今年9月にバンダイナムコアーツと音楽プロダクションbluesofaが設立した音楽レーベル「Purple One Star」の第1弾アーティストとして、ミニアルバム『Moonrise』でソロアーティストとしてデビューした声優・降幡愛。12月23日には、早くも6曲入りの2ndミニアルバム『メイクアップ』をリリースした。音楽プロデューサー・本間昭光氏とのタッグで展開するソロプロジェクトのコンセプトは「2020年代の本格80'sシティポップ」。本作でも全曲の作詞を降幡が手掛け、本間が作編曲、さらに80年代のキラ星のごとき楽曲を奏でてきたレジェンダリーなミュージシャンが集結し、令和の冬を彩るキラメキの80'sサウンドが表現されている。降幡×本間による対談で本作のこだわりや、コロナ禍における音楽とライブの届け方、プロジェクトの展望について語ってもらった。

【写真】降幡 愛、レコーディングの模様

■秀逸な言語感覚。新作では80'sポップスの“自分節”な歌詞に挑戦

──前作からわずか3ヶ月とハイペースなリリースに驚いています。

【本間昭光】ハイペースではありますが、クオリティは落としてないですよ。このプロジェクトは“全曲A面対応”。ミニアルバムのどこを切り取っても、シングルのA面にできるくらい濃いインパクトのある曲を揃えるのがコンセプトですから。

【降幡 愛】ふふふ。ただし「SIDE B」だけはシングルB面をイメージしました。この曲はデビューミニアルバム『Moonrise』収録の「Yの悲劇」のアンサーソングなのですが、A面はどこまでもキャッチーで、B面に遊び心を込めるのも80'sっぽいなと思いまして。

【本間】とにかく降幡さんが次から次へと歌詞を書いてくるので、こうなったらもう出し惜しみすることなくどんどん出していこうということで、2ndミニアルバム『メイクアップ』の完成となりました。

──このプロジェクトでは、すべての楽曲を詞先で制作されているそうですね。

【本間】そうなんです。プロジェクトの立ち上げにあたって、降幡さんが企画書にアーティスト活動のコンセプトと共に歌詞まで書いてきてくれたんですね。歌詞やその世界観は「ホンモノだな」と驚かされる完成度で、それがそのまま『Moonrise』のリード曲「CITY」になりました。そんなデビュー作の制作を経て、作詞の腕も完全に確立されましたね。歌詞のストーリーの回収具合や音節の乗り方など、プロの作詞家の仕事ですよ。

【降幡】うれしいです。「真冬のシアーマインド」は歌詞を送ってすぐにメロディーが浮かんだとおっしゃってくださって。

【本間】僕も広瀬香美プロジェクトで80年代後半~90年代初頭、これでもかというくらい冬の曲を書いてきましたからね(笑)。当時のスキーCMやゲレンデで流れても、ハマる曲になったと思っています。だけどこの曲の秀逸なところは「シアーマインド」という言語感覚。これって降幡さんの造語でしょ?

【降幡】はい。80'sポップスの歌詞にはよくカタカナ造語みたいなものが登場するじゃないですか。字面だけでは意味が通らないけどキャッチーで、しかもメロディーに乗せたときに1つのワードには留まらない想像を広げてくれるような。80'sポップスにはそういった作詞家の方の“自分節”なセンスが詰まった楽曲がたくさんあって、今作で挑戦してみたかったことの1つでした。

【本間】降幡さんの80'sポップスの解釈は実に的確ですよ。単に感覚で捉えているだけではなく、当時の音楽評論家とリスナー、両方の視点を持っているんです。

【降幡】それはたぶん私が80'sのリアルタイム世代じゃないからかもしれないです。だからこそ憧れと妄想が色濃く出てしまう。

【本間】それを自分のフィルターを通して言語化する作詞家の視点まで持ち合わせているから、降幡さんの歌詞はリアル以上の説得力を持って突き刺さってきます。レコーディングやライブに参加しているレジェンドなミュージシャンたちもすっかり降幡さんに惚れ込んで、このプロジェクトをワクワク楽しんでいますよ。

