“天使の心を持つ”と言われた猫、ノンタン。天真爛漫でいつもご機嫌。普段はとてもかわいらしいが、脳に疾患があり、急に咬んでしまうクセがあった。安楽死させられるところを救われたノンタンを、生かすためになされた苦渋の決断とは? ブログで猫の保護活動の状況を公開しているNPO法人『ねこけん』、代表理事の溝上奈緒子氏に話を聞いた。

【写真】「かわすぎる!」天使の心を持つノンタン、障害あっても幸せに暮らす無邪気な姿

■安楽死の一歩手前で救われた、脳に障害を持つ猫

 『ねこけん』にやってきたノンタンは、とても天真爛漫な猫。いつもご機嫌で、遊ぶのが大好き。ご飯を食べるときも嬉しくて嬉しくて、喜びを体いっぱいで表現する。だが、そんなノンタンはおそらく脳に障害があり、耳も聞こえていない様子だった。「それでもノンタンは、世界一と言っても過言ではないほど、かわいい猫さんです」とブログにはつづられている。嬉しいとき、遊んで欲しいとき、甘えたいとき、いつも純粋で素直な心を持っているノンタンは、『ねこけん』でも人気者。ときどき「アオ~!」と叫んだり、急に怒り出すことがあるが、それも脳の障害が理由だと思われる。もしかしたらノンタンなりに自分がほかの子と少しだけ違うことを知っていて、それがなぜなのかわからず、心のモヤモヤを吐き出しているのかもしれない。

 『ねこけん』では平和な保護生活を送っていたノンタンだったが、実は壮絶な過去があったと、溝上氏は明かす。

 「最初、獣医師の方から相談を受けました。というのも、ノンタンは保護された方が飼っていたウサギを咬み殺してしまって。飼い主はノンタンの安楽死を希望し、病院を訪れたそうです。獣医師はノンタンを不憫に思って引き取ろうとしたんですが、転勤で動物が飼えない状態になってしまった。それで、『ねこけん』に相談に来たんです」

 “天使の心”を持っているとはいえ、『ねこけん』に来てからも、ノンタンの咬む動作は変わらなかった。

 「ゴロゴロいってても、突然咬みついてしまため、うちのスタッフもかなり咬まれました。一度、里親さんが見つかったんですが、やはり里親さんに咬みついてしまった。かなり我慢してくださったんですが、夜中に突然首を咬まれたりしたら…と怖くなってしまったようで、うちに戻ってきました。無理もないことなんです」。

 出戻ったノンタンをどうしたら救えるか――。考えた末に導きだした答えは、抜歯だった。

 「以前、アメリカに咬みつく犬がいて、みんなが安楽死を望む中、ワンちゃんを助けるために飼い主が抜歯をしたという記事を見たことがあって。私たちもノンタンの抜歯に踏み切ったんです。歯を失うことは本当にかわいそうなことなだけれど、この子を助けるためには仕方がないと苦渋の決断をしました」。

 だが、まだ若いノンタンの歯を抜いてくれる病院は簡単には見つからない。いくつもの病院で断られ、なんとか手術にこぎつけた。「健康な歯を抜くのは大変で時間もかかり、費用もかなりかかりました。かわいそうだったのですが、ノンタンが幸せに生きるためには、抜歯という選択肢しか残されていなかった」と振り返る。歯がないと日常生活に困りそうなものだが、基本、猫はご飯を丸飲みするそうで、あまり歯は使わないんだとか。高齢になった猫が抜歯することもあるため、歯がなくても普通に生活は送れるという。

■すべての事情を知ったうえで、ノンタンを引き取った家族

 あまり表に出てくることはないが、脳に疾患のある猫は少なくないと溝上氏は言う。「ノンタンの場合は、歯さえ抜いてしまえば、あとは普通に生活ができます。ほかにも、ずっと揺れ続けてしまうなど、疾患のせいで通常と異なる動きをする猫は少なくないんです。このような猫を家族に迎える場合は、人間がある程度、猫に合わせなければいけません。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を下げず、一緒に暮らしていくことが大切だと思います」。

 長らく『ねこけん』での保護生活を送っていたノンタンだったが、抜歯を経て、ついに新しい家族に出会った。譲渡会に訪れたというその家族は、すべての事情を知ったうえで、ノンタンを引き取った。家族には先住猫もいたが、専用スペースを作ってノンタンが安心して暮らせるように準備を整えたのだという。

 ノンタンの運命の家族からは、『ねこけん』にもたびたび便りが寄せられている。毎日、ママさんの腕枕で寝て、娘さんのオンライン授業中に大声で参加したり、リビングでみんなと遊んだりしているということだ。“天使の心を持つノンタン”は今、幸せな生活を送っている。

(文:今 泉)