公開24日で興収200億円を突破、歴代1位に迫る勢いの映画『鬼滅の刃 無限列車編』。もはや社会現象となっている「鬼滅」だが、その要因の一つとなるのが、基本に立ち戻った“声優”の力。人気マンガ・アニメが映画化される際、話題作りのため人気俳優が声優として参加…という流れもありがちだが、鬼滅の場合は“純声優”体制で臨み、公開前の宣伝期間は花江夏樹、鬼頭明里などの声優陣が登場。また、胡蝶しのぶ役を務めた声優の早見沙織は、『クイズ!THE違和感』『どうぶつ投稿ランド!』(ともにTBS系)をはじめ数々のバラエティ番組のナレーターでひっぱりだこに。鬼滅関連以外でも、人気声優の津田健次郎は朝ドラ『エール』(NHK総合)、ドラマ『極主夫道』(日本テレビ系)でのナレーションが話題に。ここにきて、声優起用における“原点回帰”の加速度が増している。

【写真】双子の女児誕生に喜び!愛娘にミルクをあげる花江夏樹

■作品にとっての劇薬に…俳優・タレントの声優起用が重要視されたワケ

 そもそも声優といえば、一般的には「アニメに声を吹き込む人」と認識されている。決して間違いではないだろうが、声優の活動は非常に多岐にわたっており、吹き替え、ゲームのCV(キャラクターボイス)、ラジオパーソナリティ、歌い手、司会、ものまね等々、枚挙に暇がない。さらに映画の吹き替え専業の声優から、アニメにはほとんど出ない声優、自らの肩書を声優ではなく“俳優”とすることにこだわる声優まで、実にさまざまだ。

 また、こうした広範囲な仕事内容を見ると、それぞれ声優以外のタレントなどが挑戦することも十分可能であり、最近では人気タレント・俳優がアニメ映画に声優として出演することもよくある流れ。平成以降でも、『ライオンキング』(1994年公開)のムファサ役の大和田伸也や『ハウルの動く城』(2004年公開)のハウル役の木村拓哉、『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』(1998年/2019年公開)のミュウツー役の市村正親などが、“声優以上のハマり役”として高く評価されてきた。さらに、宮崎駿監督作品『となりのトトロ』(1988年公開)のお父さん役の声優をコピーライターの糸井重里、『風立ちぬ』(2013年公開)の堀越二郎役を映画監督庵野秀明が務めるなど、俳優・タレント以外の“異業種”からの起用も定番化している。

 ただ、“専門外”からの起用に対しては、「本業声優の人に比べると実力差がありすぎる」「過剰な演技が鼻につく」「声だけ聞いてもその俳優さんの顔しか思い浮かばない」といった批判があることも事実。原作ファン・アニメファンからそっぽを向かれるか、話題性が功を奏して一般層からもお客さんを引っ張れるか…人気俳優・タレントの声優起用は、どっちに転ぶかわからないリスクを抱えたいわば“劇薬”ともいえるのである。

■鬼滅ヒットを起点に広がる、声優起用の本懐

 しかしここ最近は、「人気俳優・タレントの声優起用」以上のムーブメントとして、アニメを主戦場として戦ってきた若手声優たちをナレーターやタレントとして抜擢していく流れがあり、実際それぞれに結果を残してSNS等で話題になっている。映画『鬼滅の刃 無限列車編』絡みでも、我妻善逸役の下野紘は『逃走中』(フジテレビ系)に出演し、キャラクター特有の“汚い声”を披露して話題になった。鱗滝左近次役を演じる大塚芳忠がナレーションを務める『バンキシャ!』(日本テレビ系)では、大塚自ら「ハロウィーンでは鬼滅コスをする人が多かった」というニュースを紹介。アニメに寄せた話し方で作品についても語り、「バンキシャ!のナレーター、鱗滝さんだったんだ!」とまた違った意味でファミリー層からの認知度を上げる展開となった。

 さらに、バラエティ番組のナレーションとして若手声優を起用する流れもあり、胡蝶しのぶ役の早見沙織は、『クイズ!THE違和感』『どうぶつ投稿ランド』(ともにTBS系)でナレーションを務め、嘴平伊之助役の松岡禎丞は『I LOVE みんなの動物園』(日本テレビ系)でナレーターを務めている。

 その理由としては、(1)声優としての場数を踏んで経験が豊富なので、番組の趣旨趣向に適応して表現することが簡単にできる。(2)番宣の際に芸能人と絡むとスベる可能性もあるが、“声の出演”のため声優側も作り込んで本領を発揮できる。また、一般層も違和感なく耳に入れられる。(3)声を聞くだけで、声優ファンだけではなく作品ファンにも注目してもらえる。といった要因が挙げられる。いわば声の実力では他のタレントを圧倒的に凌駕しているだけに、今後もさらに本業声優を起用していく傾向が強まるのではないだろうか。

■花江夏樹がハブとして機能、声優キャスティングを原点回帰の流れに

 そして今回、『鬼滅の刃』のアニメ・映画版を評価する上で欠かせないのは、「本職である実力派声優しか起用していない」という点であり、その中心人物こそが主人公・竈門炭治郎役の花江夏樹だ。一般層には、“鬼滅前”にはそれほど認知されてなかったかもしれない花江だが、『おはスタ』(テレビ東京系)のMCを山寺宏一から引き継ぎ4年半勤め上げ(今年10月に卒業)、子どもたちにはすでに“朝の顔”としておなじみだった。

 花江のYouTubeチャンネルの登録者数は178万人(11月12日時点)と、声優のYouTubeチャンネルでは群を抜く数字。チャンネルでは、「顔は明かさずに…」という声優ならではの手法を活かし、声だけで魅了するコンテンツを多く配信しており、『鬼滅の刃』のゲームをレビューするという動画では、再生数1474万回を記録した。同チャンネルには小野賢章、江口拓也、石川界人といった錚々たる若手声優陣が登場し、漫才やコントを見ているかのような掛け合いを見せ、普段の声優業では感じられない“素の姿”を披露している。花江のチャンネルは、声優たちをより広い世界へと導くいわば“ハブ”のような機能を果たしているようだ。

 さらに特筆すべきは、チャンネルにはもちろんクリエイターのサポートもあるが、編集クレジットに花江本人の名前が入っていること。まさに花江は近年のSNS時代に対応したデジタルネイティブの声優代表ともいえ、今後も自己プロデュース能力にたけた声優が増えることで、声優業界自体が時代に適応しながら発展していくと思われる。

 映画『鬼滅の刃 無限列車編』では、今までのアニメ版にプラスして魘夢、猗窩座などの新キャラ(鬼)も登場。その声優を誰が務めるのかが注目されたが、それぞれ平川大輔、石田彰といった実力派ベテラン声優を起用。“中性的・変態的ながらも悲哀に満ちた”平川と“煉獄さんを鬼に勧誘するなど自己中で強さ至上主義”的な石田と名演をみせ、「純声優主義を見事に貫いた」と高く評価されている。声優が本来の声の仕事でまっとうに活躍するという“本懐”を見せ、観客・視聴者も高く評価するという「純声優回帰」現象は、これからもまだまだ続きそうである。