今作で第28作目となる『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』が、新型コロナウイルスの影響による延期を経て、9月11日に公開される。プロデューサーを務めたのは、『クレヨンしんちゃん』と同年代の30歳で、ここ数年『クレヨンしんちゃん』のテレビアニメに携わり、本作でプロデューサー初就任となったアニメーション制作会社・シンエイ動画の近藤慶一氏だ。そこで、近藤プロデューサーに、今作の見どころや、“クレヨンしんちゃん世代”としての思いなどを伺った。

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■“キャラクターを動かす”京極監督と“群像劇が得意”な実写脚本家・高田氏によるタッグ

――今作の監督は『ラブライブ』や『宝石の国』の京極尚彦さんですが、オファーにはどんな狙いがあったのでしょうか。

【近藤慶一プロデューサー(以下、近藤P)】 『宝石の国』を拝見したときに、原作と違うアプローチだったこと、おかしさ、可愛さ、キャラクターを動かして魅せるカットがたくさんあったことがすごく印象に残っていたんです。基本的にアニメーションは、キャラクターを動かすと必然的にカロリーが高くなってしまう(労力・手間がかかる)ことから、スケジュールの関係でキャラクターをあまり動かさずに作っていくことが多いんですよね。でも、京極監督はキャラクターを動かしてなんぼという姿勢がフィルムから伝わる。それと、『ラブライブ』の1話目のラストで突然踊り出すシーンもすごく映画的だったこともあり、どうしても京極監督にお願いしたいとい考え、2018年に打診しました。

――京極監督は映画と並行して、テレビアニメシリーズにも参加されたそうですが。

【近藤P】 監督のほうから「僕がしんちゃんを見ていたのは子どもの頃だから、今のしんちゃんを知りたい」という申し出があり、テレビアニメシリーズに参加してもらいました。実際に参加されて、「時代に合わせて変化している面も持ち合わせつつ、基本的には変わっていないですね」とおっしゃっていましたね。

――では実写作品で活躍されている高田亮さんに脚本を依頼された理由とは?

【近藤P】 僕はシンエイ動画でプロデューサーをする前に、もともと実写で助監督をしていたんですが、山下敦弘監督の作品でお会いしたのが高田さんで。『婚前特急』や『オーバー・フェンス』のシナリオを読んで、コミカルもシリアスも、骨太なシナリオも書ける、こんなにも綺麗な脚本を書く人がいるなんて、と思ったんです。それに、今回はニューキャラクターが多く登場するので、人物に感情移入できて、なおかつラクガキングダムの世界と野原家、カスカベ防衛隊などが絡む群像劇を書ける人が欲しい。群像劇となると、高田さんがピカイチだったので、僕が監督に高田さんを推しました。

――高田さんの反応はどうでしたか。

【近藤P】 驚いていましたね(笑)。高田さんは楽しんで書いて下さっていましたが、しんちゃんもぶりぶりざえもんも好き勝手動くキャラクターだから、全然話が進まない!と大変だったそうです。基本、しんのすけは巻き込まれ型なんですよね。でも、5歳ならではのアイディアや正義はあって、それを軸に動いていく。高田さんも、こういった主人公をメインに据えるのは初めてだったらしく、どう映画として紡いでいくか悩まれたそうですが、ヒントとなったのは、高田さんのお子さんだそうで(笑)。5歳児って、お風呂上りに下半身すっぱだかで漫画読んでいたりするんですよね。途中で興味が移り変わるんでしょうね、瞬間瞬間を生きている。この作品を通して改めて、こうした子どもの面白さに30年前に気づかれていた原作者の臼井儀人さんはすごいなとおっしゃっていました。

■今作は“原点回帰”、野原家とカスカベ防衛隊メインではなく「しんちゃんが主役の映画」

――映画で描かれる「ラクガキングダム」はとても夢がある設定ですが、ストーリーや設定はどのように決められたんですか。

【近藤P】 京極監督が「『クレヨンしんちゃん』のクレヨンって何だろう」ということを気にされていて。クレヨンにはいろいろな色があることから、しんちゃん(子供)はどんな色にもなれる可能性を持っているという意味があるようですが、そこから「クレヨンをモチーフにした作品にできないか」と。アイディアノートを作ってもらい、「しんちゃんがラクガキをする」という根幹のストーリーが生まれてきました。さらに、ぶりぶりざえもんの声優に神谷浩史さんが後任されていましたので、ここで「ぶりぶりざえもん」を出さなきゃいつ出すんだ! とすぐにぶりぶりざもえんを出す事は決まりました。そこから話し合いを重ねる中で、京極監督と合致したのが、「しんちゃんが単独で主役の映画を作ろう」ということでした。

――それはなぜでしょう。

【近藤P】 クレヨンしんちゃんの映画は近年、人気の高い野原家とカスカベ防衛隊が毎年ほぼ交互にメインキャラクターになっています。でも、初期作を改めて観ると、しんちゃんにはしんちゃんにしかない良さも、やっぱりある。だから原点回帰の気概を込めて、しんちゃん一人を真ん中に据え、他のメインキャラクターは新たなキャラクターで動かそうということになったんです。

