人気お笑いコンビ・オードリーの若林正恭(42)が、2016年に訪れたューバについて書き下ろした旅行記エッセイ『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』が、文庫となって7日に発売された。日本旅行作家協会主催の『第3回 斎藤茂太賞』を受賞した同作に、3年前に訪れた「モンゴル」と「アイスランド」、そして現在の「コロナ後の東京」について書き下ろした新章3編を収録する。

【写真】オードリー、数字で証明した“第2の黄金期”

 テレビではオードリーとして多数の番組に出演し、単独でもテレビ朝日『激レアさんを連れてきた。』『しくじり先生』などでMCを務める機会も増えるなど、ますます活躍の幅を広げている若林の“頭の中”に迫るため、インタビューを実施。最近話題となった「7番セカンド」論をはじめ、オードリーとしての「第2の黄金期」、主戦場として挙げるニッポン放送『オードリーのオールナイトニッポン(ANN)』(毎週土曜 深1:00)、結婚してから訪れた相方・春日俊彰との関係性の変化などに迫った。

■旅行記を経て時空を超えた旅への興味 40歳過ぎてつかんだ自身の特性

 『表参道のセレブ犬~』では、さまざまな土地を訪れて、その時に感じた自身の心境を率直につづっているが、今の関心は“時空を超えた旅”に向いている。「縄文時代って、米とか稲作も始まってなくて、食べ物を蓄積できないから、獣を取ってきても、冷蔵保存ともできなくて腐っちゃうから、みんなで分けていたとかっていう話を聞いて。富を蓄えられないから、歴史上かなり争いが少なかったっていうことらしくて…。ずいぶんファンタジーになっちゃうんですけど、本当なのかなという興味がすごくあって、子どもみたいなこと言いますけど、『次に行きたいところは?』って聞かれたら、タイムマシンを使って縄文時代に行って、生活を知りたいですね(笑)」。

 今の感覚とはまったく異なる、縄文時代の様子を自分の目で確かめてみたいという思いに駆られている。「タイムスリップして縄文時代に行きたいって言葉が記事になったら、ずいぶんお気楽なやつだなって思われそうで、恥ずかしいんですけど(笑)、その時代の暮らしにとても興味をそそられますね。僕の感覚では、弥生時代の土器は“のぺー”としているんですけど、縄文時代の土器はめちゃくちゃ派手でイケイケなんですよ(笑)。その土器のデザインを考えると、縄文の人たちは、オレみたいなタイプは笑わなくて、春日の方が向いてそうですよね。ある本で『縄文時代の物語は書けない』ということを読んだので、縄文時代の人に『あちこちオードリー』にゲストで来てもらって、じっくり話を聞いてみたいな(笑)」。

 今回の文庫では、自身の関心が内面ばかりだけでなく、外にも目を向けることができるようになったと明かしていたが、それによってMCとしてゲストの魅力を自然と引き出せるようになった。「キューバ行った4年前とかだったら『あちこちオードリー』とか、ああいう風にできなかったのかもしれないなと思います。やっぱり、自分のことで精いっぱいだし、自意識過剰であるし、生意気にも生きやすくはないと思っていたので、自分のことばっかり見ていましたよね。自意識を髪型だとしたら、鏡を見て、何度も直しているような感じだった。車好きな人が『ここのデザインどうなっているの?』って興味がわくような感覚で、フワちゃんがゲストに来てくれた時とかも『オレが見たことない車の形をしているなー! このタイヤどうなってるの?』っていう気持ちで、話を聞くことができていますね」。

 その『あちこちオードリー』で、若林は自身の芸能界における立ち位置を、野球でのポジションと打順を例えにして“守備はうまくて当たり前で、守備のうまさは褒められないが、ひとたびエラーすると叩かれてしまう”という意味で、「7番セカンド」だと表現。その言葉の真意について、改めて尋ねてみた。「やっぱり、タイプっていうものがあって、メディアでニュースになりやすいのは、勝者の振る舞いや功績であると思うんですよ。外的な価値が目に入っちゃうから、そこを目指していたんだなっていう反省がありますよね。それが自分には背伸びして難しいことであったりとかっていうのが、仕事をしていく中でわかってきました」。その上で、こう続けた。

 「圧倒的な才能の人と仕事させてもらうことを繰り返す中で、40歳を超えたということで、諦めることで自分のスタイルができてきた。普通の会社で働いているみなさんは、すでにされていることだと思うんですけど、僕も遅ればせながらそうなってきたのかなという感じですかね。わかりやすいから、やっぱり一目瞭然な価値をニュースすると思うんです。でも、それが自分にあっているかどうかは別の話なので、諦めるというよりも、自分が持っているものを確認するっていう感覚に近いですかね」

