身近に起こった出来事から、架空の物語、ときには問題提起に至るまで、SNSにはさまざまな事柄をテーマにした漫画がアップされ、話題になっている。描いているのは、多くが漫画家ではない素人。以前は、雑誌や単行本で読むのが当たり前だった漫画も、いまや形を変えつつある。そんなSNSやファンコミュニティを主戦場としながら、プロの漫画家を育成する『コルクラボマンガ専科』を主催するのが、佐渡島庸平氏(株式会社コルク 代表取締役)だ。かつては講談社で、『ドラゴン桜』や『働きマン』、『宇宙兄弟』を担当してきた敏腕編集者である佐渡島氏に、SNS漫画の現在地を聞いた。

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■紙からSNSへ…読者も作者も変化する漫画界

――なぜここまで、SNSで漫画を読む人たちが増えたのでしょうか?

【佐渡島氏】かつて、誰もが『週刊少年ジャンプ』を読んでいたように、多くの人がSNSを見ているからだと思います。雑誌や単行本など“紙”だけだった時代、漫画は“玄人の読者”のためだけのものでした。それが、インターネットやスマホの普及で大きく変わってきた。ソーシャルゲームが誕生したことで、ゲームが一般の人を巻き込んだことと同様ですね。

――雑誌や単行本で漫画を読むこととの違いは?

【佐渡島氏】SNSはお金がかからないので、気軽に読めますよね。だから、内容が重くない作品のほうが広がる傾向にあると感じています。とくに、エッセイ漫画などのジャンルはSNSに向いているんじゃないでしょうか。とはいえ、いくらSNSでバズったからといって、本になったときに売れるかどうかは別ですが。

――なるほど。

【佐渡島氏】言ってみれば、SNSによって漫画は民主化され、解放されたんだと僕は思っています。これは描く側にとってもそう。これからの漫画家は、玄人のための漫画を描くのか、それとも素人のまま漫画を描いていくのか。プロとアマチュアの差がない漫画の世界がやってくると思います。

――今後も、SNSで漫画を描く人は増えていくと?

【佐渡島氏】そうなるでしょうね。漫画家を目指していなかった人たちも、チャレンジするんじゃないかな。カメラマンになるつもりがなくても、みなさん、インスタで写真を投稿しているじゃないですか。それと同じです。

――紙の漫画を描くプロとSNS漫画の作家では、どんな違いがあるのでしょうか?

【佐渡島氏】漫画家を目指す人の多くは、出版社に作品を持ち込んで認めてもらい、本を出す…という流れが当たり前だと思ってきました。ですが、持ち込んだ先の編集者との相性もあるので、これが合致して採用されるのはなかなか難しいこと。たとえ採用してもらったとしても、編集者の好みに合わせて内容を変えるといったような、ジレンマも生まれていたと思います。持ち込みではなく、新人賞などに応募したとしても、選考にはとても時間がかかっていたんですよね。

――たしかに、そのイメージです。

【佐渡島氏】ですが、ネットやSNSでは、その真逆のことが起こっているんです。SNSに投稿した漫画がバズると、出版社の方から声がかかり、単行本化するという流れが多くなりました。つまり、以前のように作家が編集者にプレゼンし、出版社や編集者の好みに合わせる必要がなくなった。作家は、ありのままの自分を出せるようになったんです。ある意味、自分のやりたいことでファンに刺さることこそ、プロになるための近道になったと言えます。

■SNSで活動していると、「成長や変化が止まってしまう」

――佐渡島さんが主催する育成コース『コルクラボマンガ専科』は、どんな形なのでしょうか? 受講生の皆さんは「#コルクラボマンガ専科」というタグを付けて漫画をSNSに投稿していて、バズった作品も多いですが。

【佐渡島氏】当初は、Twitterなどで話題になっている人に声をかけ、いろいろと教えようと思っていたんです。ただ、すでにフォロワーが多い人に声をかけても、「これだけリツイートもあってファンも楽しんでいるのに、なんでダメ出しされないといけないんですか?」、「それは必要なアドバイスなんですか?」と言われてしまうんですね(笑)。

――佐渡島さんが教えようとしたのは、どんなことなんでしょうか?

【佐渡島氏】作家としてずっと活動していくためには、一定のストーリーテリングや絵の技術が必要なんです。SNSで活動していると、どうしても成長が止まってしまう傾向がある。作家が試行錯誤していても、フォロワーから 「前のほうが面白かった」と言われることにより、変化が怖くなってしまうんでしょう。

――その後は、やり方を変えられたのですか?

【佐渡島氏】はい。歴史に名を残すような作品を描くためには、やっぱり必要な技術が存在するんです。それなら、僕の言うことをわかってくれる人たちに集まってもらい、僕から学ぶだけでなく、受講生同士がお互いに教え合い、学び合う場を作ることが重要だと思いました。そうして作ったのが『コルクラボマンガ専科』。ここでは、出版業界の変化から絵の技術、ストーリーの作り方、さらにSNSの使い方や習慣化することの重要性を教えています。

――受講生による漫画『眠れないオオカミ』(作者:したら領)も、大きな話題になっていますね。

【佐渡島氏】彼が受けていた講義の最終日に、この漫画がバズり出したんです。「よし、したらくんを応援しよう!」と、受講生たちみんなでリツイートしたりして、協力していましたね。最初は300人ぐらいだったしたらくんのフォロワーも、どんどん増えて今では10万人を超えるほどになりました。

――講義では、バズる漫画の描き方も教えてくれるんですか?

【佐渡島氏】いえ。実は講義では、「バズることを狙うな」と言っているんです。バズることを狙うと、苦しくなってしまう。そうではなくて、「自分の伝えたいことを明確にして、しっかりと描くこと」。それが伝わった結果が、バズなんだと思っています。SNSはそうした「伝えたいこと」に共感した人が、集まってきてくれるんです。

――バズはあくまで結果であると。

【佐渡島氏】それに、バズってフォローしてくれた人が、本当にその作家が好きで応援してくれるとは限らないんですよ。たとえば、メディアに取り上げられてフォロワーが一気に増えたりすると、その中から誹謗中傷する人が出てくる。また、時事ネタを扱うと確かに気づいてくれる人は増えるけれど、それも作品のファンではなくて「とりあえずフォローしとくか」という人たち。そういうところで、炎上は起きやすいのです。目指すべきは、「あなたの作品が面白い」と言う人たちだけをフォロワーにすること。SNS漫画は、作家と読者のコミュニケーションで成り立っていますからね。

――では、SNSで漫画を発表することの利点や欠点を上げるならば?

【佐渡島氏】僕は、良いところしかないと思っています。たとえば、出版社の編集者にネームを見せてボツをくらったら1円にもならないし、フォロワーも増えません。でも、SNSで漫画を投稿したら、多かれ少なかれフォロワーが増えます。このフォロワーというのは、作者にとっては“仲間”。編集者は、単行本が売れなかったらいなくなってしまいますが、SNSのフォロワーは、面白くなくても意外と減らないんですよ。SNSではどんな漫画を描こうとも自由ですし、どんなことを描いても許される。そして、成功するまでの道のりも自由です。

――最後に、SNSで漫画を描いてみたい、人気を得たいと考える人へアドバイスをお願いします。

【佐渡島氏】なにより、楽しむことが一番。あえてバズりにいかず、自分の描きたいと思う作品を描くのが良いと思います。

(文:今 泉)