江戸時代から続く名門中の名門・音羽屋の芸を受け継ぎ、女方も立役も魅力的に演じる「歌舞伎界の貴公子」五代目尾上菊之助。このたび、自身初ドラマ主演作となる『刑事アフター5』が、あす10月1日(木曜 後8:00~9:48)、テレビ朝日系で放送される。昨今、映像作品においても目覚ましい活躍をみせる歌舞伎俳優の一人としての自負や、『刑事アフター5』の見どころを語った。

【写真】アルゼンチンタンゴ教室の講師役でパパイヤ鈴木が出演

――近年、大河ドラマ『西郷どん』(2018年)、『下町ロケット2』(18年、19年)、『グランメゾン東京』(19年)などのドラマでも存在感を放っていらっしゃいますね。

【菊之助】ありがとうございます。現代劇の撮影も、歌舞伎の舞台も、気持ちは一緒です。歌舞伎は公演がはじまったら25日間、同じ劇場で、同じ演目を演じますが、一度として同じ舞台はない。毎日リセットして、ゼロから気持ちを立ち上げます。ドラマの撮影もその日、その日でまっさらな気持ちで挑むという点においては、何の違いもありません。今回、自分が主演ということを意識しすぎることなく、お芝居のひと場面、ひと場面を楽しもうと思っていましたし、実際、楽しかったです。

――歌舞伎俳優の方々は伝統芸能のみならず、幅広くご活躍ですよね。

【菊之助】そうですね。歌舞伎俳優が現代劇でもたくさん活躍しているというのは、それだけ歌舞伎界には人材が豊富にそろっているということだと思うんです。歌舞伎は、隈取して見得をする力強い大きな演技から、あごを少し引く程度の動きで感情表現する小さな演技まで、形だけではなく細かい心情の表現を積み上げている芝居もありますので、歌舞伎の経験は間違いなく現代劇に生かせると思いますし、歌舞伎役者が現代劇でも活躍できるというのは誇らしく思います。

――今後ますます現代劇へのオファーが増えそうですね。

【菊之助】現代劇、時代劇にかかわらず、機会をいただければ積極的に映像作品にも出演したいです。

――『刑事アフター5』のどこにひかれましたか?

【菊之助】『刑事アフター5』は、事件が起きて解決するだけでなく、これまで犯人逮捕のために人生を捧げ、家族や自分の時間も顧みず捜査に突き進んできた主人公の広橋航(ひろはし・わたる)が、働き方改革の煽りで、「9時5時勤務、残業ゼロ」という新しい働き方、価値観を受け入れていくストーリーです。二時間の刑事ドラマと言うと、シリアスな作品を想像しますが、働き方改革をテーマにした設定が斬新だと感じました。

――撮影前に、警察関係者に直接会ってお話しされたそうですね。

【菊之助】警察の方に、「働き方改革なんて言ってられないですよね?」と聞いたら、意外にも「いや、そうじゃないんです。警察の中でも働き方改革には厳しくやっていて、それはリアルな話なんですよ」とおっしゃっていて。それを聞いて、この作品は架空の話だけではなくて、実際に起きている話なんだと理解しました。

――広橋は、“捜一のハシビロコウ”と呼ばれるほど、鋭い観察眼を持ち、刑事の仕事にまい進してきた男。突如、残業できなくなって、趣味も特技もない彼はアフター5を持て余す。労務管理コンサルタント・九路五月(玉城ティナ)の目を盗んで勤務時間外に捜査しようとするもそれも叶わず、アフター5を利用して捜査することに。そこで、アルゼンチンタンゴにも挑戦されました。

【菊之助】本当に大変でした。踊りという同じジャンルですが、日本舞踊とリズムの取り方が異なり、とても難しかったです。日本舞踊では男女ペアで密接に向かい合って組んだことはありませんので、タンゴの先生も教えるのにすごく苦労されたと思います。普段とは違う筋肉をたくさん使ったんでしょう、練習の翌日は、全身が筋肉痛になりました(笑)。

――アルゼンチンタンゴのシーンは最大の見どころかもしれませんね。

【菊之助】刑事ドラマなので、シリアスな場面もあるのですが、仕事一筋、娯楽とは無縁の生活を送ってきた人間が、働き方改革の渦に巻き込まれ、どう変わっていくのか、が見どころの一つです。広橋は、真面目な男ゆえに空回りする、そのおかしみを感じていただける場面も多くありますので、リラックスしてご家族そろって観ていただけたらうれしいです。アルゼンチンタンゴのシーンはぜひご注目ください!

――新型コロナウイルスの影響で歌舞伎も3月から全国で中止となりました。8月から再開となり、このドラマの放送後、10月3日からは名古屋・錦秋御園座歌舞伎(10月18日が千穐楽)を控えていらっしゃいますね。

【菊之助】コロナ禍にあって、娯楽、エンターテインメントの必要性について考えました。劇場にお越しいただき歌舞伎を観るというは“不要不急”かもしれないけれど、歌舞伎を含め娯楽を楽しめる心は必要不可欠なものだと思います。劇場では、お客様に感染予防のためにご不便をおかけすることが多々ありますが、それでも観に来てくださった方に、いままで以上の芸をお見せしようという気持ちでおります。一日も早い収束を祈るばかりです。