お笑いに向き合う真摯でストイックな姿勢でも知られるジャルジャル。初優勝した『キングオブコント2020』や大晦日9時間ライブなど、芸歴17年にしてなお激しい競争の場に身を置き、YouTubeでの毎日ネタ配信で貪欲に芸を磨く。そんな“天下取り”にこだわる姿勢は、第7世代を中心とした昨今のお笑いシーンのどこか和やかな空気感とは異なる。個人としては『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(小学館)で小説家デビューという新たな表現にも挑戦した福徳秀介に、丸くなったと言われる自身の現在地、ジャルジャルの目指す頂点について聞いた。

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◆芸人と小説家の仕事は地続き “芸人なのに良い本を書く”フリになる

――小説家デビューされました。お笑いにストイックな福徳さんが、小説で表現をしようと思った真意を教えてください。

【福徳秀介】 そもそも芸人は普段ネタを書いているから、仕事上書くことが得意な人も多いと思います。僕は学生時代、恋愛小説ばかり読んでいたんですけど、書くことも好きでした。芸人になってから小説執筆を勧められて、気づいたら2年くらい書き続けていたなか出版のお話をいただき、挑戦することにしました。そこから改稿に改稿を重ねてようやく出版へ。4年間をかけた渾身作です。

――芸人として人を笑わせる、小説で自身の思いを伝える。表現の違いはどう意識していますか。

【福徳秀介】 小説では自分を表現するという感覚はないです。小説に本気で取り組めば、良い本ができると思う。真面目な良い本を書けば、“芸人なのに良い本を書くやつ”っていうフリにもなるし、ネタに良い役目を与えることもあります。それがより笑いを増幅させる。そういう意味では、お笑いも小説も地続きで、双方に良い影響を与え合います。基本的に僕は100%芸人ですが、ネタも小説も“ものづくり”をしているという感覚は同じ。頭のなかで仕切りはありません。

――『キングオブコント』は13度目の挑戦での頂点。毎年競争の場に出続けてきた裏にある思いとは?

【福徳秀介】 「コントの賞レースでタイトルをとらないことには、この先ずっとやり続けることはできない」という意識がモチベーションになっていました。1度だけでもコントのチャンピオンという称号が欲しかった。高校時代ラグビー部で体育会系のジャルジャルとしては、負けたままでは終われない。優勝するまで出続けると決めていました。

――頂点に立って変わってことはありますか?

【福徳秀介】 周囲の評価ですね。以前はジャルジャルって尖っていて扱いにくいというイメージがあったと思うんですが、「13回挑戦し続けるただのコント好き」とわかってもらえた気がします。ぜんぜん尖ってない(笑)。ただ、いろいろなお仕事のお話をいただけるのはありがたいんですが、僕らはネタ番組を中心に出演したいです。

――そういうスタンスがジャルジャルらしい尖った姿勢に思えますが…。

【福徳秀介】 トークやバラエティに出ないのは、苦手だからです。芸歴18年目ですから、コンテスト優勝をきっかけにメディア出演を増やしたり、仕事の幅を広げたりという時期は過ぎています。10年目までそのスタンスでいろいろやった結果、僕らは向いていないということに気づいて。出演しても盛り上げることができないですし、それでギャラをもらうのも申し訳ないなと。

◆ナインティナイン以降のスターが育たない? チャンピオンの賞味期限が1年、賞レース至上主義の弊害

――お笑いコンテストが盛り上がる一方、そこだけにメディアが一極集中しすぎるような賞レース至上主義の弊害を感じることはありませんか?

【福徳秀介】 同期のプラス・マイナスは、劇場では誰よりも笑いを取っている。『M-1』決勝に出たことはないけれど、ファイナリストたちよりも圧倒的におもしろい。でも、それを知っているのは劇場に足を運ぶごく一部の人たちだけ。テレビでは伝わらない事実ですよね。ただ、彼らがネタ番組で劇場と同じ爆笑をとれるかというと、ネタとテレビ尺などの相性もあって、また別の話になる。芸人それぞれの特性があって、メディアとの相性もあります。今ネタ番組が増えていますが、テレビが芸人の特性にあった見せ方をするように変わっていったら、本当におもしろい芸人がもっと世の中に知ってもらえるようになるんじゃないかと思います。

