ウェブコミックで記録的なヒットとなった『ゴミ屋敷とトイプードルと私』で知られ、現在はコロナ禍におけるキャバ嬢たちの生き様を描く『胡蝶伝説』シリーズ最新作を連載中の池田ユキオさん。女性を取り巻く現代社会を鋭くえぐる衝撃作を次々と発表し、レディコミ界に新たな風を吹き込む気鋭の漫画家だ。少女漫画から転身し、「レディコミを盛り上げたい」と語る池田さんに、レディコミの明るい未来について聞いた。

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■「ぜんぜん売れない!」挫折を経てレディコミの世界へ

──少女漫画でデビュー後、なぜレディコミに転向されたのですか?

【池田ユキオさん】ぜんぜん売れなかったからです(苦笑)。少女漫画誌の新人コンテストで賞をいただいてデビューしたものの、私には少女漫画のセンスがなかったんですよね。何よりまず男性をカッコよく描くことができませんでした。

──少女漫画は、「ヒロインの相手役をカッコよく描くこと」がヒットするセオリー?

【池田さん】ということに囚われてたんです。ちゃんと読み込めば、そういう少女漫画ばかりではないですから。だけど当時は「私には読者が恋するような男性が描けない、だから売れないんだ」と思い込んでいました。

──女性を描くのは得意だった?

【池田さん】というか…好きでしたね。絵だけでなく、内容的にも女性の強さとかしたたかさを描くことが。ある編集者さんとの出会いがきっかけでレディコミ誌に描くようになったんですが、売れない漫画家だった私にどんどん仕事を回してくれたのも「女性が描ける」からだったのかな、と思ってます。

──レディコミの世界観はいかがでしたか?

【池田さん】少女漫画で育ち、キラキラした世界に憧れてデビューした経緯もあって、初めて読んだときは「ひー!」と思いました(笑)。表紙からしてドロドロして怖くて…。私の絵柄でこの世界観にフィットする漫画が描けるのかな? という不安もありましたね。

■「もがき苦しみながら生きる女性たちを描きたい」作品への想い

──SNS依存や女性の貧困など、レディコミで取り上げるテーマも時代とともに変化していますね。

【池田さん】私が初めて読んだ頃のレディコミは、嫁姑バトルとか主婦のアバンチュールみたいなのが多かったですね。あとレディコミといえば過激なエロ描写で、女性読者の欲望をあおっているという“偏見”もあったような。

──単行本化されることも少ないですね。

【池田さん】基本的にこっそり読むものでした。そういう意味ではスマホで漫画を読む時代に、レディコミが盛り上がっているのも必然なのかなと。私はそこに便乗させていただいている感じですね。

──先生の作品は、エロというよりも、エグい人物描写がウケている印象です。

【池田さん】読者の方は「こんなバカ女、いるいる」とか「私はここまで堕ちたくない」とかいう目線で読んでくださってるようですね。SNS依存も貧困も現代女性のすぐそばにある社会問題なので、リアルに恐怖だったり、あるいはバカ女が堕ちていくのがスカッとしたりとかあるのかな? と思ってます。

──そういった女性たちを主人公に描く理由は?

【池田さん】自分としてはただ面白おかしく取り上げてるつもりはないんです。でも実際に問題を抱えている女性は多くて、すごくしんどいし、人にも嫌われるし、ぜんぜんカッコよくない。それでも「生きてるんだよ」と。もがいて苦しんで、それでも生きようとする女性を描きたいというのはありますね。

──そういう生き方しかできない女性に、どこかシンパシーも?

【池田さん】あるかもしれないですね。私も少女漫画で売れなくて、自活できないので実家にパラサイトして。自分でもほかの仕事をしたほうがいいことはわかってても、漫画を描くのがやめられなかったわけですから。

■レディコミは「自分を生かせるフィールド」 強烈な刺激でエンタメに昇華

──先生がレディコミを定義するとしたら?

【池田さん】女性を主人公に、深く突き刺さるような社会の物語を描くのが、レディコミというジャンルだと私は思っています。だからそこにエロがあってもなくてもいいわけで、ただ何かしら強烈に刺激的な要素は必要なのかなと。私はリアリティよりもエンタメ重視なので、読者をギョッとさせるような描写は描いていてとても楽しいですね。

──今後さらにレディコミが盛り上がるためには、何が必要だと思いますか?

【池田さん】「不朽の名作」がこのジャンルから生まれたらいいですよね。少女漫画や青年漫画といったほかの漫画ジャンルでは、あるじゃないですか。何年も読み継がれるような名作が。あるいはタイトルではなく、作家名で選んでもらえるレディコミ作家がどんどん出てくるといいなと思いますね。

──「女性に親しみのある絵柄×エグみ」を作風とする池田先生もその1人になりそうです。

【池田さん】絵柄については少女漫画出身だからというのもあるかもしれないですね。エグい社会を描くジャンルとしては青年漫画もありますが、私は絵柄ではフィットしなかったですから。少女漫画をドロップアウトしてさんざん迷走した果てに、ようやくレディコミという自分が生かせるフィールドにたどり着けたんです。

──今後の目標を教えてください。

【池田さん】ここまで来たら、もう漫画をやめるという選択はないですね。一生、描き続けていくのが目標です。ジャンルはぜんぜん違うんですが、私のバイブルは手塚治虫先生の『紙の砦』。どんな状況に陥っても漫画を描くことを諦めなかった、漫画家としてのその生き方にいつも奮い立たせていただいています。
(文/児玉澄子)