先日最終回を迎えたドラマ『35歳の少女』(日本テレビ系)で、柴咲コウ演じる望美の母・多恵を好演していた女優・鈴木保奈美。白髪で“鉄の母”を演じる姿は、存在感抜群だった。そんな鈴木が、映画『おとなの事情 スマホをのぞいたら』(2021年1月8日公開)では、人に知られたくない“おとなの事情”を抱えながら、スマホの秘密を暴露し合うゲームに参加する精神科医・絵里に扮する。個性派が集うシチュエーションコメディのなかでも、強い存在感を示した鈴木。気がつけばデビュー以来35年近い歳月が流れたが、いまの鈴木の現在地とは――。

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■お互いの秘密が暴露され…「夫婦も友人関係も、白か黒かだけでは語れない」

 本作は、3組の夫婦と1人の独身男性が、自身のスマホに届くすべての電話やメッセージを全員に公開するというゲームを始め、人に知られたくない秘密が次々と暴露されていく――という物語。野次馬的に観ている方はいいが、実際自分が参加するなら、後ろめたい気持ちがなくても二の足を踏むだろう。

 岡田惠和の脚本の妙が光る作品だという本作について、鈴木は「一般的に、後ろめたいことがあっても“自分は大丈夫だろう”と甘く考えちゃうところってあると思うんですよね。私もわりと自分に都合の良いようにモノを考えがちなので、この作品もリアルに感じられるのかなと思いました」と、絶妙なラインを描いた映画であることを強調する。

 お互いの秘密が暴露されていく過程で7人の関係が崩壊していくさまが、かなりブラックに描かれている本作。鈴木は、「夫婦にしても友人関係にしても、白か黒かだけでは語れない。グレーな部分って結構あると思うんです。機械なら白黒はっきりつきますが、人間ってそういうものじゃないと、私自身も思います。そんな曖昧さも描かれた作品だと思います」と見どころを語る。

■女優業スタートから35年、「自分が40代、50代になるなんて思ってもいなかった」

 「正解がない」という言葉を、もっとも強く感じるのが俳優業なのかもしれない。長く続けていても、「芝居の正解がわからない」と答える人は多い。鈴木も、気がつけば女優業を始めて約35年という時間が流れた。

 「10代、20代は、人生に対して明確なビジョンを持っていなかった気がします。もちろん、ずっとこの仕事を続けていけたらいいなという思いはあったかもしれません。でも、そもそもこの仕事を始めた20歳のころは、自分が40代、50代になるなんて、思ってもいませんでしたからね(笑)」。

 続けて鈴木は、「ただの学生からいきなり大人の世界に入って、色々なところに行って、色々な人と会うなかで、スクリーンやテレビに自分が映し出される憧れみたいなものはありました。でもやっぱり、いまの年齢になった方が、自分がお芝居をする意味や仕事としての自覚はリアルにあります」と胸の内を明かす。

 あまり仕事に対してリアリティーを感じていなかったという20代。そんななかでも、『東京ラブストーリー』や『愛という名のもとに』、『この世の果て』(すべてフジテレビ系)など、大ヒットドラマへの出演が続いた。世間の盛り上がりの真っただ中にいたように思われるが、そうでもないらしい。

 「舞台や音楽をやっている人だと、目の前のお客さんの反応がわかると思うのですが、基本的に私はテレビドラマの世界で生きていたので、視聴者やファンの方と接する機会があまりなかったんです。周囲から『視聴率が良かったよ』と言われても、それで飛躍的に収入が増えて『車を買いました!』とかもなければ(笑)、大きな生活の変化もない。ひたすら現場に行って撮影して…の繰り返しで年月が過ぎていった感じなんです」。

 それは、社会現象にまでなった連続ドラマ『東京ラブストーリー』のときも同じだったという。「当時、すごく盛り上がっているという実感はありませんでした。逆にいまになって映画のお仕事で中国などに行くと、若いスタッフさんが私の顔を見て『リカ!』って泣き出すほど、感激してくださって。そういうのを目の当たりにして、『すごい作品に出ていたんだな』と実感することがあります」と笑う。

 2018年に放送された『SUITS/スーツ』(フジテレビ系)では『東京ラブストーリー』以来、織田裕二との27年ぶりの共演が話題になった。現場では、そこまで当時の話をすることはなかったというが、「芝居の合間で『こういうセリフの間とか動きは、あのとき学んだね』なんて話はします。すごく良い時代に、良い作品に出会えたなというのは感じますね」と懐かしそうに話していた。

■『35歳の少女』白髪の“鉄の母”役、「変身願望が満たされた」

 「目の前ことで精一杯だった」という怒涛の20代、そして結婚や出産、子育てで女優業を休んだ時期もあったが、そのときは「先のことを考えて計画的にやるタイプではなかったので、あまり焦りや不安はなかった」と語った鈴木。復帰後は、カッコイイ大人の女性から、『35歳の少女』のような白髪の“鉄の母”など個性的な役を演じることもあり、芝居の幅が広がった印象がある。

 「自分で自分を変える勇気はないので、お芝居の世界で色々な役を演じさせてもらえることは、すごく嬉しい。もともと変身願望やコスプレ願望はあるので、役を通してそれが満たされるというのはいいですよね。『35歳の少女』も、『脚本の遊川(和彦)さんが白髪にしてくれって言うからやったんです!』って言い訳できるじゃないですか(笑)」。

 自分を変えることに対する嫌悪感はまったくないと語った鈴木。映画『おとなの事情 スマホをのぞいたら』でも、東山紀之、常盤貴子、益岡徹、田口浩正、木南晴夏、淵上泰史という芸達者な俳優たちと、ギリギリの心理戦を繰り広げる。

 まさにベテランならではの味のある芝居を見せているが「年を重ねることにはいいことも、残念なこともあります。『もっと早く気づいていれば』と、後悔することもあります。でもポジティブに考えるか、ネガティブに考えるかは自分次第。どうせ、あと何十年か生きるなら、楽しい方がいいじゃないですか」とあっけらかんと話す姿は、とても魅力的だった。

(取材・文:磯部正和)