メンタル不調は、いつ誰がなってもおかしくありません。昨今では、長びくコロナ禍によって、社会全体とそれを構成する私たち1人ひとりに、有形無形の影響が蓄積されつつあります。さらに、「いつものストレス発散」が難しい今回の年末年始は、抑うつ感が高まることも予想され、とくに注意が必要な時期。そこで、産業カウンセラー等も務める人財開発コンサルタント・石井由里さんに、メンタルに関するメカニズムや不調を見抜くポイント、“コロナうつ”への対処法などについて教えていただきました。

【チェックシート】「いつもと違う」に気づけるセルフチェック

◆2022年度からは高校等で必修科目に、メンタルヘルスの重要性

――仕事でもプライベートでも、リモートでの交流が世の中に定着してきて、2020年から21年にかけてのこの年末年始は、忘年会や新年会もオンラインで行う動きが見られています。
【石井】 Go To トラベルやGo To Eatキャンペーンもそうですが、そういうことに参加できるほど心とお金に余裕のある人もいれば、医療従事者のみなさんをはじめ、とてもそれどころではない、という方もたくさんいます。withコロナ生活がスタートしてもうすぐ1年が経ちますが、この時期は得をしている人とそうではない自分、という分断をより強く意識してしまうタイミングだともいえますね。

――広く社会的な環境やその変化が個人のメンタルに及ぼす影響は、やはり大きなものなのでしょうか。
【石井】 そもそもメンタルヘルス、心の健康について、日本に暮らす私たちはあまりリテラシーが高いとはいえません。精神疾患というものの存在を、どこかタブー視して語らず、存在しないかのように振る舞ってきた歴史的・文化的な傾向もあるのでしょう。学校でメンタルヘルスの重要性について、きちんと教えてこなかったという背景もある。ですが、日本の自殺者数は、G7では圧倒的に1位。

 厚生労働省の2017年度の調べで、10~14歳の死因の1位が「自殺」だったことが判明し、ニュースになったことは記憶に新しいと思います。全年代で捉えてもその数は多く、この2020年は11月単月でも1798人(対前年同月比11.3%増)。1月~11月までの累計自殺者数は、1万9101人(※ともに速報値)におよんでいて、当然ですが、コロナによる死者数よりも自死のほうが断然多いのです。

――自死を選択する人の原因が、精神疾患だけとは限りませんが、その大きな要因の1つになっていると。
【石井】 もちろん個人によって、その症状の現れ方も背景も違いますし、プライベートなことなので、相談するのもされるのも難しい面はあると思います。なかなか話題にしにくいうえに、インフルエンザやケガのように目には見えません。あくまで心の中で起きていることなので、現状や回復過程などもわかりにくい。ですが、心の健康を損なってしまい、メンタル不調に陥ってしまう現象は、むしろありふれた、誰にでも起こり得ることなのだと、まずは理解しておく必要があります。

◆人はなぜメンタル不調に陥ってしまうのか? 心のメカニズム

――そういえば、2022年度から実施される新しい学習指導要領では、高校の保健体育で「精神疾患の予防と回復」が扱われるようになるんですよね。ところで、そもそもなぜ人はメンタル不調に陥ってしまうのでしょうか…?
【石井】 たとえば、うつ病ではストレス耐性など個人の資質や性格、身体的な健康や社会・経済的な状況、住居や職場の環境、対人関係などなど、本当に多くの要因が複合的に影響すると考えられています。それらが有害なストレス要因として継続して働き、どんどん追い込まれてしまうと、さまざまな症状をともなった「病気」の状態にまでなってしまうことも多い。

 うつ病は、よく「心の病」といわれますが、実際には脳の中の神経伝達物質の分泌が正しく行われなくなってしまうことによる、脳の病と呼べる状態であることが知られるようになってきました。血糖値やコレステロール値のように、簡易に判明するものではありませんが、光トポグラフィでの脳の血流量測定など、診断の助けになる補助的なテクノロジーにより、少しずつ可視化されつつある。

――物理的な現象であるからこそ、薬物療法もカウンセリングとの両軸として古くから効果が認められ、行われているわけですね。
【石井】 つまり、必ずしも「心が弱い人だけがなる病気」などでは決してないということです。どんな人でもかかる可能性があります。ですが、これだけ医学が進んでも、まだうつ病のメカニズムは完璧には解明できていない。たとえば、特定の神経伝達物質の変調などが現象としては確認されていても、ではなぜ変調してしまうのか。正確な原因などは、実はまだよくわかっていません。

――とはいえ、うつ病においては、やはり強すぎるストレスが大きな原因になるということなのでしょうか。
【石井】 一般に、人のストレスへの抵抗は3段階あると考えられています。最初は「(1)警告反応期」。これは強いストレスにショックを受け、心身に不調が生じる状態。比較的、短い期間で次の「(2)抵抗期」に移行します。いわゆる、アドレナリンが出て乗り切ろうとする状態ですね。ですが、抵抗期がいつまでも持続できるわけではない。やがて「(3)疲弊期」に移っていきます。長期間の有害なストレスにさらされることで、抵抗力がだんだんと衰え、エネルギー切れの状態になる。するとまた心身の不調が表面化してきます。