■コロナ禍に試行錯誤で行ったレコーディング。1曲1曲を深める貴重な時間

──降幡さんは作詞する時点でメロディーもイメージされているとか。

【降幡】本間さんには歌詞と一緒にイメージ楽曲も送っています。例えば、「桃源郷白書」という曲はチャイナ歌謡ポップスみたいにしたいなと思って、山口美央子さんの「夢飛行」を添付しました。

【本間】そのイメージを尊重しつつ、楽器も二胡とかを入れて。ただ僕が書いているうちに「夢飛行」よりも、ちょっとテクノ歌謡なエッセンスが入ってしまいました。降幡さんの当初のイメージにはなかったかもしれないけど。

【降幡】いえいえ、やっぱり本間さんは80'sをリアルタイムでご存知なだけに、私にはない引き出しをたくさんお持ちなので、曲がどんどん変化していくのも新鮮でした。

【本間】曲作りのプロセスとしては、まず降幡さんから歌詞が送られてきて、そこにシンプルなピアノとリズム、それから「AIきりたん」という音声合成ソフトで歌ったものを降幡さんに送るんです。

──サウンドは80'sですが、制作は完全に2020年代の手法ですね。

【本間】そうですね。しかも『Moonrise』はギリギリ大丈夫だったけど、今作の制作が始まったのは新型コロナ感染拡大の真っ只中。レコーディングを開始した頃は緊急事態宣言も出ていたので、スタジオに集まることができなかったので色々試行錯誤しました。例えば、ミュージシャンやスタッフとスタジオをリモートでつないで、逐一音源を送るなどしていましたね。

【降幡】6、7時間つなぎっぱなしで、なかなか貴重な体験でしたね。ただ私はけっこうこの状況をポジティブに受け止めていました。『Moonrise』以上に1曲1曲を深める時間もできましたし、何よりお忙しい本間さんを独り占めできた感覚がありましたから。

【本間】僕も普段の1.5倍は1曲ごとに費やせた感覚がありますね。またこのコロナ禍で開発者もヒマだったのか(苦笑)、デビュー作を制作していたとき以上にプラグインエフェクター(パソコン内で単体のエフェクターを再現することができるソフトウェア)の性能が充実してきていまして。つまり80年代には何百万もしたエフェクターが画面上に出てきて、その音がすごくナチュラルに再現できるんです。そして、それを使うのが、当時の現場を知っているオッサンたちなわけですから…。

【降幡】オッサンって(笑)。レジェンダリーなミュージシャンの方々ですよね。

【本間】そう表現したほうがいいかな(笑)。要はものすごくきらびやかなシンセの音色でも、シンセ本体でセッティングするのとミックスで作るのとではサウンドのニュアンスが微妙に違うんですよ。だから若い子が80年代の音を作ろうとすると、トゥーマッチになってしまう。だけど僕らは、リアルタイムのスタジオでどうやって音作りをしていたか知っているから、当時の本物のサウンドを作ることができる。そこはこのプロジェクトのアドバンテージですよね。

■ライブを意識した曲作り。こんな状況だから客席の誰1人として置いてけぼりにしたくない

──11月に行われた初のワンマンライブ(『Ai Furihata “Trip to ORIGIN”』)のアンコールでは、2ndミニアルバムからの曲も披露されました。

【本間】レコーディングの歌入れがすべて終わり、降幡さんも自分の歌の表現を確立したタイミングでもあって、すごくいいライブでした。

【降幡】『Moonrise』では自分の歌声を探り探りで出しているところもありましたが、今作の「RUMIKO」という曲のレコーディングで、艶っぽくアダルトな感じというアーティスト・降幡愛の歌い方が形になった感覚があって。それを持って、ライブに臨めたのは本当によかったです。

【本間】これまでアニメ作品のキャラクターソングを歌ってきた分、ファンの人も驚いたと思いますよ。

【降幡】同じ人が歌っているの? ってよく言われます(笑)。

【本間】声優さんだけあって、『Moonrise』の時から声のニュアンスで歌詞の世界を表現する力には長けていらっしゃるなとは思っていました。ただこれまで「演じる」ところに重きを置いていた分、自分の歌声で表現するということに最初は戸惑いもあったのかもしれない。でも今作を経て、今は完全にソロのシンガーとしての歌世界が確立されましたね。

