2004年の大河ドラマ『新選組!』(NHK)や15年に上演された『burst!~危険なふたり』、18年のオリジナルミュージカル『日本の歴史』などでタッグを組んできた日本のエンターテイメント界を代表する三谷幸喜と香取慎吾による最新作、Amazon Originalドラマシリーズ『誰かが、見ている』が、今月18日よりAmazon Prime Videoにて独占配信される。

【写真】『誰かが、見ている』場面カット

 今回、2人が取り組んだのは、2002年~03年にかけて放送された『HR(エイチアール)』(フジテレビ)以来となる“シットコム”。“シットコム”とはシチュエーションコメディの略で、海外で親しまれているドラマジャンルであり、同じ舞台と主要キャストで繰り広げるコメディドラマの形式だが、「新しいスタイルのシットコムが作れないとやる意味がないと思っていたので、新しいものを作りました」と、三谷。ここに、舞台でもない、テレビドラマでもない、全く新しい形のライブ感あふれる新感覚エンターテイメントが誕生した。配信開始を前に、改めて2人に話を聞いた。

 『誰かが、見ている』は、何をやっても失敗ばかりで予想もしない失敗を繰り返す主人公・舎人真一(香取)と、書斎の壁に偶然発見した“穴”から、そんな真一の生活をのぞき見するのをひそかな楽しみとしている隣人・粕谷次郎(佐藤二朗)を中心に巻き起こるドタバタ劇。

 黄色いつなぎがトレードマークの舎人は、何をやっても失敗ばかり。誰も予想のできない失敗を繰り返す舎人に、のぞき見している隣人・次郎はハラハラドキドキ、気をもみつつ、何故か最後はくすっと笑ってしまう。ある日、次郎は娘のあかね(山本千尋)にのぞき見がバレてしまい慌てふためく。しかし、いつの間にかすっかり舎人の虜になってしまったあかねは、次郎が考えもしなかった、あるとんでもないことを思いつく…。舎人の人生を大きく変えてしまうあかねの思いつきとは? この後一体どんな展開が待ち受けているのか?

――Amazonはもちろん、配信プラットフォーム系のオリジナル作品を手がけるのがはじめての三谷さんは「驚くことばかり」だったようですね。

【三谷】まず驚いたのが、Amazonのスタッフの方々が皆さんおしゃれな感じがしました(笑)。テレビドラマの場合は来年○月に放送するというのがだいたい決まっていて、それに向けてキャスティングして、脚本を書いて、撮影していくんですが、そういったことがない中で脚本を作りはじめて、これは本当に皆さんの目に触れるんだろうか、といった不安と戦いながら書いていました。テレビドラマは尺が決まっていますが、今回のAmazonさんは、「いちおう30分なんだけど、少し延びても、短くなってもかまいません」ということで、思いっきり地上波ではできないことをやってみようと。

 僕は『奥さまは魔女』や『アイ・ラブ・ルーシー』『じゃじゃ馬億万長者』といったシットコムを観て育った世代。イギリスの『フォルティ・タワーズ』や『The Office』といったシットコムが好きで、多少なりとも影響を受けてきました。多くのシットコムは1話完結で、回をまたがる物語のつながりや進展、登場人物たちの成長は希薄な作品が多いのですが、今回は、第1話を観はじめたら第8話まで観たくなるような連続性があったほうがいいな、と思いました。

 というのも、テレビの連続ドラマのように週1回、1話ずつ配信されるのかと思っていたら、Amazonでは全話一斉配信するというのを初めて知りまして。全話まとめて観る人がほとんどなんだそうです。だからシットコムとしても新しい形をやってみようと思いました。社会に適応できないダメ男の主人公が、本人の知らないところで世界中の人々を幸せにしていって、最終的に彼自身の再生というか、復活に立ち戻っていく、そんな物語を思い描きました。何もかも新しい世界でやらせていただいている感じがあって、楽しかったです。

――配信プラットフォームという新しいフィールドで、「新しい形のシットコムをやってみたい」という思いを具現化していく上で、“香取慎吾”という唯一無二の存在は?

【三谷】僕の芝居はせりふ劇が多いのだけれど、配信コンテンツということで世界に向けて、という思いもあったので、せりふだけで笑わせるのではなく、動きや表情、シチュエーションで面白く見せることを目指しました。シットコムは主役のキャラクターが一番大事。香取さんが部屋に一人でいるのを見ているだけでも面白いキャラクターとして、舎人真一というキャラクターをつくり出し、彼が何をしたら笑えるのか、どういう状況に陥れば面白くなるか、といったことを考えてつくっていきました。僕の作品では“周りに振り回される香取慎吾”が多かったですが、今回は香取さんの方がみんなを振り回していくパターンになっています。

 シットコムは俳優としての柔軟性も含め香取さんにぴったりだと思っていましたが、やってみてわかったのは、僕がこんな風になるといいなと思って書いたものを、僕の思いどおり、もしくはそれ以上にやってくれる俳優という意味で、香取さんは本当に得難い人材。台本で僕が書ききれない部分をリハーサルや本番で作っていくこともあったんですが、僕の思いをきちんと瞬間的に理解して、瞬間的に表現できる、理解力と表現力、どちらもパーフェクトな俳優は香取さんしか僕は知らないと言ってもいい。どちらかが秀でている人はほかにいらっしゃるんですが。