■“第2の黄金期”にも冷静な分析 文章を書くことで「すごく助かります」

 7月に発表された『2020上半期テレビ番組出演本数ランキング』では、若林が266本で3位、春日俊彰が219本で8位と、コンビそろってベスト10入りを果たした。9位以下にも多数の帯番組出演者が並ぶなか、帯番組に出演していない2人のランクインは、まさに“第2の黄金期”が到来していることを感じさせる結果となったが、自身の心境の変化とリンクしているものなのであろうか。「若い時に仕事がまったくなくて、お金がない時は、強者・弱者の分け方をさせていただくのであれば、後者だったと思うんです。芸能界っていうものがあって、テレビ出演本数とかも、わかりやすい価値としてニュースになったりするんですけど、よほどの天才じゃない限り、また時代が流れていくと若い人に変わっていって、出演本数で言わせてもらうと、そうじゃない状況(ランクインしない)になっていくこともある」。外的な評価に重きを置かれがちなテレビの世界に身を投じて、気付いたことがある。

 「10年しかテレビのお仕事させてもらってないですが、よく会っていた人に会わなくなったり、自分たちが若手の時は気づかなかったんですけど、ドンって出てきた若い世代に対して『お願いします』っていう立場で、絡んでいくようになったりっていう変化が訪れる。そうして、自分たちがまた仕事がない時が来ると思うと、本当にきょう1日が特別なんだなと思って。背伸びもせずにやるしかないなという気持ちです」

 テンポ感が必要されるバラエティー番組にはない魅力が“文章”にある。「バラエティーであると、マスに向けているものではあるので、わかりやすくないといけないし、明解でないといけないし、もしかしたら正論でなければいけない。オレは正論を言えない人間なので、そういったところでプレッシャーを感じるのかなと思うんですけど、書くことは不思議で、細かくしつこく論理をつけていけば、時に正論じゃなくても筋が通る時があって。純文学とか小説とか読んでいく中で、今の社会では間違っている行為であっても、その人を丁寧にたどっていくと、意外と筋が通っちゃう。丁寧に時間制限なく、たどれるっていうのは、僕にはすごく助かりますね」。

 月2本のエッセイをつづる月額制の『若林正恭の無地note』もスタートしたが、若林の思いがダイレクトに文章で表現されており、好評を博している。「コメント欄を見てみると、読者のみなさんが“生活をしているんだ”っていうのが手に取るようにわかって、生活をしている人がラジオを聞いてくれているんだなと実感できます。サイレントマジョリティーという言葉がありますが、サイレントが可視化されたような気持ちでした。『テレビは何百万人の人が見ているから、それを想像して…』とか言われますが、あんまり明確には想像できないところもあったりするので、コメントを見ることで、人間がいるんだとすごく感じています」。

■主戦場のラジオで“おじさん”が若者とわかりあえる可能性を模索

 そんな若林にとっての主戦場は“ラジオ”。「オールナイトニッポンは、一番オードリーというコンビにとってミニマムな環境で。ブースに入って、春日という個体としゃべるっていうことが(笑)。漫才は、2人で対話をするっていうことの先にあるものなので、もとをたどるとラジオというものになるんですかね」。そして、「春日さんと話しているのは楽しい?」との質問には、こう答えた。「あいつにそれを言うのはくやしいですけど、何かありますね。なんでなんだろうな…。やっぱり面白いんですよね。オレから見たら、まったく信じられない人間だし(笑)、結婚して、子どもが生まれたことで、ちょっとびっくりするくらい変わってきていますね。本当にね、変わっているんですよね。子どもっていうのがどういう存在で、ひとりの人間が変わっていくのを目の当たりにしている感じです」。

 そんな若林が、自身の年齢とともに向き合っているのが“おじさん”という存在だ。「ちょっと言葉は選びますが、おじさんがおじさんであるっていうことに、自信を持ちにくくなっていることが気になっていて。ポリコレ、コンプラであるとか、非常に強い世の中で、もちろんおじさんがやってきた悪しき風習もあったと思うんです。だけれども、おじさんが傷つくことに対しては、ポリコレの中では後回しにされているんじゃないかなという思いもあって。なので、僕は『カルビが食べられない』とか『胃カメラが怖かった』とかっていうことを正直に話して、どんどんおじさんだって言われていこうと思っているんです」。

 自身の経験をもとに信じていることがある。「女優で僕らのラジオのファンの高橋ひかるちゃんがラジオのゲストに来てくれた時に、僕らがラジオで話している『キン肉マン』とか1980年代の流行の話題って、ひかるちゃんたちにとっては最新の情報になると。それで『20年前のラップを聞いてみました』っていうこともあったりして、おじさんが本気でそのものに興奮していたら、世代を超えて伝わるんじゃないかなという仮説を立てていて。本気で興奮していないものを押し付けると、面倒くさいおじさんだと思うんですけど、本当に好きなんだなっていう人を見ていると、年齢も関係なくなってくるじゃないですか。それで面白いラジオがどこまで成立できるのか、すごく楽しみです」。世の中の流れとともに、たえず自身の行動をアップデートしていくことが求められるが、若林正恭は、学習と興味のあることへの没頭を繰り返しながら、自身を偽ることなく生きていく。

◆若林正恭 1978年9月20日、東京生まれ。春日俊彰とお笑いコンビ・ナイスミドルを結成。その後、オードリーと改名する。ツッコミ担当。バラエティーを中心に、テレビ、ラジオなど活躍の場を広げる。エッセイ集『社会人大学人見知り学部卒業見込』がベストセラーに。2018年『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』で斎藤茂太賞を受賞。