10月31日、B'zが5週連続で行う無観客配信ライブ『B'z SHOWCASE 2020 -5 ERAS 8820- Day1~5』の初日、Day1が開催された。この公演は、彼らがデビューした1988年から2020年までを「5つの時代=5 ERAS」に分け、各時代に生み出してきた楽曲を、一切の被りなく、5週に渡って披露するというもの。これを、羽田イノベーションシティに新しくオープンしたZepp Haneda(TOKYO)から毎週土曜日19時にレギュラー的に届けてくれるという、ファンにとって、待ちに待ったライブ月間がついにスタートしたのだ。

【写真】1つの空間で瞬時に多彩なシチュエーションを生み出すB'z 流ライブ配信

■1つの空間で瞬時に多彩なシチュエーションを生み出したB'z 流アプローチ

 開演時間の19時、画面に映し出されたのは、羽田という地をイメージさせる光景と、B'z仕様にデコレーションされたZepp Hanedaを映し出すオープニング動画。それをバックに聴こえてきたリズムは、1988年リリースの1stシングル曲「だからその手を離して」だ。イントロのギターフレーズが高らかに奏でられると、白いスモークと光に満ちた画面に、ギタリスト松本孝弘とボーカリスト稲葉浩志が映し出された。

 それはまるで、デビュー当時の同曲MVを彷彿とさせるような映像。2人だけのパフォーマンスであったが、しかし演奏は明らかに生のバンドサウンド。どういうシチュエーションで演奏されているのだろうかと想像を巡らせていると、続く「BLOWIN'」で、松本と稲葉はフロアからステージに駆け上がり、サポートメンバーと合流する。そして曲の中盤、ステージ後方カメラからの映像が映し出された時に、その全貌が明らかとなった。

 ステージにはサポートメンバーが並び、その後方には多彩な映像を映し出す大型のLEDディスプレイを設置。これらは通常の有観客ライブ時によく目にするスタイルだが、特長的だったのは、大型LEDディスプレイがフロアの左右側面と後方にも設置されており、バンドの四方を映像で囲むようなスタイルで演奏が行われていた点だ。

 この4面あるLEDディスプレイの全てを使って映像を映し出せば、会場全体を1つの空間として一体化した見せ方ができる一方で、個々の面で異なる映像を映し出せば、最大4パターンのシチュエーションを同時に作り出すことができる。推測するに「だからその手を離して」の際には、フロア設置のLEDディスプレイでステージとは別のシチュエーションを作り出し、それを背景に松本と稲葉がパフォーマンスを行っていたようだ。こうした工夫で、2人だけの世界観を映像的に作り出していた。

 このアイデアが真の威力を発揮したのは、セットリスト中盤以降。そこに至るまでの前半は、今回の無観客ライブが“SHOWCASE”と銘打たれていたように、純粋にライブそのものを楽しめる内容であった(B'zは、ライブハウスやホールで開催する演奏メインのライブを“SHOWCASE”と呼んでいる)。そこから8曲目の「ALONE」になると、いつの間にか稲葉のみが真っ赤な夕陽に包み込まれながら歌うシーンが届けられた。映画のワンシーンのように印象的な光景であったが、稲葉の周囲にバンドメンバーの姿は一切見えず、一瞬、「どこで歌っているんだろう?」と驚かされた。ここでもおそらく稲葉のみがフロアに降り、ステージとは異なる、夕陽が映し出されたフロア設置のLEDディスプレイをバックに歌っていたのだと思われる。衣装の早着替えならぬ、シチュエーションの早切り替えといったところだ。

 その後も、メンバー全員がフロアに降りて行われたアコースティック・アレンジの演奏時には、背景のLEDディスプレイに学校の黒板のCGが映し出され、まるで教室で演奏しているかのような雰囲気を見事に演出。一瞬、会場内に教室のセットをわざわざ組んだのかと勘違いしてしまうほどの精巧さであった。こうした演出には、驚くような新技術や特殊な効果が用いられていたわけではない。しかし、計4面あるLEDディスプレイの使いこなし方によって、瞬時に多彩なシチュエーションを作り出すアイデアはとても新鮮であった。

 とくに、ファンから募ったダンス動画に囲まれながら歌った「恋心(KOI-GOKORO)」は、会場と視聴者との一体感を強く味わえた。また、ラスト「裸足の女神」で、全LEDディスプレイを使って、過去のアリーナ客席映像が映し出された瞬間は、無観客の会場がアリーナに変わったかと錯覚するほど、鳥肌が立った感動的な瞬間であった。

■5週連続配信だからこそ味わえる継続するワクワク感

 こうした配信ならではの“魅せ方”以上にファンの心を掴んだのは、特定の時代にスポットを当てるという企画と、練り上げられたセットリストだろう。Day1で歌われたのは、1988年から1993年までにリリースされた楽曲で、近年のライブでは演奏されていない曲も目立った。とくに、「星降る夜に騒ごう」「どうしても君を失いたくない」「『快楽の部屋』」は20数年ぶりであり、「『快楽の部屋』」に関しては曲名がTwitterのトレンド入りするほど、多くのファンを熱狂させた。

