江戸時代、さまざまな文化が生まれ現代にその作品が残るなかでも、“最高傑作”の呼び声が高いのが、葛飾北斎の『富嶽三十六景』。なかでも『神奈川沖浪裏』は、大波の迫力と、白と青の鮮やかなコントラストが目を引き、日本のみならず、海外でも人気が高い。12月上旬、この『神奈川沖浪裏』を写した一枚の写真がSNSで大きな話題を呼んだ。版画でも日本画でもなく、その表現方法は『レゴ』。世界に21人しかいない、レゴ認定プロビルダー・三井淳平氏に、本作制作について話を聞いた。

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■『富嶽三十六景』は長年作りたかったテーマ

――作品発表直後からSNSに「スゴイ!」「北斎先生にも見せたい」など、大きな反響がありましたが、ご自身は今どのように受け止めていらっしゃいますか?

【三井淳平】予想以上の反応をいただき大変うれしく思っています。レゴファンの方だけでなく、広くいろいろな方に楽しんでいただけていると感じています。

――特に海外の人からのリアクションがいいように思います。

【三井淳平】北斎の作品が海外でもよく愛されていることをあらためて実感しました。有名な作品を再現・オマージュすることについては多少プレッシャーもありましたが、好意的に受け止めていただきうれしく思います。

――「長年作りたいテーマで頭の中でイメージはできていた」とつぶやかれていましたが、そもそもなぜ、このタイミングで作ろうと思われたのですか?

【三井淳平】10年前にプロの認定を受け、それ以来、レゴ認定プロビルダーとして活動していますが、当初から構想はありました。ただ、普段は企業などから依頼を受けて作品制作を行うことがメインとなっており、ありがたいことにスケジュールもタイトに依頼作品を作り続けてきたため、自由なテーマでの制作を行う機会がなかなかありませんでした。今回、『HANKYU BRICK MUSEUM』向けの作品を依頼してくださった阪急電鉄さんが、「三井さんの好きなテーマで作品制作をしてほしい」とおっしゃっていただき、長年作りたかったテーマにチャレンジする絶好の機会となりました。

■波の文献を読んで“描かれていない部分”も研究

――全部でどのくらいの時間をかけ、何ピースくらい使って制作されたのでしょうか?

【三井淳平】5万ピースを使用し、400時間かけて制作しました。

――5万ピースで400時間! あらためて、すごい大作ですね。本作のすごいところは、大波のしぶきの迫力はもちろん、平面的な版画・絵画では見ることのできない、さまざまな角度からの『神奈川沖浪裏』を見ることができます。絵画では描き切ることができない部分に関しては、どのように作られたのでしょうか?

【三井淳平】テーマが「波」という自然にあるものであり、以前から立体的な形状を頭の中でイメージできていたので、大まかな形状を予想するのはそれほど難しくありませんでした。ただ、本物らしく感じる波の形状を表現するためには、波についてよく知る必要があり、制作にあたっては波に関する論文を読んだり、波の映像をたくさん見たりして、あらためて波について勉強しました。
 また、北斎は鋭い観察眼で作品を描いていたため、多少のデフォルメはあるものの、波としての構造に破綻ないようにしっかり描かれていたことも、上手く再現できた理由の一つだと思います。

――以前のインタビューで、「制作途中はいつも試行錯誤の繰り返し。制作途中はいつも試行錯誤の繰り返し作っている途中で強度が足りないと感じたときには、構造を変えたり補強を増やしたり工夫が必要になります」とおっしゃっていました。今作では、強度も含め、どのような点で苦労されましたか?

【三井淳平】高さのある大波の部分ももちろん苦労はあったのですが、意外と手前側の高低差の少ない波の部分を作るのが大変でした。高低差が少ない分、ちょっとした波の高さの違いが見た目に大きく影響しますし、大きな作品なので作品の上に乗って作業することもあるため、十分な強度を確保する必要もありました。

――本作制作時に一番こだわったところを、お教えいただけますか?

【三井淳平】立体化するにあたってどの角度から見ても破綻することなく、説得力のある作品にしたいと考えました。そのため、先述したように波に関する論文を読んだり、波の映像を見たり、波そのものについても研究しました。また、『神奈川沖浪裏』の特徴でもある白波の砕ける様子を細かいパーツを組み合わせて表現しています。あまり特殊なものは使用しておらず、市販のセットにもよく入っているパーツを使用しています。

■レゴ×日本の相性の良さを生かし“日本らしい作品”を世界に発信したい

――本作を含め三井さんは、日本の伝統的な建物の作品を数多く生み出されています。海外のブロックであるレゴで、日本の伝統的な建物や風景を制作することは、一見親和性がないようにも思ってしまいますが、どのようにお考えですか?

【三井淳平】レゴブロックはデンマーク発のおもちゃで西洋的なものですが、カラフルな色合いは意外と日本の伝統的なものともマッチすると思っています。一方で、日本の伝統的なアイテムには美しい曲線・曲面が内包されており、それらを角張ったブロックを使っていかに自然に表現するかがポイントだと思っています。

――確かに三井さんがお作りになる作品は、どれも違和感なく“自然”に表現されています。三井さんご自身は、建築物や風景など“日本のもの”へのこだわりを強くお持ちのようですが、いかがですか?

【三井淳平】レゴ認定プロビルダーはいろいろな国にいてそれぞれお国柄があって面白いのですが、日本人としては「ただ日本っぽいもの」を作るのではなく、文化的な背景も踏まえ繊細なニュアンスまで表現した日本らしい作品作りをしたいと考えています。これからもレゴブロックを使って日本の文化を表現し、世界に発信していきたいと思っています。

――本作を作り上げたことで、次作への期待が高まりますが、次作の構想はございますか?

【三井淳平】いつも新しい試みをしたいと思っており、アイデアはいくつか温めてあります。また、さまざまなコンテンツと掛け合わせやすいのがレゴブロックの良いところなので、これからも新たな組み合わせを発見していきたいです。今までに見たことないようなものをレゴブロックで作っていきたいと思いますので、楽しみにしていただければと思います。

――最後に本作を見て、レゴに夢を感じている子どもたちへメッセージをお願いします。

【三井淳平】最初から大きなものを作ろうとすると難しかったりしますが、例えば「白波の細かいパーツの組み合わせを真似して作ってみよう」「船の乗組員を真似して作ってみよう」といった小さいところからスタートするとハードルも下がって良いと思います。真似して作ってみたいという気持ちは創作の第一歩だと思いますので、大きさにはこだわらず、まずは手を動かして何か作ってみたいと思うきっかけになれば嬉しく思います。