かつての「女優」といえば、役者を本業としつつ、そのプロモーションとしてタレント業もこなすのが一般的だった。しかし、最近の第一線で活躍する女優を観ていると、バラエティ番組での存在感が定着した本田翼や、スポーツ番組『Going!Sports&News』(日テレ系)のキャスターに挑戦している川口春奈、『世界くらべてみたら』(TBS系)新MCに起用された上白石萌音ら、「本業」以外のタレント的な仕事も積極的に選ぶ流れが散見される。「本田翼の仕事ぶりは時代を先取りしている」と分析する早稲田大学招聘研究員の柿谷浩一氏に、彼女の活躍を例に、「女優」の立ち位置における新たな価値観の変化について話を聞いた。

【写真】黒レースのバニーにドキ! 寝そべり見上げる本田翼

■ドラマやバラエティもこなすポテンシャルの高さ、視聴者が感じる「友だち感覚」

 女優活動やモデル業に限らず、幅広いフィールドで活躍する本田翼。先日、『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)「グルメチキンレース・ゴチになります!」にて、累計自腹金額が高かったことによる“クビ”が発表され、注目を集めていた。この1年の本田の活動を振り返ると、『中居大輔と本田翼と夜な夜なラブ子さん』(TBS系/今年7月~)やなどレギュラー番組のほか、CMはアサヒビールやZOZOTOWN、明星、LINEなど約11社。このほかにも特番のMCやバラエティゲスト、eスポーツイベント出演など盛りだくさん。CM企業のジャンルからみても、同世代の若い男女だけでなく、幅広い世代にアプローチできる立ち位置であることがうかがえる。

 飾らない性格と身近な友人のような親近感を抱かせる存在感、物怖じしない率直な語り口のトークが魅力で、インスタフォロワー数は約302.4万人。YouTubeチャンネルは登録者数200万人超え。独自の世界観を構築しており、しっかりとセルフプロデュースできている印象だ(12月23日時点)。

 一方、本業の女優活動をみると、今年は人気シリーズ『絶対零度』(フジテレビ系)のヒロイン役や、『リモートで殺される』(日本テレビ系)の主演、来年1月10日放送のスペシャルドラマ『アプリで恋する20の条件』(日本テレビ系)の主演も務める。キャリアを感じさせる繊細な演技で存在感を示し、視聴者からは「作品ごとに芝居がよくなっている。多少粗さもあるがそれも持ち味」といった好評の声が多く、成長を続ける本田翼の女優としてのポテンシャルの高さがうかがえる。

 そんな本田翼の魅力について、ポップカルチャーを専門とする早稲田大学招聘研究員の柿谷浩一氏は、「例えば喋りをみても、発想や視点、話題の切り口どれも背伸びがなく「庶民的」。そのほどよい距離感が、彼女が広い層に愛されている要因になっている」という。

「長所は、何といっても“親近感”でしょう。美しくかわいいけれど、遠く離れた世界にいる「ザ・女優」という高嶺の花的な存在とは感じさせない。ああいうふうになりたい、といった羨望や憧れの対象とも少し違う。飛び抜けて明るく元気でありながら、周りに忖度せずにマイペースで、時にどんくさいダメな一面も躊躇なく見せる彼女は、どこか「友だち」に近い感覚をまとっています。それが、独特の愛着・愛嬌へ繋がっています」

■「陽キャ」と「陰キャ」の絶妙な配合具合が時流にマッチ

 さらに、メディアをはじめさまざまな活動の場において、随所で光る本田翼のコミュニケーション力についても「桁外れ」の実力とする。

「引き出しが多く、会話のリアクションスキルが高い。その一方で、「人見知り」でオタク気質な部分もある。その両面性とバランスが絶妙で、現代的なんですね。会話をする時間を彼女自信も楽しんでいて、変幻自在にコロコロ変わる笑顔とともに、その空気感がビビッドに伝わってくるのもいい。内容だけでなく、しゃべっている姿にパワーがある。それを観ていたい。あるいは、実際に話してみたくなる。そんな気持ちにさせてくれる面も、好感度を支えるポイントになっていると思います」

 笑顔が素敵なタレントはたくさんいる。そんななかで本田翼が優れているのは、どんな仕事でも場面でも、変わらない「素」のように映ることだろう。マツコデラックスが称賛していたように、どこからどこまでが本当か、むしろそうした作為や計算を考える隙を与えない。それだけ「笑うビジュアルに破壊力がある」と柿谷氏は絶賛する。

「そうした意味では、本田翼はドラマや映画などの芝居の世界の外でも、「笑う」ことにまっすぐに向き合い続けているとも言える。いつなんどきも、“笑顔”を届ける。それを一手に引き受けている彼女の立ち位置は、もっと評価されていいと思います」

■「役者重視でなくてもいい」、多様なメディアで活動する柔軟さ

 そんな本田翼には、女優業へのスタンス、メディアとの向き合い方においても先鋭的な姿勢がある。

「従来、女優といえば少しずつドラマや映画作品に出演しながら、知名度と演技力を身に着けていき、「役者」としての活躍の場を広げていく。この基本形はいまもさほど変わっていませんが、近年では女優も作品だけに留まらず、ネットを含めたさまざまメディアを行き来して、演技の裏やプライベートな部分も積極的に情報発信するのが当たり前になっています」

 柿谷氏は、そうした風潮のなかで「女優」をめぐる価値観も変容してきているとする。

「これまではどこかで役者重視というか、ドラマ・映画作品への出演を軸にした芸能評価が強かったように思います。もちろん役者一本というタイプも多くいて、それはそれですごいこと。でも視聴者が求めるのは、それが絶対というわけではない。むしろメディアが多様になって、コンテンツの選択肢も増えた現在、いい意味で“役者”をもう少し大きい括りで、柔軟に捉えて消費している人も増えつつあるのではないでしょうか」

■活躍の場はテレビのほかにも、新時代の“マルチタレント”

 本田翼の芸能活動は、本人が期せずして本当の意味での“マルチタレント”を再構築しつつあるように見える。

「女優業への想いは強いだろうが、活動全体から言えば“部分”とも取れる。しかし、それは決してネガティブなことでも、女優への本気度が低いわけでもない。むしろ、そうしたところに“役者”を取りまくメディアと視聴者の関心が高まっていて、それに合わせた構えと視野の広さを備えているように見えます」

 そうした視点があるからこそ、友人のような親近感と庶民感、癒しを与える笑顔…といった人間的な魅力が、複数のメディアを横断する形で「大衆性」を獲得し認知され、強固な土台となって彼女を下支えしている。

 すでにメディアはテレビだけではない時代に突入して久しい。これからの時代に女優が生き残っていくために大事なのは、テレビの外側で何をどれだけ培い、鍛えたかだろう。ひいてはそれがこの先のスターの条件にもなっていくかもしれない。

 さまざまなメディアコンテンツが台頭するなか、ドラマに限らず、本来テレビが持つ大衆娯楽としての強みやおもしろさは見えにくく、伝わりにくくなっているのかもしれない。そんななか柿谷氏は、「本田翼のようにテレビの外でも自身の戦う“武器”を集め、それを装備して臨むタイプの演じ手が出てくると、テレビやドラマにも従来とは違った、新たな大衆的な面白みや盛り上がりがフィードバックされていくでしょう。本田翼が、今後のテレビと役者のあり方を変えていきそうです」と期待を寄せている。