激動の年となった2020年。芸能界も例外ではなく、改めて今年を振り返ると、中居正広・柴咲コウ・栗山千明・米倉涼子・岡田結実、山下智久、長谷川潤、有森也実、手越祐也・菊池桃子、ローラ、神田うの、江頭2:50、上坂すみれなど、タレントの事務所退所のニュースが相次いだ一年だった。直近でも、前田敦子、オリエンタルラジオなどの年内退所が発表されている。スキャンダルが生じたかたちだけではなく、自らの意思で離別を選択したタレントが多かったのが特徴だろう。さらに言えば、今年は特に大物の退所が目立っている。タレントと事務所の関係性の変化について考える。

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■“事務所を辞めたら干される”…かつては事務所主体だったパワーバランス

 事務所の退所や移籍と言えば、タレントと事務所との間に確執が生まれ、離別後はテレビなどへの露出が極端に減少…この流れが、世間一般で流布されている以前までの芸能界の常識だった。事務所を辞めることがタレントにとってマイナスな印象になる可能性が極めて高く、仮に円満退所と言っていても、それを裏付けるものはない。退所後は、元の事務所所属タレントとの共演が皆無になるなど、果たして本当に円満だったのか疑わしいタレントも多かった。

 つまり都市伝説的に“事務所を辞めたら干される”という説は当たり前のように信じられていた状況だ。実際、一昔前までは事務所の力があってこそ仕事が入るというタレントも少なくなかったと言える。だからこそSNSやインターネット掲示板では“ゴリ押し”という言葉が今も見られるわけだ。

 「現在まで続く、事務所がタレントを管理するという形を作ったのは渡辺プロダクションの創始者・渡辺晋さんだったと言われています」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「『タレントは“偶像”であるべき』という確固たる信念でマネジメントも行い、綺羅星のごときスターたちを多数輩出してきました。まさに日本芸能界黄金期を作られた伝説の人物です」(同氏)

 その後、今も続く大手芸能事務所が相次いで台頭したが、事務所が力を持つという手法は引き継がれた。『タレントは“偶像”であるべき』であるという考えも浸透したことで、事務所は”マネジメント“を行うようになり、タレントを守る…というメリットも生まれた。つまり、イメージ重視のタレントにとって、事務所を辞めるメリットはそもそもあまりない、ということもあった。

■円満退所増…“商品”としてだけでなく、“人間”としてのステップアップを応援

 しかし前述のように、今年は退所、独立が大幅に増えている。さらにいえば、円満退社も多いように見える。たとえば今年4月にジャニーズ事務所から独立した中居正広は、ほとんどの番組を在籍時と同様に継続。退所後も後輩らと多数共演するなど、それまでとほぼ変わらない活躍を続けられている。ほかブルゾンちえみ(現・藤原詩織)や山下智久など、海外での活動や、タレントが本来やりたいことを応援、尊重する向きも感じられる。これは一昔前ではあまり見られなかった光景だ。

 「平成30年、公正取引委員会が芸能人などのフリーランスにも独占禁止法を適用すると見解をまとめたことで風向きが変わったように見えます」と衣輪氏。事務所が契約を終えた芸能人の移籍や独立を一定期間制限したり、活動を妨害することを示唆したりすれば独禁法で禁じる「優越的地位の乱用」にあたるとしたものだ。

 「とは言え、事務所が懇意にしているメディアを通じて、事務所が自分たちに有利な情報や記事を作れてしまう(当人にとってネガティブな情報を流布する)など、独立したくても独立を足踏みする芸能人がいるのも事実。こうした風潮を変えたのが吉本興業で起きた闇営業問題だった。公取委の山田事務総長が、吉本興業が所属タレントと契約書を交わしてないことについて、「独占禁止法上、好ましくない」と指摘。「この辺りで完全に節目が変わった感があります」と衣輪氏は分析している。

 公正取引委員会という公的機関の動き。さらにはSNSでの炎上による事務所のイメージ低下。「とにかく公的機関が動いたことが大きい。でもそれだけでは、現状はなかったかもしれない。SNS時代という背景が、業界全体での独立への風当たりを弱まらせたと考えられる」(同氏)

 「勘違いしてほしくないのは…」と衣輪氏は続ける。「事務所の大半は基本的に所属タレントのことをきちんと考えている。独立・移籍しても今も社長やマネージャーが応援してくれていると話すタレントを何人も知っている。ですが特に大手だとお金をかけてマネジメントしたのに回収前に独立したのでは投資のやり損になってしまう。そういった問題があるから表面化しやすいだけで、そもそも昔から、すべての退所で揉めていたわけではありません」(同氏)

■“自分の力でできる”時代に、タレントも新たな活躍の場を見出す

 さらに言えば、ネットの普及で収益源が多角化したことにより、主な活動場所であったテレビが一強ではなくなったことが大きく影響している。大手の事務所だからこそできることが大きい反面、制限されることも多いはず。自分で発信できるため、やりたいことを抑えてまで、大手事務所に居続けなくてもよくなったのだ。新たな活躍の場を目指して、独立や移籍が増えるのは自然な流れと言える。

 「たとえばYouTuberとなって月収3000万以上とも報道されている手越祐也さん。11月に公開された動画の中で、ハッキリと『デカイ組織にいるより、独立したほうが稼げますよ』と話しています。また今は動画配信サービスもあります。地上波ドラマに出るより稼げる上に、Netflixなどは世界発信。さらに耳が不自由な方のために各国の言葉で字幕が出るなどのサービスもあり、日本だけの地上波より、世界に羽ばたくチャンスも増える。事務所を退所したら終わり…ではなく、新たな可能性がそこかしこにある新たな時代に我々は今、入っているのです」(衣輪氏)

 それでも個人で活躍できる人はほんの一握りということは変わらないだろう。トラブルなどを抱えた場合は全てを自分で対処しなければならず、芸能活動どころではなくなる可能性もある。

 タレントも人間。新型コロナウイルスの影響もあり、人生の先を考えることもあるかもしれない。Amazon.comの共同創設者ジェフ・ベゾスは「失敗しても後悔しない。後悔するとしたら、挑戦しなかった時だろう」と語っている。失敗を怖がっていては前に進めない。現状に甘んじていても前進はない。2021年は芸能人にとっても、そしてコロナ禍で生活やビジネスモデルの変化を余儀なくされている我々にとっても、「挑戦」の年になるのではないだろうか。


(文/西島亨)