「野球で例えるなら、第7世代はすごい速球を投げるピッチャーで、今のオレたちには『あんな勢い出ないよ』って感じなんですけど、芸歴を重ねたなりに、配球で魅せるみたいなことはできるようになっているのかな」。お笑いコンビ・アンガールズの田中卓志(44)は、自分たちの今の立ち位置を冷静に分析する。かがみながら、両手をクロスさせて広げる「ジャンガジャンガ」で一世を風靡してから、気づけば今年で芸歴20周年という節目を迎えた。“キモかわいい”から時が経ち、今では「単独ライブのけいこを、マスクつけた状態でやっているんですけど、もうおじさんなんで、声張るネタとかマスクの圧力に負けそうになりながらやっていますよ」と自虐を交えて語る。円熟味あふれるアンガールズ、田中と山根良顕(44)の今に迫った。

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■デビューから4年で「奇跡的」ブレイク 田中が明かす“気持ち悪いキャラ”の変化

 これまでの歩みについて、田中がしみじみと振り返る。「20周年と言われると、やっぱり来たなという気持ちになりますね。僕らは、奇跡的に4年目くらいから、テレビに出させてもらっているので、なんとかやってこられましたが、もし注目されない時期が続いていたら、30歳になったタイミングでやめているかもしれない」。ブレイク時の自分たちについて「完全に実力不足でテレビに出始めて『きょうの収録、一言もしゃべられなかったな』ということもあったりして…。だから、今の第7世代の人たちって、急にテレビに出ても、いきなりいろんなことができるんだなってびっくりします」と舌を巻きながら、アンガールズとしての成長も語った。

 「20年やってきたら、昔よりはだいぶ面白くなったなって思いますね。しゃべることとか、笑いが起きなくても動じない自分とか、ここでは笑いが起きなかったけど、この後取り返せばいいかという気持ちの面での余裕もできましたし。奇跡的に、テレビに出ていくうちに『こうやったらウケる』とか、共演したみなさんもやさしくイジってくださって、のらりくらり、付け焼き刃でやってくることができました(笑)」

 自分たちは謙そんするが「キモかわいい」をスタートとして、これまでさまざまな魅力を見せてきた。田中は、自身のキャラクターを若干変化させてきたのだと明かす。「気持ち悪いとか言われて、若手の頃はニヤニヤしていただけなんですよ。ただ、そればっかりじゃいけないなと思って、よくよく考えたら気持ち悪いっていうのは、けっこうなことを言われているなと思って、気持ち悪いって言われたらブチ切れようと(笑)。それでさらに相手に『気持ち悪い』って言ってもらおうとか、そういう考えの変遷はありますね。だって、言われて黙ってニヤニヤしている方がヤバい人間でしょう(笑)。こっちがキレた方が、言った方も悪い人で終わらないなってなるし。イジりのきっかけとして言ってくれているなというのに気付いて、より気持ち悪く思わせた方が、全員楽しくなるんじゃないかなと」。

 こうした田中の気配りは、山根にも向いている。「コンビでのケンカほぼないですね。若手の頃は多少ありましたけど、体力使うじゃないですか。山根は奥さんもいるから、それは夫婦でずっと一緒にいたら、ケンカすることもあるだろうし。そこで、こっちでもケンカしていたら、山根ってもう、なんかどっか遠くに行きそうで(笑)。オレはケンカしないっていうことにしています」。

■『ANN0』で光ったコンビの妙 単独ライブで見せる集大成

 こうした田中のキャラクターと観察眼が、最近になって『ゴッドタン』(テレビ東京系)をはじめとしたバラエティー番組でも注目されている。「オレらも大会に出た時、勝ったのに、審査員の方に否定的なことを言われたことがあって、それはちょっと納得いかないなと思ったことがあったんです。それで『もし、オレが審査員の側になったら、勝った人はすごいし、負けた方の人も、ここがすごかったと言える人になろう』と心に決めたんです。視聴者のみなさんは、笑いを専門にやっているわけじゃないので、このネタのここがよかったっていうことについて、全部わかっていただくのは無理な話ですよね。だから『実は、ここもよかった』っていうのを最低限言って、それによって、ちょっとでもテレビに出ることが得になればいいかなと」。

 田中の気配りと山根の飾らないトークが、先月26日深夜放送のニッポン放送『アンガールズのオールナイトニッポン0(ZERO)』(深3:00 放送後1週間以内は「radiko」で聞くことができる)でさく裂し、大きな反響を呼んだ。20歳以上も年下のリスナーから「おい、タナ!」と呼ばれながらも、田中は強烈なツッコミで返し、直前に放送されていた『オードリーANN』(毎週土曜 深1:00)のパーソナリティーであるオードリーの若林正恭が自身への“挑発”を繰り返すことに、ずっと同じ熱量で怒りを向ける。もちろん、それは笑いへと昇華され、番組の大きな魅力となっていき、アンガールズというコンビだからこそなせる放送へと仕上がった。

 そんな2人の真骨頂をより堪能できるのは、やはり“コント”。10月4日と5日の2日間にわたって、東京・渋谷のさくらホールで単独ライブ『彌猴桃(キウイ)は7304日後に』を開催(配信チケット3000円<チケットぴあで発売中>、当日券4500円<各公演の開演1時間前より会場受付で販売>)。田中は、今回のライブへの決意に力を込める。「20周年っていうことで、いつもは新ネタ7本なんですけど、今回は新ネタ5本に、あとの2本は過去にやったネタの中で、リメイクしたものをやります。その2本は2日で変えるので、合計すると9本やる計算なんですが、20周年なので、気合を入れようという気持ちです。コンビとしての集大成がお見せできたらなと考えています」。

 コロナ禍でのライブ開催となることから、会場の客席も絞った形での開催となり、マスクをしていることから観客の表情が見えにくいという不安もある。「めちゃくちゃスベるんじゃないかなと思いますね。スベってないけど、笑いの量が会場の広さの割にこないと、大丈夫かなと思っちゃいそうで…。20年やっていても、新ネタの時はいまだに『どうかな?』って思いながらやっているので、心の準備はしておかないといけない」(田中)、「自分らがウケると思っていたり、ここは笑ってくれるかなというところでこなかったりすると、急にテンパって変なこと言いそうで怖いですね。自分のフォームを崩さないようにしないと」(山根)。

 どれだけ芸歴を重ね、確固たる地位を築いても、いまだに感じる“スベリ”への恐怖。それでも単独ライブを続ける理由は、コント師としての矜持と芸人としての本能にある。「やっぱりネタというのは、コンビでやるので、そこでは完全にコンビの空間になるじゃないですか。『やっぱりアンガールズはネタやるよね』という認識を、みなさんに持ってもらいたいですね。ネタの内容も、若手の頃にやっていたものとはテイストも変わってきて、話として見られるネタも増えて、昔よりはいいネタが作れるようになったなと感じています」(田中)、「単独ライブは、自分たちのことを見に来てくれたお客さんがいて、そこでウケた時が人生の中で一番うれしいので、やっぱりそれをやるために出てきたということもありますし。今回のライブもみなさんに見に来てほしいです」(山根)。若くして手に入れた「ジャンガジャンガ」という大きな武器のみならず、自分たちの特徴を生かして、次々と武器を増やしていったアンガールズの本領が”コント”で光る。