映画やコミックなど、歴史的なヒットを続ける『鬼滅の刃』。ストーリー性はもちろん、個性豊かなキャラクター描写も人気で、子どもから大人まで幅広い世代をとりこにしている。それだけに、ファンの中には好きなキャラ=“推し”を表明し、グッズなどを集める人も多い。アニメを用いたカウンセリングも行う、心理カウンセラーの浮世満理子氏は、「どんな人物が好きかを分析していくことで自己理解が進む」と語る。それぞれの“推し”の裏側には、どんな深層心理が潜んでいるのか? 前編では、まずは主要キャラである炭治郎、善逸、伊之助らについて聞いた(後編は後日公開)。

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※一部、ネタバレになる内容を含んでいます。

■ “推しキャラ”を意識することが、メンタルトレーニングになる

――登場人物の性格や背景も様々で、主要キャラクター以外も人気がある『鬼滅の刃』。どのキャラが好きかによって、選んだ人の個性や心理状態が見えてくるそうですね。

 「どんな性格の、どんな立ち位置の人物が好きか、それを分析していくことで自己理解が進みます。なぜなら、“推しキャラ”というのは、その人の憧れの対象であることが多いから。これをモデリングというのですが、“推し”の背景には『自分もこういう人になりたい』『こんな立場の人になりたい』という願望があります」

――なるほど。

 「自分が迷ったときや負けそうなときに、推しキャラのセリフや行動を意識して、力に変えることもできます。そうすることでストレス耐性もできるし、メンタルトレーニングにもなりますね。だから、私は『鬼滅の刃』はぜひ家族で観てほしいと思っていて。子どもがどのキャラクターが好きか、どこが好きかを知ることで、その子の憧れや願望がわかりますから」

■若い世代が共感? 家長制度に沿った“男らしさ”ではなく、平穏を守るため戦う炭治郎

――例えば主人公の炭治郎は優しくて、ひたむきに頑張るまっすぐな人ですよね。炭治郎を推す人は、どういった傾向にあるんでしょうか?

 「炭治郎に関しては、それぞれ響いてるところが違うようですね。女の子は、『優しいところが好き』と言う子が多いですが、大人・年配世代には家族想いなところが響いています。その反面、同世代には『あんな10代はいないだろう』と、反感を覚える人もいるようですね。年が近いと、どうしても自分と比べてしまうのでしょう」

――そんな受け取り方もあるんですね。

 「何度打ちのめされても負けない、ひたすら努力できるところが彼の最大の魅力。では、炭治郎は何のために強くなりたいのか? 面白いのが、男らしくあるためでもなければ、強さの頂点に立ちたいためでもない、ということ。ただただ、鬼になった家族を人間に戻したいというだけなんです。

 少年漫画は、お父さんの背中を追うような“父性性”を描くことが多いのですが、炭治郎がピンチのときに心の支えになるのは、いつもお母さん。つまり炭治郎は、昔からある家長制度に沿った“男らしさ”を追求するためではなく、身近な人、平穏な日々を守るために戦える人なんです」

――たしかにそうですね。

 「今の若い世代は、『出世したくない』というように力や権力に興味がない人が多い。一方で、地球環境を守る活動や自身の生活環境の改善には大きな興味を示します。妹のため、平穏な日々を取り戻すために強くなり、鬼を倒すことに情熱をかける炭治郎の考えが、今の人たちの気持ちに重なるのかもしれませんね」

――そういう意味では、炭治郎の仲間である善逸と伊之助も、戦う目的が他の少年漫画とは違いますね。特に善逸は、とても気弱なキャラですが、『週刊少年ジャンプ』での人気投票で1位になっています。

 「善逸はヘタレキャラですが、自分に正直に生きています。炭治郎や伊之助は、どこかやせ我慢しているところがあるけれど、善逸はまったくそんなところがない。怖いときは怖い、嫌なものは嫌。“本音で生きてる感”が、人を信用しにくい今の時代にはすごく貴重に映ります。ちょっとやりすぎ感のある登場人物の中では、一番等身大な人物像なのでしょう」

――善逸は、良くも悪くも、心の内をすべてさらけ出しています。

 「善逸を推す人は、頑張り屋さんが多いように思います。普段は頑張っているけれど、善逸のように気兼ねなく弱音を吐けたらどんなにラクか…、そう感じるのではないでしょうか。また、善逸はいざとなったらめちゃくちゃ強いですよね。弱音も吐いて、女の子を追いかけ回してばかりなのに、実はものすごい潜在能力があるというギャップに憧れる人も多いと思います」

――猪突猛進、自由奔放な伊之助を好きな人にはどんな傾向が?