 ただ、この興奮は単に懐かしい曲が聴けたというだけで生まれたものではない。同曲に限らず、30年近く前にリリースされた名曲の数々を、今のB'zの歌とギターで、しかも当時以上に大人の色気に満ちたグルーヴィーなサウンドで体験できたからこそ、ファンは歓喜したに違いない。「あの曲を初めてライブで聴けた」という若い世代の喜びもさることながら、30年前にこれらの曲を聴き込んでいた世代にとっては、これらの曲を今、ライブで聴けた嬉しさと同時に、当時のさまざまな記憶が自然とよみがえってきたのではないだろうか。

 1990年に20歳だった人は、今年で50歳だ。これまでの年月の中で、エンターテインメントと縁遠くなってしまった人も多いだろう。そういった人も今回、「ライブ会場には行けないけれど、配信なら観てみよう」と久々にライブを体験して、音楽を楽しんでいたかつての感覚が呼び起こされたものと推察される。多くのB'zファンが、当時のCDやパンフレット、グッズなどの写真と共に、この夜の感想をSNSにアップしていたことからも、音楽やライブに触れる喜びに浸っている様子が見てとれた。

 こうした企画を有観客ライブで実現するのは意外と難しい。しかしながらB'zは、配信という場を上手く活用することで実現させ、成功を収めたと言える。加えて、最後に稲葉が発した「また来週!」という言葉に、来週のライブ配信への期待がますます高められた。そう、今回で終わりではなく、また来週も観ることができる。そうした、5週連続配信だからこそのワクワク感が、最高の余韻を味わわせてくれた。

■定期配信でファンとの絆を深めるゆずやTHE ALFEEのアプローチ

 B'zのように、単発のライブ配信だけでなく、毎週レギュラー的な配信を行うアーティストが、ベテラン勢を中心に増えつつある。まず挙げられるのが、9月27日から5週連続でライブ配信『YUZU ONLINE TOUR 2020 AGAIN』を行った、ゆずだ。

 彼らは毎週日曜日、21時からというレギュラー枠を設定。ファンに対して定期的にライブ配信を届けることで、本格的なツアーが行えない現状においても、「また来週も観ることができる」という継続的な楽しみを提供した。加えて、定期的にライブ配信を行うことで、回ごとに異なるテーマを掲げやすく、また1回分のチケットをリーズナブルに価格に抑えやすいという点もメリットだと言えよう。何よりもファンを飽きさせず、かつ気持ちを離れさせないという点で、定期的な配信は効果的だと言える。

 そのうえで、ゆずは「出発点(DAY1)」「思春期(DAY2)」「新天地(DAY3)」「青写真(DAY4)」「未来図(DAY5)」と毎週異なるタイトルを付け、2人にとってゆかりのある地(彼らの“聖地”とも呼ばれる横浜文化体育館や、出身中学校の教室など)から配信を行うといったユニークなアイデアを実現し「2人のドキュメンタリー映像」×「レギュラーライブ番組」というべき内容に仕上げていた。

 もう1組、挙げておきたいアーティストがTHE ALFEEだ。彼らが10月4日にスタートさせた『Come on! ALFEE!! ~LIVE&チャット&生トーク~』(全12回)は、来年3月5日まで、毎月2~3回のペースでライブ配信を行うという新しいコンセプトの配信だ。しかも、その内容が実にTHE ALFEEらしい。過去のライブ映像作品や、今回用に新に撮りおろされたライブ映像を視聴者と一緒に見ながら、メンバーがエピソードを語ったり、チャットによってファンから寄せられた感想や質問に生トークで答えたりしていくというもの。まるで深夜ラジオ番組を映像で観ているかのような楽しさだ。

 こうした構成を実現できるのは、当然ながらTHE ALFEEの3人ならではのトーク力があればこそだが、視点を変えれば、アーティストの個性や魅力を伝えるコンテンツを作ることができれば、必ずしもライブ演奏を軸にせずとも、視聴者が「観たい」と思うエンターテインメントを提供できるということだ。THE ALFEEの場合は、自身の“番組”を持ち、ファン・サービスの意味合いも含めながら、ライブ活動の空白期間を埋めるプロモーション・ツールとして活用している点に注目だ。

 定期的な配信は、アーティスト側からすると、全国ツアーやロングラン公演とはまったく別ものだが、ファン心理としては、もしかしたらコロナ禍以前に、ツアー開始を心待ちにし、ファイナル公演までの期間を楽しんでいた感覚に近いものがあるのかもしれない。アーティストのヒストリーに残るような大規模イベントから、よりフレンドリーな番組的コンテンツまで、ライブ配信の内容も日に日に多様性が増し、あっという間に成熟期へ突入した感が強い。ライブ配信が、アーティストの個性や世界観を色濃く映し出すコンテンツとして定着する時代は、もうすぐそこまでやってきている。
(文:布施雄一郎)