今、もっともお笑い番組らしいお笑い番組といえば、『有吉の壁』(日本テレビ系)が挙げられる。MCの有吉弘行(と視聴者)を笑わせるために芸人たちが全力でネタを披露するというシンプルかつ王道の作り。それでいて、パンサーの秘めた面白さを引き出したり、とにかく明るい安村を再ブレイクさせるなど、有吉のプロデュース力はかつて、自身の“どん底”を救ってくれた内P(テレビ朝日系『内村プロデュース』)の内村光良を彷彿させものがある。2015年の不定期放送に始まり、今年4月のレギュラー化、そして現在に至るまで、同番組が担ってきた“芸人救済力”とは?

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■「くっだらね~」に価値を見出し“令和の内P”の立ち位置を形成

 『有吉の壁』は、2015年に放送を開始。当時は平日の深夜1時間枠で放送していたが、25人以上の芸人が遊園地などで、「くっだらね~」と思いつつもつい笑ってしまうような全力のボケやネタが繰り広げる。その“くだらなさ”が評価され、翌年に土日や年末年始の深夜のスペシャル枠的な扱いとなり、計13回放送。2020年4月からは、晴れて毎週水曜日19時からの1時間枠でレギュラー化となった。

 放送当初から「〇〇の壁を越えろ!」というテーマを設定し、若手芸人とちょいベテランの中堅芸人が多数でわちゃわちゃネタを繰り広げていく…という基本フォーマットは変わらない(正式コンセプトは「次世代を担う若手お笑い芸人たちが、有吉弘行が用意した『お笑いの壁』に挑戦し、壁を越え芸人として成長する」番組)。

 多数の若手芸人(中堅も含む)が出演してアドリブ力を問われるバラエティ番組は、過去にも『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』(日本テレビ系)や『内村プロデュース』(テレビ朝日系/以降、内P)などがあり、いわば定番ともいえる企画。そして有吉自身、猿岩石の大ブレイク→人気急下降のどん底時代をたどり、内Pに出演することで転機を迎えた。

 内村やさまぁ~ずといった面々にいじられつつ、有吉は顔をミュージカルのCATSふうにペイントした猫男爵というキャラに扮したり、牛乳を口に含んで爆笑しては吐き出す的な脇っぽい扱いを受けながらも、しっかりと役割を認識し存在感を提示、再ブレイクを果たしていくのである。その後の毒舌キャラの大ブレイク前夜、いわば“助走期間”ともいえる内P出演だったが、有吉は当時起用してくれた内村やさまぁ~ずに対して感謝のコメントもしている。

■壁ならぬ『有吉の恩返し』、自身を救った純度100%“お笑い番組”で後輩芸人に笑いを継承

 そして今、『有吉の壁』で爆笑しながら×のボードを出す有吉の姿は、かつての内Pの内村の姿に重なるようであり、事実上、番組自体もくすぶっている芸人たちにチャンスを与えて引き上げているだけに、かつて再ブレイクのきっかけをくれた先輩芸人たちへの有吉からの“恩返し”のようにも見えるのだ。

 ただ、内P以降は芸人の活躍の場がひな壇中心となり、芸人が純粋にお笑いで勝負できたのは『エンタの神様』(日本テレビ系)ぐらいか。番組自体もそうだが、そこでブレイクした芸人自体も短命で終わることが多かった。

 ほかにも『M‐1グランプリ』(テレビ朝日系)や『キングオブコント』(TBS系)のようなコンテスト系の番組もあるが、出演者も視聴者ももっと肩の力を抜いて楽しめるようなお笑い番組が減少傾向にある。“お試し”的に芸人を起用できるフォーマットを持つ『有吉の壁』の存在は、今や非常に貴重なものとなっている。

 ひな壇向きではないコント職人タイプの芸人もたくさんいるだけに、純粋にネタだけで判断される番組は、まさに“芸人冥利に尽きる”。加えて、このコロナ禍においては、つい気持ちが後ろ向きになりがちな視聴者にとっても、「エンタメ(お笑い)っておもしろいんだな」と再認識させてくれる場となった。実際、SNSでは「何も考えずただ笑って見れる有吉の壁に救われた」といったコメントも多数、散見されるのだ。

■続々と誕生する名物キャラも“一人歩き” 企業コラボも多数生まれる絶大なシナジー効果

 『有吉の壁』では、これまで優に100組を超える芸人が登場。レギュラー出演ではシソンヌ、ジャングルポケット、パンサー、チョコレートプラネット、ハナコ、四千頭身、三四郎、タイムマシーン3号…などな、いわゆる第七世代に限らない幅広い年齢層の芸人が出演している。大ブレイク中のチョコプラもモノマネ以外のネタを披露していたり、テレビで見かける機会が減っていたとにかく明るい安村も、この番組でプチ再ブレイクを果たした。

 またパンサーにいたっては、以前は「空回りする尾形」「おしゃれな向井」「クールな菅」といったイメージもあったが、向井と菅も同番組で体を張ったお笑いに挑戦し、ベタなネタをチームワークよく披露し、「向井と菅ってこんなに面白かったんだ」と再評価された。

 さらに、番組内の「一般人の壁」から生まれたキャラクターも多数あり、他番組やCM等に起用された芸人も多い。チョコプラの「TT兄弟」や「Mr.パーカーJr.」、パンサー・菅の「パラパラおじさん」、きつねの「KOUGU維新」、タイムマシーン3号の「鬼ギャルゾンビ」といった具合に人気キャラを作り、YouTube等でも人気を集めている。

 特にジャンポケがどこにも効かないストレッチを披露する「ストレッチャーズ」は、日清食品の袋麺『お椀で食べるシリーズ』のCMに出演するまでの人気を獲得し、企業コラボの場も増えてきている。

■有吉自身の経験も投影…“一発屋”を生むのではなく、強度の高い芸人を育成する場に

 子どもがマネするいわゆる一発屋枠からもう1ランクアップさせ、他局の番組への出演、さらには企業CMなどに起用されるまでの影響力をつけてきた『有吉の壁』発のキャラ。しかし、こうした番組発のキャラの確立は、過去の人気お笑い番組でもよくある流れだった。

 『俺たちひょうきん族』(フジテレビ系)をはじめ『だいじょうぶだぁ』(同)、『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』(日本テレビ系)、『ダウンタウンのごっつええ感じ』、『ワンナイR&R』、『はねるのトびら』、『ピカルの定理』(以上、フジテレビ系)など。同番組もそのマナーにのっとったブレイクスルーを作ったといえる。そしてキャラの人気確立が、番組とそれを演じる芸人たちを一回り大きくさせてきたのは、まぎれもない事実なのだ。

 しかし、『有吉の壁』にはこれまでとは明らかに違う点がある。その主役が「低空飛行しているた芸人たち」であること。彼らにチャンスを与え、またそのチャンスをものにした芸人たちが新たなキャラで仕事に結びつけ、マネタイズでも成功していく。

 最近では、YouTuberたちが地上波に進出しタレント化していることもあり、芸人たちは自分たちの存在意義として、タレントたちとの境目がわからなくなっている感もあるかもしれない。そんなお笑い業界、テレビ業界の中で、同番組は芸人本来のネタに焦点をあてている。さらにプライムタイム放送という信頼性の背景もある。視聴者も企業も安心して受け止める“純度100%のお笑い番組”が、他を寄せつけない地位と価値を築いている、といえるのではないだろうか。