現役の高校教師であるはまーさん。『鬼滅の刃』の煉獄杏寿郎や我妻善逸、『どうぶつの森』のしずえさんなどを落ち葉だけで描いた“落ち葉アート”に「天才」「神絵師」「こんな先生素敵」などと、SNSで反響を呼んでいる。はまーさんは美術の先生で、“落ち葉アート”だけでなく、黒板にチョークだけで絵を描く“黒板アート”も多数制作し、話題となっている。どの作品もずっと残すような作品ではなく、生徒に見せる“板書”としての役割を果たせば、躊躇なくすぐ消してしまうのだそう。生徒に教えるためだけの儚いアートを描き続ける、教師としての想いとは。

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■「魅力ある授業づくり」を目標に始めた黒板への描出 「アートではなく“板書”」

 これまでTVや新聞、雑誌など、多くのメディアで“アーティスト”として紹介されてきたはまーさんこと濵﨑先生だが、そもそも自分をアーティストだとは思っていないという。

「あくまでも教員として『魅力ある授業づくり』の一環で始め、続けていることばかりです。すべてが教材研究なんです。例えば黒板へ真剣に絵を描くこと。始めた当時は、学校の黒板にあそこまで過剰に描きこむ人が世の中に居なかったからこそ、面白いかもしれないと思い、"ワンランク上の板書"の精神で取り組みました。当時は『黒板アート』という言葉も文化も無かったので、色々と大変でした。SNS文化の発展とともに『黒板アート』が広まり、今ではその全国大会が開催されたりするなど、感慨深いものです」

 濵﨑先生は、黒板アートや落ち葉アートを教壇に立ち始めた2010年から継続している。本来の板書ならばそこまでしなくてもいい描きこみのため、基本的には勤務時間外で行っており、話題になった『鬼滅の刃』の登場人物を描いた作品は、三連休中に20時間ほどかかったのだそう。

「『鬼滅の刃』の黒板は、生徒の卒業を祝って、卒業生からのリクエストということで描きました。普段は、学習の範囲はどんどん進むし、黒板をずっと占領するわけにもいかないので、できるだけ手短に書いて、消すようにしています。はじめた頃は理解を得られずチョークの無駄遣いと言われたこともあって、学校にあるチョークと同じものを自分で買っていました。」

■日本人に刺さる刹那的な美しさ「すぐに消えてしまう作品だからこそ心に残り続ける」

 黒板アートや落ち葉アートは、絵画のように後世にまで残るような作品ではなく、すぐに消えてしまう(消してしまう)という性質がある。これらのアートには、日本人が日常の中で“美しい”と思うものと通じるところがある。

「自分がいつも感じているのは、『満開の桜』や『打ち上げ花火』などに通じる、刹那的な美しさかもしれません。儚いからこそ普段以上に目に焼き付けようとしたり、心には残り続けるといった魅力があるように感じています」

 普段はすぐに消してしまうものが多い中で、濵﨑先生がなかなか消すことができない作品もあるという。

「普段自分が描くものは『板書』としての役目さえ果たせば躊躇せず消せますが、他者が想いを込めて描いたものはやはり消しにくいものです。本来注意すべきような生徒の落書きでさえ、想いがこもっていると消しづらかったりします(笑)」

■生徒に伝えたいことは絵を上手に書く方法より「美しいものを美しいと思える心の大切さ」

 「板書」としての役割を果たせばすぐに消してしまう黒板アートや、風が吹けばすぐに崩れてしまう落ち葉アートだが、そのどれもが制作に数時間以上かかる。これほどの時間をかけて、作品を描くモチベーションはどこにあるのだろうか。

「時々自分でも何でこんなことしてるんだろう…と冷静になる瞬間があって(笑)。でもきっと、目の前の教え子に喜んでもらいたいとか、楽しんで学んでもらいたいという気持ちが大きいんだと思います。恩師から『教師は教えるプロであると同時に、学び続けるプロでなければならない』と教わったことがあって。アートというよりは教材研究、自分自身の研鑽でもあるのかなぁと思います」

 これまで数多くの作品を描いてきた濵﨑先生に、一番印象に残っている作品を聞くと、自作品ではなかった。

「描く側から描かれる側に回ったことが一度だけありまして…、自分が転勤で離任する際、生徒たちが描いてくれた黒板アートです。桜並木の道の上、笑顔で手を振る生徒たちと、それに振り返す私の手のアップの絵でした。言葉では伝えきれないような想いが詰まっていて、その黒板を消し終えた瞬間に生徒たちが涙をこぼし始めた光景、惜別の時間、教室の匂い、鮮明に焼き付いています。」

 最後に、作品を通して濵﨑先生が生徒たちに伝えたいことを聞いた。

「自分が授業で毎年生徒たちに伝えているのは、絵を上手に描くことよりも、画家の名前を覚えることよりも、『美しいものを見て、あぁ美しいなぁと感じる心』を育てる大切さです。芸術に触れ、想像や創造を通して、心豊かに、それぞれの人生を描いていってほしいなぁと思います。自分もまだまだ青いので、出会いを大切に、健康第一で、末永く生徒と共に学び続けていけたらいいなと思います」