本物さながらの泥やサビを施し、模型をよりリアルに見せる“汚し表現”(ウェザリング)。戦車を中心に作品を発表しているまんた(@kemotank_manta)さんは、この“汚し表現”(ウェザリング)に魅せられたモデラー。徹底してリアリティーを追究し、自らSNSやブログでその技術を公開し、他モデラーからも一目置かれている。そんな同氏が「汚し」の練習として作り上げた作品が、数奇な運命をたどった"フランス製"ドイツ軍戦車。制作の背景に想像した物語と、そこに込められた技術とは?

【写真】泥、ほこりの表現が見事…まんたさん“戦車”作品コレクション

■戦車の魅力は、陸戦兵器として洗練されているデザイン

――「戦車」の作品が多いように思いますが、「戦車」の魅力は?ハマったきっかけとなる運命的なキットがあれば教えてください。

【まんた】あらゆる攻撃を弾き返す装甲。荒地を軽快に進む無限軌道。そして敵を粉砕する大砲。それらが組み合わされ、陸戦兵器として洗練されているデザインがとても魅力的だと感じます。

 戦車にハマったきっかけは、タミヤの「T-34/76 (1943年型)」。中学生だった当時、見た目のかっこ良さと作りやすさで選びました。ネットで作り方を調べたりして、苦労しながら作りましたが、その時味わった、純粋に作ることを楽しむ感覚は今でも大切にしています。

――現在のように、見事なウェザリングを施した本格的な作品を作ろうと思ったのはいつ頃から?きっかけは?

【まんた】高校の頃、ふと思い立ってツイッターを始めることになり、そこで制作過程を公開し始めたトランペッターの「KV-5」が本格的な作品を作るきっかけでした。当時、知り合いもいないツイッターでとりあえず面白いことをしてみようと、カラーモジュレーションやサビ表現に挑戦してみましたが、予想よりも反響が大きくてうれしかったのを覚えています。そこからさまざまなアプローチで作品を作るスタイルが定着していきました。

――“汚し”(ウェザリング)が見事に表現されている、代表作の1つ『Pz.Kpfw. S35 739 (f)』を作ろうと思われたきっかけは?

【まんた】友人から誕生日プレゼントとして、ベースとなるキット(タミヤ 1/35 フランス中戦車 ソミュア S35)をもらいました。当時、泥表現とホコリ表現の習作を作りたいと考えていて、複雑な面構成と独特な足回りの構造を持つこの車両がその題材にぴったりだと思い、制作することにしました。キットだけでなく、フリウルモデルの金属製可動履帯とデフモデルのドイツ軍仕様への改造キットを組み込ました。制作期間は2カ月ほどです。

■歴史考証や組み立て精度ではなく、塗装やウェザリング仕上げを見てほしい

――『Pz.Kpfw. S35 739 (f)』は、第二次世界大戦中に、フランスで開発されたにもかかわらず、ドイツ軍の侵攻で陥落後、鹵獲(戦争などで敵の兵器・武器を奪うこと)され、ドイツ軍の兵器として使用されるという、数奇な運命をたどった戦車として知られています。もともとフランス軍仕様だった、ベースキットをドイツ軍に変更した理由は?

【まんた】泥とホコリの表現を練習するにあたって、それらはグレーの塗装によく映えることと、ネット上でもあまり見なかったS35のドイツ軍仕様での作品を作ってみたかった、というのが大きな理由です。僕はどちらかと言えば歴史考証や組み立て精度ではなく、塗装やウェザリング仕上げで魅せるのが好きなんです。

――兵士の様子から想像するに、ドイツの快進撃が続いていた頃の様子でしょうか?

【まんた】ストーリーとしては、フランス軍を手玉に取り、意気揚々と進軍しているドイツ軍の中の一車両、というシーンをイメージして制作しています。

 兵士は、顔を後ろに向けてのポージングなので、目線も後ろ、後続の車両に合図を送っているようなシーンをイメージしています。状況は快進撃の最中で士気も高く、向かうところ敵無し、といった雰囲気があったとは思いますが、この兵士の表情は硬く、状況が有利でも気は抜けない、そんな心情をイメージしました。どんなときも冷静に、着実に任務をこなす。そんな性格の兵士かもしれませんね。

――本作制作の上で一番こだわったところ、苦労したところをそれぞれお教えください。

【まんた】一番こだわったところはやはり足回りの泥表現です。足回りの側面に履帯が乗る形で装甲板が付いているのは、数ある車両の中でも多くなく、加えてこの部分が車両の使用感を演出する上で重要な要素になり、最終的な仕上がりを大きく左右する部分だと考えました。なので、この箇所についてはかなり慎重にウェザリングを施し、失敗や成功を繰り返しながら仕上げていきました。一番苦労したのもこの部分です。

■情報を発信することで、作品が本物らしくなっていく楽しさを感じてほしい

――本作も含めて、まんたさんの作品は、本物以上にリアルな“汚し”が印象的です。プラモデルにおける“汚し”(ウェザリング)の魅力とは?

【まんた】ウェザリングの魅力はなんと言っても、いかに本物らしく見せられるか?というところです。ウェザリングと一口に言ってもその方法は様々で、それは錆だったり、煤(すす)だったり、あるいは泥だったりで、その汚れ加減も無数の選択肢があります。それらを組み合わせ、いかに自分が思い描く本物らしさを小さな模型の世界に落とし込めるかが、ウェザリングの苦労するところであり、一番の魅力でもあると考えています。

――それゆえ、ご自身の経験をSNSやブログで発信しているのですか?

【まんた】そうですね。僕が初めて戦車を制作した際に一番楽しく、やりがいを感じたのがウェザリングの工程でした。そして、ウェザリングは戦車模型、ひいてはAFV模型を制作する上で一番仕上がりを左右する部分だと考えています。そんな思いから、僕自身が学び、経験したことをそのまま発信することで作品が本物らしくなっていく楽しさ、やりがいなどを感じ取ってほしいのです。また、言葉にして発信することで、自分の中で情報の整理をするためでもあります。

――最後に、ご自身のモデラーとしての信念をお教えください。

【まんた】僕はどんな作品を作るときも、常に新しい挑戦をしたいと考えています。先程の汚しの魅力の話にも繋がりますが、模型の表現は無限の選択肢があり、どれが正解ということはありません。その中で自分が思い描く理想の姿を常に模索する姿勢は、いつまでも忘れたくないと考えています。また、僕は育ちのせいか、人と競争することが好きではありません。それは模型でも同じで、誰かと勝負して勝ったり、成功して有名人になったりすることが模型を作る目的ではありません。常に自己を内省し、そして他者を助け、時には助けられ、全てのモデラーと共に成長していくというのが僕の信念です。