テレビ東京による深夜のグルメドラマが今、新たな局面を見せている。7月から『女子グルメバーガー部』が毎週金曜に放送中だが、今までとは一味違う。主人公たちがオジサンから若い女性へ、また料理の映し方も、“映え”がより意識されているように見えるのだ。同局といえば、主演・松重豊の『孤独のグルメ』、西島秀俊と内野聖陽の『きのう何食べた?』、高畑充希の『忘却のサチコ』など、多くの“飯テロ”ドラマが浮かぶ。同局が構築し、独占状態といっても過言ではない“飯テロ”ドラマのコンテンツ強度と更なる可能性とは?

【写真】グルメバーガーにかぶりつく個性豊かな12人の女優たち

■テレ東が “飯テロ”ジャンルを独り占めにした理由は“低予算”?

 「飯テロドラマといえばテレビ東京」といわれ始めるきっかけとなったのは、2012年から放送されている『孤独のグルメ』だ。深夜ドラマとしては異例の視聴率5%を記録した回もあり、2年前には国際的なドラマ賞を受賞、去年遂にSeason8まで放送される人気っぷりを発揮している。その後、2016年には任侠×グルメという設定で話題になった『侠飯~おとこめし~』、2018年にはスペシャルドラマから好評により連続ドラマ化した『忘却のサチコ』、2019年は映画化も決定した『きのう何食べた?』、今年に入ると、中年サラリーマンが絶メシを巡る『絶メシロード』など多くのグルメドラマが制作されている。

 去年から今年にかけての年末年始は、『孤独のグルメ』、『きのう何食べた?』、『忘却のサチコ』を、「美食晩餐会」と題して三夜連続で放送。年末年始に特番を組むほどなのだから、“飯テロ”ドラマはテレ東に欠かせない存在と言っても過言ではないだろう。

 「『孤独のグルメ』が“飯テロドラマ”と騒がれ始めたのは、実はSeason2から」と話すのは、メディア研究家の衣輪晋一氏。「元々が久住昌行さん(原作)、谷口ジローさん(作画)という、知る人ぞ知るクリエイターの漫画&隠れた名作だったので、サブカルチャー界隈では話題のドラマ化でした。それが、続編が作られたことにより一般層にも格段に認知が広まった。そして『孤独のグルメ』の成功が、数多くのグルメドラマがテレ東で作られ始めたきっかけであることは間違いない」(同氏)

 もちろんグルメドラマ、もしくは食が重要なツールとなっている作品は各局でも度々放送されている。1995年の中居正広主演『味いちもんめ』(TBS系)もそうだし、『アンティーク~西洋骨董洋菓子店~』(フジテレビ系、2001年)、『ランチの女王』(同系、2002年)、『深夜食堂』(TBS系、2009年)、『信長のシェフ』(テレビ朝日系、2013年)、『ごちそうさん』(NHK総合、同年)、『ラーメン大好き小泉さん』(フジ系、2015年)、『天皇の料理番』(TBS系、同年)、『まんぷく』(NHK、2018年)、木村拓哉主演『グランメゾン東京』(TBS系、2019年)など多数。テレ東作品は他と何が違うのか?

 「傾向として言えるのは、視聴者にとって身近なことです。そのお店に実際に行ける、すぐに真似して作れるなど、“グルメ情報番組”的な要素が強い。また低予算作品が多いせいか、料理のカットが長い、お芝居のセリフや間というより、モノローグが多用されている。その結果、主人公が“食べ物”であるかのように見えるものも多い。『孤独のグルメ』などは特にそうですね」(衣輪氏)。制作作品の多さ、また“グルメ情報番組的要素”などの特徴により、「“飯テロドラマ”と言えばテレ東」という認識につながっていると言うのだ。

