田県大潟村に移り住み、美しい景色と温かい人たちに囲まれ、心も体も再生していく物語。

 岸井自身も、山と川に囲まれた自然の多い地域で育ったことから、早苗のように都会でのストレスを実感することがあったという。「演じるという仕事は集中力が必要ですし、知らず知らずのうちに、ストレスが蓄積されているなと感じることはありました。私はまだ大丈夫だと思っていましたが、いつか崩れ落ちる瞬間が来るのかも…と思ったりして」と、共感できる部分が多いキャラクターだったようだ。

 そんななか赴いた秋田県の大潟村。撮影は新型コロナウイルスがいまだ猛威をふるっていた2020年9月に行われた。万全の感染症対策を施しながらの撮影は、これまでとは趣が違っていたが、圧倒的な自然の美しさのなか、「空が広くて空気がおいしい」と感じた岸井は、「本当に体中の皮膚の細胞が、ぷくぷくと潤っていく感じがして、どんどん再生されていくのが実感できました」と、劇中の早苗同様、身も心も癒された。

 また、村の人々の大らかさや温かさも印象に残っているという。「『まんぷく』が全国放送だったこともあり、『観ていたよ!』と気軽に声を掛けてくれることも多かったんです。やっぱり朝ドラってすごいなと思いましたし、嬉しかったですね」と笑顔を見せる。

 岸井と言えば、デビュー以来、連続テレビ小説や大河ドラマをはじめ、テレビドラマや映画への出演は枚挙にいとまがないが、出演時間の長短関係なく、常に心に残る演技を見せている。2020年も『浦安鉄筋家族』(テレビ東京)でぶっ飛んだ芝居を見せたかと思えば、『私たちはどうかしている』では、浜辺美波演じるヒロイン・花岡七桜の恋敵となる長谷栞に扮し、視聴者をざわつかせた。

 「私はお芝居をする上で、番手や役の大小で、向き合う気持ちを変えることは絶対嫌なんです。物語のなかでは少ない出番かもしれませんが、その人にも必ず人生がある。脚本家の方も、いらない人物を書くことはないと思うので、役に失礼のないようにしっかりまっとうしたいんです。『私たちはどうかしている』の栞も、嫌な子に見えちゃうかもしれませんが、一生懸命生きているからこそ、意地悪になってしまうこともある。どんなにウザく見えるキャラクターでも、演じる私だけは味方になってあげたいという思いで向き合っています」。

 こうした役への取り組み方だからこそ、岸井の演じるキャラクターからは、目が離せなくなってしまうのかもしれない。そんな名バイプレイヤー的な岸井も、2017年公開の『おじいちゃん、死んじゃったって』で映画初主演を務めると、映画『愛がなんだ』(2019年)、そして『金色の海』と作品の中心を務めることも多くなってきた。

 「責任感という意味では、主演というのは大きいのかもしれませんが、役に向き合う心持ちは変わっていません。ただ、必然的にシーンが多くなれば、表現することも多くなる。自然と、より深く役を理解しなければいけないということはあります。でもそれは、私にとってはすごく興味深いことなんです」。

■役への向き合い方に変化、頭でっかちにならず「もっと楽しんでやろう」

 一方で、役に深く向き合うことで、“頭でっかち”になってしまっている自分も発見できたという。

 「これまでは、まずお話として台本を読んだあと、自分の役柄として再度読む…というやり方でした。その際、より役に深く入り込むために、かなり自分と役をリンクさせようとしていたんです。演じる役に対して近い目線で分析してしまうから、私生活も役の目線になってしまうことが多い。かなり頭でっかちで視野が狭いですよね(笑)」。

 そんなやり方に少しずつ違和感を抱くようになっていたという岸井だったが、最近撮影に参加した映画の現場で、シリアスでグロテスクなシーンでも、監督がケラケラ笑って撮影しているのを目の当たりにした。「役への向き合い方にシリアスさが抜けて、もうちょっと肩の力を抜いた方がいいんだ」と実感が持てた。

 「もっと楽しんでやろう」――。岸井が出した結論。視野を広く持つことで、さらに役柄の可能性も広がる。「以前の私は駆け出しの探偵のように、『ここはこういう気持ちだから、こういう風に発言したり行動したりするんだ!』という思考でしたが、いまは名探偵のように、ドンと座って俯瞰で物事を客観的に見ている感じです(笑)」。

 現在28歳の岸井。『金色の海』で演じた早苗も29歳と、ほぼ同世代だ。「この世代って、少し心も体も疲れが出てきてしまう時期だと思うんです。特にいまはこんなご時世で、心と体の大切さがより叫ばれている。大切なものはなにか――この作品は大潟村の美しい景色と人の温かさなど、その答えがいっぱい詰まっているドラマだと思います」と見どころを語ってくれた。

 さまざまなドラマや映画、CMで見かけているうちに刷り込まれ、いつの間にか「あ、あの子がまた出ている」と、視聴者に馴染んできた岸井ゆきの。演技はもちろん、愛嬌のある顔立ちも手伝い、いつしか気になる存在になっている。本作をはじめとした活躍で、よりステップアップしていくことは間違いないだろう。

(文:磯部正和)