――お笑い界のトップスターの系譜を見ていくと、ナインティナイン以降、スターが生まれにくいように感じます。昨今のお笑いシーンにスターを育む土壌がなくなってきていることはないでしょうか。

【福徳秀介】 賞レースは毎年チャンピオンが生まれて、年々数が増えていきます。それも変な話ですよね。チャンピオンの賞味期限が1年になってしまっている。ただ、賞レースはあったほうがいいと僕は思っています。お笑い界が盛り上がりますから。一方、お笑いに点数をつける難しさが何よりもあります。お笑は、0点、50点、100点の3つしかないと思うんです。おもしろいは100点、ちょっとおもしろいは50点、あわないは0点。そこそこおもしろいとかはない。いつかこの3つしかないコンテストができたらいいなと思ったりします。

◆ネタへの愛でコント界の頂点に立つことで“お笑い天下”をとる

――大阪から東京へ出てきたころのジャルジャルはすごく尖ってピリピリしていました。どこかの時点で丸くなったイメージがあります。

【福徳秀介】 テレビ番組で前に出るというスタンスを捨てなかったんですが、ある時期から、それに向いていない、誰も僕らが前に出ることを求めていないことに気づいて。トークやバラエティで自己アピールするのをやめました。それが5年前にYouTubeでネタの毎日配信を始めてから、「マジのネタ狂い」って認知されていって。少しずつネタで評価されてきたころから、トークで認められなくてもいいって思うようになりました。そこから尖り部分が消えたかもしれないですね。それにもう30代後半ですから、もういいかげん言われないですよね(笑)。

――丸くなったとしても、“お笑いで天下をとる”という意識は変わらない? かつてのようなテレビ全盛期ではない今、何をもって天下とするかは難しいかもしれませんが。

【福徳秀介】 もちろんその意識はずっと持ち続けています。今はお笑い界の頂点の分野が多すぎるんじゃないでしょうか。僕らにとっては、ネタ数のトップになることが天下を取ること。ネタへの愛でコント界の頂点に立つということですかね。そこから日本一のお笑い芸人、そして世界一のコメディアンへというのが、めざすべき目標です。

――昨今の第7世代を中心にしたお笑いシーンは、競争や勝ち負けよりも皆で盛り上がっていこうといった和やかな雰囲気のように感じられます。勝負にこだわるジャルジャルさんから見ると、今の時代にぬるさを感じることもありませんか?

【福徳秀介】 それはまったくないです。たしかにそういう時代とは言われていますが、皆がんばっていて。お笑い界のことを考えながら、努力を続けてあれだけの活躍ができるんです。僕はいち視聴者として第7世代を観ていますが、ライバル意識もなく、がんばってほしいなと応援しています。

◆人を傷つけない笑いなんて存在しない メディアを選んで確信的にやる

――時代的に人を傷つけない笑いが求められているとも言われます。ジャルジャルのスタンスとは相容れないようにも感じます。

【福徳秀介】 お笑はどんなネタでもどこかで誰かを傷つけると僕は思うんです。全く人を傷つけない笑いなんて存在しない。一方、鬼越トマホークはダークな笑いのようで、特定のタレントを傷つけるだけで、そのほかの人は誰も傷つけない。あれこそ誰も傷つけないお笑いだと思うんですよね。

――ジャルジャルさんのネタ作りでは、そこは意識されていますか?

【福徳秀介】 僕らは全く意識していないです。むしろ、この笑いは誰かの気に障っているかもしれないと思う時があります。そういうネタはテレビではやらないけど、舞台ではやって、YouTubeでは気をつけながらやる。メディアを選ぶ配慮はしています。

――YouTubeはテレビのような忖度や自主規制がありません。芸人にとってはネタを見せる理想的なメディアになっているようですね。

【福徳秀介】 YouTubeの最大の魅力は、僕らのネタを観たい人が観ていること。その人たちのためにやる、両思いコンテンツなんです。ありのままを見せることができる場で、テレビではそうならない。そういった意味で最高のメディアだと思います。もちろん活動の場としてメディアの優先順位はありません。ネタができる場所であればどこでもかまわない。10年ごとのお笑いブームが来ていますが、僕らはなにも変わらずネタをやるだけ。2〜3年後にブームの波が過ぎても変わらない。ネタをやり続けておっさんになっていって、年輪で認めてもらうしかないと思っています。

(文/武井保之)