――現在のコロナ禍というストレスが長引けば長引くほど、メンタルへの影響はどんどん懸念すべきものになっていくと。
【石井】 ストレスへの対処法としてまず考えられるのは、ストレス要因に働きかけ、それを取り除く、または無害なものに弱めること。ですが、新型コロナの蔓延という社会状況に由来するストレスに対しては、個人の努力で取り除くことは難しい。その場合は、ストレス反応そのものを軽減するように対処します。

 不眠や憂うつな気分、なぜかイライラする、といった症状を軽減するために、まずは自分なりの気分転換、ストレス発散などを意識して実践してみる。誰かに愚痴を聞いてもらったり、カウンセリングに相談したりすることもいいでしょう。それらを実践して、なおかつ憂うつな気分がなかなか消失しない場合には、専門医に診てもらうことを検討してください。どんな病気でもそうですが、早い段階での専門医へのアクセスは、早期の快癒を実現するために、とても有効な選択です。

◆“コロナうつ”とは? メンタル不調を見抜くポイント

――メディアなどで、“コロナうつ”という言葉にもよく接するようになりました。
【石井】 いわゆる“コロナうつ”は、正式な医学用語ではありません。「うつ」「抑うつ」を含む気分障害、または抑うつ障害群の1つ。うつっぽい気分になってしまう時は誰にでもありますが、多くの場合、趣味や好きなことなどに没頭していたら、いつの間にか払拭されていたりしますよね。それが先に述べた「憂うつな気分」です。

――コロナ禍の現在は、平時とはやはり違って、さらにメンタル不調の判別が難しくなっているのではないかとも思えます。
【石井】 新型コロナの特徴は、局地的な災害などではなく、人類全体がさらされている危機であること。未だ変異や挙動がわからないことの多い未知のウイルスであり、最適化された治療薬が未開発であるという不安もあります。さらに意地悪なのは、人から人への感染症だからこそ、直接的に人とつながることを邪魔する、他者との関係を破壊してしまいかねない性質。

――たしかに、どこか日々の楽しさや喜びが色あせてしまっています。マスク着用と乾燥で、肌荒れも気になります。
【石井】 どうしても気分は落ちこみがちになるでしょうし、イライラもする。お肌もそうですが、気持ちが荒れてしまうんです。そもそも、近年は平常時であっても、社会に対する閉塞感が指摘されていましたから、新型コロナ感染が騒がれ始めた直後よりも、メンタル的に弱ってきている人も、少しずつ増えてきている印象はあります。

◆気持ちが沈んでしまった時は意識してみよう、“コロナうつ”への対処法

――では具体的には、“コロナうつ”的な状態について、どのように対処すればいいのでしょうか。
【石井】 それこそ、先が見えない漠然とした不安を抱えて、なかなか眠れない、寝つきが悪くなったという方もいると思います。リモート環境もあり、家に居てもうまくON/OFFのスイッチが切れない。だから、就寝前に自分を癒やす儀式をワンクッション入れようと、ついついスマホのチェックや簡単なPCゲームなどに依存しがちなケースなども、年齢に関係なくよく耳にします。

 ですが、脳への入力・刺激が多すぎることで、逆にまた眠れない状態にも陥りがち。人間、質の良い睡眠がとれないと、免疫力も確実に落ちてしまいます。スマホなどの情報デバイスとは、意識して離れる時間を自分で決め、ルーティン化することも1つの手段だと思います。

――お風呂でリラックスしたり、猫と遊んだりするだけでなく、気持ちをリセットするために、しっかりPCの電源を落とし、スマホを枕の下に封印するといった儀式を決め、実行するということですか?
【石井】 あえて自分で意識し、日常のリズムを設定するということ。年末年始でいえば、今年は通常とはまったく違う時間を過ごせる、とポジティブに捉えてもいいのではないかと思います。コロナ禍での非常に特別なこの1年ほどを過ごしていながら、何事もなかったかのように「はい、じゃあ今年はここまで。来年の目標はですね…」なんて誰もできるわけがない。

 年末年始は、思い切り自分のことを内省し、振り返る時間としても貴重です。今回は、「できたこと」「できなかったこと」を改めて考え、コロナ禍が去ったらどうしたいかを自身に問う。自分が今どんな状況にあって、何を大切だと思い、何を不満に感じているのか、実はあまり真剣に考えることって意外に少ないと思います。いつもなら、忘年会だ新年会だと、周囲の雰囲気や流れに紛れ、忘れてしまいがちかもしれません。ですが、これから必ず訪れるはずの「afterコロナ」の暮らしでも、もし本格的な内省を実行できていれば、それは必ずや有益なものになるはずです。

(インタビュー・文/及川望)