──コロナ禍が完全に収束しない中でのライブ開催に不安はなかったですか。

【降幡】こういうご時世なのでお客さんも声援を上げたりはできなかったのですが、その分、振りや手拍子で楽しんでくださって、皆さんの愛を肌で感じることができたライブでした。声は交わせないけど心は通じ合っているみたいな。特に『メイクアップ』はライブを想定して曲作りをしてきたので、いち早くお聴かせできて本当にうれしかったです。

【本間】ライブを意識した曲作りをする上で、普段だとコール&レスポンスを入れたくなるんですよ。ただこの状況がある程度続くかなという予想もあって、収録曲は声援ではない形でお客さんがライブに参加できるように、ということをかなり考えましたね。それこそ「真冬のシアーマインド」には生のクラップを入れてみたり…。

【降幡】ライブで披露した時も、初めて聴く方が参加できるようにコーラスの会原実希さんがクラップを先導してくださって。どんな状況でも、やっぱり一体感を味わえてこそのライブだと思いますし、来年2月にもライブが決定していますが、客席の誰1人として置いてけぼりにしないパフォーマンスというものを私もさらに考えて臨みたいですね。

【本間】お客さんも声を出せないとか我慢を強いられたところはあったにせよ、久しぶりのライブで降幡さんに会えてうれしかったと思うんです。またこんな状況だからこそ希望を伝えるのがエンターテインメントの役割であって、だからこそこのプロジェクトも止めてはいけないんです。

【降幡】むしろ加速してないですか? いろんな物事がストップしている最中でも、ノンストップで突き進んでいる感覚があります。

【本間】確かにね。来年どんな状況になっているか予測はつかないけれど、たぶん今よりもう一歩はエンタメを楽しむ方策が出てくるような気がしています。降幡さんの作詞も留まるところを知らないし、来年はこのプロジェクトもさらに面白いことになると思いますね。

(文・児玉澄子)

降幡 愛
2ndミニアルバム『メイクアップ』
12月23日発売
■初回限定盤(LAPS-35002~3)
形態:1CD+ Blu-ray
価格:3800円+税
■通常盤(LAPS-5002)
形態:1CD
定価:2300円+税

●降幡 愛(フリハタ・アイ)
2月19日生まれ、長野県出身。2015年に『ラブライブ!サンシャイン!!』の出演が決まり、黒澤ルビィ役で本格声優デビュー。
同作品のスクールアイドルグループAqoursのメンバーとして活動し、18年には東京ドーム2Daysのライブにて、国内外ライブビューイングを含め15万人を動員。同年末の第69回NHK紅白歌合戦に出演を果たした。
声優以外にも多岐にわたって活動しており、17年からは『フォトテクニックデジタル』にて「降幡写真工房」の連載を行っている。19年には、自身初となる写真集『降幡愛写真集 いとしき』を発売。5/6付オリコン週間BOOKランキングジャンル別写真集(集計期間:4月22日~4月28日)では、初登場1位を獲得した。多彩な才能を持ち、ファンからは“職人”とも呼ばれる彼女が、20年初秋、満を持してのソロアーティストデビュー。ソロアーティストとして、80’sシティポップを発信していく。

●本間昭光(ホンマ・アキミツ)
12月19日生まれ、大阪府出身。作編曲家、キーボーディスト、プロデューサー。1996年に独自のポップな音楽センスを生かしたプロデュースワークを目指し、(有)bluesofaを設立。これまでに槇原敬之のバンドマスター、ポルノグラフィティへの楽曲提供、プロデュースなどを手がける。近年は鈴木雅之、渡辺美里、いきものがかり、木村カエラ、岡崎体育、Sexy Zoneなどさまざまなアーティストを手がけ、また、野外フェス「長岡米百俵フェス」のキュレーターや、テレビ朝日「関ジャム 完全燃SHOW」ゲスト出演など、精力的に活動の幅を広げている。20年から「Purple One Star」レーベルプロデューサーを担っている。