――ニューキャラクターたちはそれぞれ魅力的ですが、特にセリフ一つで笑いも感動も生む「ニセななこ」は斬新なキャラですね(笑)。

【近藤P】 これは臼井先生の原作にあるキャラなんです。クレヨンをモチーフにした作品にしようと決めてから、原作を調べてみると、23巻に「ミラクル・マーカーしんのすけ」という話があったんです。しんちゃんが絵を捨てると、絵の精が「捨てちゃダメだよ」といってミラクル・マーカーを渡し、それで絵を描くと、実物になって出てくるという話で。そこで、ななこお姉さんを描くけど、うまく描けなくて、「ニセななこ」が出てくる。かなり原作通りですが、新鮮ですよね(笑)。原作がしっかりあるから、僕らも思いきってブリーフなどを出して遊ぶことができました。

――楽しい世界観の一方で、「大人って駄目だな。自分で何もしないくせに文句ばかり言うんだな」と感じてしまう、大人にとっては耳も心も痛くなるところもありますね。

【近藤P】 大人たちは批判するだけで、次の行動をしない。その状況で声をあげるのも、やっぱり子どもで、呼応するのも子どもなんですよね。大人と子どもの対比が根深く描かれる後半30分の追い込み方は、さすがだな、と思います。そこは完全に高田さんの世界です。ただ、最初は責め方がもっとエグかったんです(笑)。そこまで責めると子どもたちも辛いだろうと、ちょっとやわらかくしています。

■幼い頃に観て育った世代、若い力で作る映画を見せたいという思いもありました

――これまでテレビシリーズに関わってこられた近藤さんにとって、本作は映画プロデューサー初就任作。映画ならではの魅力とはどんなことですか。

【近藤P】 映画は基本的にテレビアニメシリーズの延長戦上にあり、発展形だと思います。とはいえ、家族で来てもらうことが前提なので、子どもと大人が観て、どちらも持って帰れるものが必ずあってほしい。その中には感動という要素も少なからず入ってくるのだと思っています。それに今作は、プロデューサーを務める僕が初ということに加え、監督の京極さんも、脚本家の高田さんも初挑戦でした。僕は今30歳で、幼い頃にしんちゃんを観て育った世代です。そういう世代がプロデュースすること自体初めてだったので、若い力で作る映画を観せたいという思いもありました。

――ご長寿アニメならではの世代交代ですね。しんのすけ役の矢島晶子さんが小林由美子さんへ、ひろし役の藤原啓治さんが森川智之さんへと、ここ5年でメインキャストの声優さんも代わっています。

【近藤P】 矢島さんが創ってくださった“しんのすけ像”、藤原さんの“ひろし像”を引き継ぐというのは大変だったと思います。ただ、クレヨンしんちゃんという作品が、映画の中でタイムワープしたり、動物になったりできる土壌の広さを持っているので、声優さんたちもそうした土壌の上で、ご自身の経験をいかにキャラクターと重ね合わせるかを楽しんでいただけているのではないかと思います。

――近藤さんご自身も、土壌の広さを実感される場面もあったのではないでしょうか。

【近藤P】 助監督時代にやってみたかったこと――実写の脚本の人をアニメーションに参加させるということを、しんちゃんというフィールドの上で実現できました。高田さんと京極さんがタッグを組んだら面白い化学反応が起こるんじゃないかと考えていたんです。人と人を出会わせることが僕の仕事ですから。京極さんもまた、描いた絵が動きだすということをやってみたいと常々考えていたそうで、別作品で『ど根性ガエル』の様に平面になってしまうキャラクターを描いて、それが楽しかったらしく、「しんちゃん…クレヨン。ラクガキ!」と、当時から温めていたアイデアを心置き無くぶつけられたとお聞きしております。

――では、改めて近藤さん、そしてシンエイ動画にとって、『クレヨンしんちゃん』という作品はどんな存在ですか。

【近藤P】 『クレヨンしんちゃん』は安パイに作れない作品。安直に置きに行ったら最後、それが如実に現れる作品だと思うんです。時代に合わせて新しいものを常に作っていかないと、この先も作り続けられる作品じゃなくなってしまう。それは、ある意味で妥協せず作り続けることが作り手としてはやりがいのある作品です。

――そんな思いの詰まった映画が、コロナ禍で延期。いよいよ公開されますが、公開に漕ぎつけるまでには大変なご苦労もあったのでは。

【近藤P】 支えとなっていたのは、今年もしんちゃんを待ってくれている子どもたちに届けたいという思いです。このタイミングで公開して、お客さんが入ってくれるかどうかに関しては、会議を重ねてきました。しかし、原作の版元である双葉社さんから「子どもに見てもらってこそ」と言っていただいたことが、公開に踏み切るきっかけとなりました。

――待ちに待った公開、楽しみです。

【近藤P】 僕たちが幼い頃に『クレヨンしんちゃん』で学んだようなクリエイティブなものを、今の子どもたちにも見せたい。と同時に、卒業してしまった人たちにももう一度振り向いてもらう機会になればと。そして、映画を見終わったら、ぜひ親子で壁や床など気にせずに自由にラクガキしてほしいと思います(笑)。

(インタビュー・文/田幸和歌子)