 第1話で、舎人がソファーの位置をずらそうとしたら、一方の手がソファーの隙間にはさまって抜けなくなってしまう。必死に抜こうとするんだけど、もう一方の手も挟まっちゃって、さらには、足まで挟まっちゃう、というシーンがあるのですが、これは台本には書いてなくて、現場でもうちょっと面白いことができないか?と、みんなで考えて足したものなんですが、香取さんが出してくれたアイデアから生まれたシーンなんです。あれこそ、力のある人でないとできないこと。3分くらい一人でソファーと格闘しているんですが、もちろん本当に挟まってしまったわけではなく、挟まっているフリをしているんですが、きちんと挟まっているように見せて、ちゃんと笑わせて、3分くらいの間を一人で持たせられる俳優さんは本当に少ないと思う。志村けんさんか、香取さんか、っていう感じさえしました。本人はどう思っているかわからないけど喜劇俳優として、僕は全幅の信頼を置いています。

■コロナ自粛で「滅入った」香取の背中を押した三谷の“舞台”

――三谷さんの絶賛コメントを横で少し照れくさそうに聞いていた香取さんも、今回のプロジェクトに前のめりだったようですね。

【香取】三谷さんとまたお仕事ができて本当に楽しかったです。三谷さんとご一緒する時はいつもワクワクする。台本を読む前からワクワク、台本を読んでワクワク、撮影中もワクワク、早くできあがったものが観たくてワクワク、観終わった後も次が観たいと思わせてくれて、ワクワクがずっと続いている感じです。

 これまで、本当に振り回される役が多かったので、今回は本当に振り回す側の役なのかな? 裏があるんじゃないか?と、勘ぐってすごく悩みました(笑)。本当に振り回していいんですか?ってところから、本当に振り回していいんだ、とわかって、爆発させていきました。

 完成した作品を観て、「こいつ、面白いな」って思いました。そう自分で思えることも大事なんじゃないかな、と。自分のことながらすごく面白いと思うし、ここを観てもらいたいな、って思えるシーンがいっぱいある。難しいことへの挑戦でもありましたが、いつも現場は笑いに包まれていました。「どこから見ても、どこを見ても面白い、それがシットコムだ」と三谷さんが教えてくださったとおりの作品になっていると思います。

――本作は、昨年の終わりに収録していたので影響はありませんでしたが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、外出も制限され、あらゆるイベントも中止や延期を余儀なくされるなど、エンターテインメント業界にも大きな影響を及ぼしています。

【三谷】緊急事態宣言が出されていた頃に、リモートドラマであるとか、僕の作品をZOOMを用いてリモートで再演するという試みであるとか、そういうのを観ていくうちに、いろんなジャンルが増えるのはいいことだと思うし、それぞれ魅力的だし、面白いなって思うとともに、最終的に何が一番大事かといえば、そこで描かれる物語の面白さに尽きる、ということに立ち戻ったんですね。どんなに新しい受け皿ができたとしても話が面白くなかったらつまらない、という当たり前のことに気づかされました。僕らがやらなきゃいけないのは、魅力的な物語を作ることなんだってことに行き着きましたね。

【香取】僕は、けっこう気分が沈んでしまって。稲垣吾郎さんと草なぎ剛さんと3人のファンミーティングイベントで全国を回る予定だったんですが、それが全部なくなって。1月1日に出したソロアルバムのライブを4月27日にさいたまスーパーアリーナでやる予定で、そんな大きな会場で大丈夫?って言いながらもすごく楽しみにしていたんですが、それもなくなっちゃって。あんまりないんですけど、ちょっと下を向きそうになってしまった。自分のこと、人生のこと、仕事のこと、エンターテインメントのこと、これからどうなっていくんだろうって考えましたよね。

 僕、人との付き合い方が“密”なんですよ。電話で済むようなことでも足を運んで会いにいって直接話したかったり、手を握って感謝の気持ちを表したり。人と話す時はちゃんと目を見て話したいし…。コロナ対策で、会い行けないし、握手できないし、マスクしていると目は見えるけど表情がわからないし。けっこうマイナスなことばかり最初のうちは考えてしまって、つらかったです。でも、そういったことにもちょっとずつ慣れていかなければならないし、ニューノーマル(新常態)なんて言葉も出てきて対応していかなきゃならないし。

そんな中、三谷さんがPARCO劇場で舞台をやるというニュースを聞いて、それはすごく僕の背中を押してくれるものだった。どうしたらいいんだろうって、ちょっと滅入っていた時に、こんな状況下でもあの三谷さんは劇場で舞台をやろうとしている。進まなきゃいけないんだなって思わせてくれました。

――数々の作品で日本に“笑い”を提供し続け、コロナ禍でもその前進力を失わない三谷さんと、アーティスト活動やタレント、俳優としてジャンルレスに活躍し、強烈な個性を発揮し続ける香取さん。常に新しい楽しみを与えてくれる2人の最新作『誰かが、見ている』には期待しかない。