 「伊之助は、とにかく親分でいたい人。『俺がみんなを守ってやる』というのが、彼の願望です。どこか地元のマイルドヤンキー的な部分があって、世界で一番になる必要はなく、この村で一番になって『兄貴!』と慕われたいんです。そして、あの猪頭の被り物は、“もう1人の自分”を表しています。学校や会社など、自分のいる世界の中でもっと自由に、細かいことにとらわれず自分を解放したい人が、伊之助を好きになるんですよね」

■「友だちと一緒にいると疲れる」、現代の子どもたちが憧れる3人の関係性

――まったくタイプの違う3人が人気な理由は、その関係性にもありそうですね。

 「そこに憧れる人は多いですね。彼らは『一緒に柱を目指そう!』と約束するわけでも、共通点があるわけでもなく、何の繋がりもないのに繋がっている。それがとても魅力的なのだと思います」

――子どもたちにも人気だと思いますが、その理由はどう考えますか?

 「私たちは今、子どもたちからのLINE相談を受け付けているのですが、『友だちと一緒にいると疲れるから、学校に行きたくない』という子がとても多いんです。昔は、多少の人間関係のこじれはあっても、友だちといて『疲れる』なんて言葉はなかなか出てこなかったですよね。今の子どもはなぜ疲れてしまうのかというと、『素の自分を出すとワガママだと思われて、仲間外れにされるから』なんです。そうならないように、がんばって“いい人”を演じ、相手に合わせてしまう。それは、疲れて当然です。今の子どもたちは、仲間意識や繋がりを作りにくいのかもしれません」

――だからこそ、3人の関係に憧れるんでしょうか?

 「彼らは同じ目的があるわけでもなく、損得も関係なく、一緒にいます。お互い何も相手に求めないし、気を使ってもいない。どんなワガママも、素の自分も受け入れてくれる関係性が、今の時代にはとても魅力的に映るんだと思います」

――では、そんな3人に守られる炭治郎の妹、鬼になってしまった禰豆子は?

 「『この3人に守られている』という立場に、憧れる人は多いと思います。ただ、禰豆子は鬼になっても、なんとか人としての理性を保って一緒に戦える子。禰豆子を好きな人は、自分もそういう意志の強さを持ちたいと感じているところもあるのではないでしょうか」

――ちなみに、3人を異性として、恋愛対象のように見ている人の傾向は?

 「炭治郎が好きな人は、ある意味では正統派で、強くて優しい人に守られたい人。善逸が好きな人は、ダメな彼氏を支えるような、すごく面倒見のいい人。母性本能をくすぐられると、弱い人が多いかもしれません。そして伊之助が好きな人は、逆に真面目な人。翻弄されながらも、実は一緒にハジけたい気持ちがあるのかもしれません(笑)」

(文:川上きくえ)

※後編は後日公開

【プロフィール】
浮世満理子(うきよ・まりこ)
全心連公認上級プロフェッショナルカウンセラー/メンタルトレーナー。大阪府出身。『アイディアヒューマンサポートアカデミー』学院長。『全国心理業連合会』代表理事。『全国SNSカウンセリング協議会』常務理事。トップアスリート、芸能人、企業経営者などのメンタルトレーニングを手掛ける。『子どもの可能性を120%引き出す! メンタル強化メソッド 50』、『チームを120%強くする! メンタル強化メソッド 50』(実業之日本社)、『LINE上手 ビジネス・私生活で相手の心理をつかむ!』(徳間書店)など、著書多数。『週刊まるわかりニュース』(NHK総合)、『関ジャニ∞のジャニ勉』レギュラー出演(関西テレビ)、『newsZERO』(日本テレビ系)などメディア出演多数。
■アイディアヒューマンサポートアカデミーエンターテイメント心理研究会https://www.idear.co.jp/2020entertainment/