俳優の松重豊が、小説+エッセイ集『空洞のなかみ』(毎日新聞出版)を10月24日に刊行し、小説家としてデビューすることが8月31日、わかった。俳優業の傍ら、2009年にエッセイストとしてデビュー。18年から『サンデー毎日』で連載をスタートさせたが、小説の執筆は今回が初。本著は、書き下ろし短編小説『愚者譫言(ぐしゃのうわごと)』のほかに、同誌で連載中のエッセイ『演者戯言(えんじゃのざれごと)』も収録。ともに主役は役者で、これまでの役者人生を重ね合わせた内容となっている。松重は「これまでの人生での経験の楽しかったこと、つらかったこと、傷ついたこと、理不尽な出来事などもすべて、自分を見つめながら書きました」と、万感の想いを明かしている。

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 初の小説『愚者譫言』は、麗しい国宝の弥勒菩薩との出会いから、ひたすら己と向き合う役者の葛藤を描く物語で、12編の連作短編集になっている。エッセイ『演者戯言』は松重の日々の生活、修業時代のエピソード、食べ物にまつわる話などをテンポよく綴った25編が収録されている。

 『空洞のなかみ』というタイトルには、“空っぽの自分”を表現したという松重。「40代を過ぎてから『自我や自意識は邪魔なものでしかない。空っぽの自分になるしかない』と自覚するようになり、空っぽの器に徹すると、役者をやるときに、人生を生きていくうえでもすごく楽になれるので、僕にとって“空洞”はどうしても避けられないテーマなんです」とタイトルに込めた思いを語った。

 コロナ禍の真っただ中、自宅にこもって一気に執筆。原稿を自ら編集部に送りつけたという松重。本業である役者業が全く機能しない状況下、リモート作業で刊行までこぎつけたことに対して、「奇跡というほかない」と語る。外出自粛で不安な日々が続く中、小説を書くことが心のよりどころだったという松重は、「これまでの人生での経験の楽しかったこと、つらかったこと、傷ついたこと、理不尽な出来事などもすべて、自分を見つめながら書きました」とコメントしている。

 松重は、大学卒業後の1986年、演出家・蜷川幸雄主宰の「蜷川スタジオ」に入り、芝居の基礎を身に着けた。その後、俳優業からいったん遠のき、建設会社へ就職するも、俳優・勝村政信の説得により復帰。約30年間に渡り名バイプレイヤーとして数々の作品に出演。『孤独のグルメ』(2012年 テレビ東京系)で初のドラマ主演、2019年には『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』で映画初主演も果たした。4月からスタートした『きょうの猫村さん』(2020年 テレビ東京系)では猫役に挑戦するなど、57歳になった今でも役の幅を広げ続けている。