コロナ禍で各社さまざまなデザインのマスクを販売するなか、造形作家のしばたたかひろ氏は見た目のインパクト大な「ラーメンマスク」を発表。 “冷感”とは真逆で、メガネが曇るほど熱々に見えるという「メガネ×ラーメン」の弱点を逆手に取ったユニークな作品で、約25万いいねを獲得した。本作をはじめ、“リアルすぎる”焼きそば型加湿器“など、実用性を度外視し、デザインに重きを置いた作品作りを行っている同氏。コロナ禍で日本全体が沈むなか、なぜ人々が思わず笑顔になる作品を次々と発表し続けているのか?

【しばたさん作品写真】気分はハム太郎?妹のリクエストで作った人間サイズのひまわりの種

■日常生活の“脇役”を自分の手で表舞台に出したい

━━もともとの本業はアニメーション作家だそうですね。

【しばたたかひろ】はい。作・構成からキャラクターデザイン、絵などをすべて一人で手がける「アートアニメーション」を制作しています。すべて一人で行うので、作家性の高い作品になっています。

━━立体造形を作るようになったきっかけは?

【しばた】東京藝術大学大学院でアニメーションを専攻していた時、友人から「アニメに関わらず、もっと積極的に作品をアウトプットしたほうがいいよ」と助言を受けて、粘土で作品を作り始めたのがきっかけです。SNSに上げたところ、いろいろな人に見てもらえるようになって、今は、アニメと立体造形を半々くらいのバランスで行っています。

━━子どもの頃から物作りは好きだったのですか?

【しばた】小さい頃から粘土で物を作るのが好きでしたね。みんなが可愛い猫とか作っているときに、化石とか、とにかくリアルなウシガエルとか、謎めいた物ばかり作っていました(笑)。

━━大人になった今は、SNSなどで話題となった「ちょっとレトロな換気扇のミニチュアブローチ」など、日常生活で出合う身近な物をモチーフに作品を作られていますね。

【しばた】身の回りにある物で、なるべく他の人がブローチにしていないマニアックな物を題材に選んでいます。普段あまりフィーチャーされない日常生活の中に埋もれているような物を、僕の手で作品にすることで表舞台に出したいという気持ちがあって、それはほとんどの作品に通じているかもしれません。

■「マスクとメガネの曇り」という永遠の課題を逆手に

━━SNSで大きな話題となった「ラーメンマスク」は、いつ頃、どんなきっかけから、制作に至ったんですか?

【しばた】コロナ禍の影響で世の中にマスクが普及して、僕も何かマスクで、落ち込んでいる世の中をひと笑いさせられないかなと考えまして。マスクとメガネの曇りというのは永遠の課題なので、最初はそれをどうにかクリアできないかと考えたのですが、全然思いつかなくて、じゃあ、逆に曇りを生かそうと。で、メガネが曇る状況って何かなっていろいろ考えたときに、ラーメンだと。

━━制作期間は?

【しばた】これは早かったです。閃いてから構想に1時間、制作に5時間。ただ、僕は普段、布をミシンで縫ったりしないので、マスクをどう縫ったらいいのかは少し苦労しました。

━━ツイッターにもたくさんのコメントが寄せられたと思いますが印象的だったものは?

【しばた】海外からのコメントがとにかく多くて。「どこで買えるのか」「いくらで買えるのか」という声がたくさん届いて驚きました(笑)。あと、某大手量販店からも製品化のお話をいただきましたが、量産できないので丁重にお断りさせていただきました。

━━「ラーメンマスク」は、SNSだけでなく『アウト×デラックス』(フジテレビ系)でも紹介されました。

【しばた】(判定で)アウトが(満点の)10で安心しました。そもそも、馬鹿げた、くだらない作品なので、アウトがつかなかったら逆に困ります(笑)。あと、実は正式名称は「ラーメンマスク」じゃないんです。

━━えっ?正式名称じゃないんですか?

【しばた】一応、「メガネが曇るほどラーメンが熱々に見えるマスク」って付けたんですけど、いつの間にか「ラーメンマスク」って呼ばれるようになって、僕も今はそれを受け入れてます(笑)。

━━なるほど、「ラーメンマスク」は略称だったんですね。しばたさんが本作を通じて伝えたかったメッセージとは?

【しばた】コロナ禍により世界中でたくさんの方が亡くなられて、多くの医療従事者が大変な思いをされ、世間の雰囲気がとても落ち込んでいます。。でもそんな暗い中にも楽しみというか、息抜きをする時間があってもいいんじゃないかと思って制作したので、メッセージと言われると、「たまには笑顔になってもいいんじゃないか」ということでしょうか。それまでも立体造形作品の制作においては、落ち込んでいる人に笑ってほしいという思いがあったのですが、コロナ禍によりその気持ちはより強まったと思います。

■実用性よりも、人々の心に向けて“無駄なもの”を制作

━━実用性よりも見る人や使う人が笑顔になり、結果、心が豊かになる。しばたさんが作られる作品には、そんな思いが詰まっている気がします。

【しばた】僕は「実用的でない物がいい」というこだわりから、これまで“無駄なもの”だけを作ってきました。実用的な物は世の中にあふれかえっているし、それより“心に向けて作る”ことのほうが、デザインの可能性を広げられるのではないかと考えています。

━━アニメーションの制作も同じスタンスですか?

【しばた】アニメーションの活動は、世の中のちょっと落ち込んでいる人たちの物語や、社会問題を扱うような真面目なテイストなので、そちらを知っている人たちには、立体造形作品との違いにビックリされます。ただ、アニメも真面目なテーマを扱いつつ、扱われた人が救われるように描いているので、根底は同じ。僕が作品を作る理由はそこにあると思います。

━━最近は、ラーメンマスクをはじめ、粘土以外の素材の作品も発表されています。

【しばた】今年に入ってから、素材にこだわらずにいろいろ作りたいなと思って、そういう路線にちょっとずつ変えています。

━━作品数はどのくらいに?

【しばた】小麦粘土は何百も作っていますが、それ以外の立体造形作品は月1で作れているかいないかという状況なので、まだ両手で数えられるくらいですね。どうアウトプットしたら面白くなるかを考えるのに時間がかかり、作るのにも時間がかかるので、一つの作品に1カ月くらい要してしまうんです。

━━今までで一番反響が大きかった作品は?

【しばた】妹に「めちゃくちゃテンションが上がるおやつが食べたいよ」と言われて作った「人間サイズのひまわりの種」という名前で発表したクッキーですね。想像を上回る反響で、だいぶ拡散もしていただきました(笑)。なかなか上手に焼けなくて、ひまわりの種みたいに噛んだ時にカリッと割れなかったりと試行錯誤があったので、今までで一番思い入れ深い作品でもあります。

━━ユーモアいっぱいのご家庭ですね。

【しばた】いいえ、両親はすごくまじめな人。その反動で子どもたちはふざけちゃってるのかもしれません(笑)。

━━今、準備している作品は?

【しばた】まだ具体的には固まっていないのですが、遊園地の乗り物と日用品を絡めて、可愛い物が作れたらいいなって構想しています。

━━今後の野望は?

【しばた】作品がまとまったら個展を開いて、実際に多くの方に直接、見ていただきたいですね。できれば海外でも。100個作ったら実現したいと思います。それから、今やっている一つひとつのことがお金につながって、作家としてお金持ちになれたらうれしいです(笑)。いずれにしても、僕のアイデアが売りになるような活動をしたいので、作品自体は統一感を出すことなく、いろいろなものをこれからもどんどん作っていくと思います。

文/河上いつ子