■ターゲットを徐々に若年層にシフト、“おやじごはん”主軸とする“飯テロ”ドラマに新たな潮流

 そんなテレ東の“飯テロドラマ”に近年、変化が見られる。『孤独のグルメ』はおやじの一人飯、『きのう何食べた?』は男2人暮らしの食卓、『絶メシロード』は中年サラリーマンを題材にした作品であり、おやじ世代のごはんをテーマとする作品が多かった。

 しかし昨今は、OLを主人公とした『忘却のサチコ』を皮切りに、2020年には女子高校生のキャンプを描き、その中でのキャンプ飯が話題になった『ゆるキャン△』や、高校生の姉妹が主演の『新米姉妹のふたりごはん』など、若年層の女性を題材としたグルメドラマが登場。“グルメ情報番組的要素”や長い料理単体のシーンと言った“テレ東らしさ”は受け継ぎつつも、主役が若い女性へと移行しているのだ。

 現在放送中の『女子グルメバーガー部』も、高校生から20代半ばの12人の女性が主役であり、視聴者のターゲットが30代以降の世代から10~20代に変わってきているようにも思える。『孤独のグルメ』がSeason8まで続き、“テレ東飯テロドラマ”に固定ファンがしっかりとついたことによって、これまで届かなかった層の獲得に踏み出したのかもしれない。

 「ドラマの企画会議に顔を出していると感じるのですが、ある程度数字が約束されている=ヒットしたジャンル、ヒットした原作がある企画が通りやすい。通りやすいので、発案者も企画しやすく、企画書の数自体が多い。そんな中で目立つためには、他とは違う切り口が必要となってくる。

 また、テレ東グルメドラマにはフォーマットがあり、例えば『絶メシロード』は“グルメ×車中泊”など、掛け算で作られていることが多い。他企画と一線を画すために、この方程式に代入するxやYに、新しい要素が感じられる原作選び、または独自のアイデアを入れることによって、結果として、若い世代を取り込む形になったとも考えられます」(衣輪氏)

■「うまそう」だけじゃない、「映えそう」を武器にした“バーガー”の妙とは

 これまでグルメドラマの要素として最も大きかったのは、どれだけ“おいしそう”と思わせるかだった。『孤独のグルメ』などの、いわゆるおじさんが主人公の場合は、おいしそうな料理をおいしそうに食らうシーンが好評だったが、『女子グルメバーガー部』では“映え”の要素が有用な役割を果たしている。

 これまでのおじさん世代に向けた作品であれば“映え”はむしろ不要だった。しかし、主人公が若い女性である本作は、以前のグルメドラマにはあまり見られなかった、料理を写真で撮影するシーンが多い。「おいしそう」と「映えそう」の両立を意識したグルメバーガーという料理を題材として扱っていると考えられる。

 また、“映え”要素を組み込むことによって、これまで主に中年男性のイメージが強かった深夜の飯テロドラマに若い女性が食いつくきっかけとなるのではないだろうか。また、映え王道の“スイーツ”などではなく、がっつりとした食べ応えのあるグルメバーガーを題材とするのは、料理をほおばる姿が魅力であるテレ東深夜の飯テロドラマの“らしさ”が出ているとは言えるのではないだろうか。

 『孤独のグルメ』や『きのう何食べた?』を放送している時間帯全体を統括しているプロデューサーは以前、テレ東のグルメドラマは「誰にでも手の届くものを描いている」と語っている。本作でもその描き方は変わらず、実際にあるグルメバーガーのお店を取材し、ドラマに仕立てている。

 誰にでも手に届くものを描くことによる“親近感”がテレ東の良さ。『女子グルメバーガー部』は、飯テロドラマにしては珍しい原作なしのオリジナルドラマになっており、リアルタイムで制作できるため、時代に合った登場人物像やストーリー展開、お店をドラマに組み込めている。その“リアルタイム”がさらなる“親近感”を呼び、テレ東グルメドラマの“らしさ”を、より進化させたという見方もできそうだ。

(文/中野ナガ)