アンジャッシュ・渡部建の不倫問題が報じられた際、メディアやSNSでは「セックス依存症ではないか?」との声が飛び交った。だがこれを受けて、「セックス依存症という病名はない」という専門家からの指摘もあり、のちに鎮静化に向かった。これまでも、同様のスキャンダルが起こると取り沙汰されてきた“セックス依存症”だが、何も有名人だけが陥る病ではない。ではその実態とは何なのか? 日本で最初に顔を出して症状を公表し、漫画『セックス依存症になりました。』を描いた漫画家・津島隆太氏に、見解を聞いた。

【漫画】やめられない不倫、浮気がついに事件に⁉ 衝撃の“セックス依存症”漫画

■「この病気を多くの人に伝えるために」、あえて“セックス依存症”とした

 日本人が最初に“セックス依存症”という言葉を認識したのは、クリントン元大統領、そしてプロゴルファーのタイガー・ウッズの不倫スキャンダル報道ではないだろうか。こうした症状については海外の専門家の間でも意見が分かれ、ときに議論を引き起こしながらも、約20年にわたって“セックス依存症”という言葉は使われてきた。前述のとおり、現在は正式な病名ではなく、多くは「強迫的性行動症」に分類。2018年にはWHOが「強迫的性行動症」を精神疾患と承認している。

 漫画家・津島隆太氏が自身の経験を描いた『セックス依存症になりました。』(監修:斉藤章佳/精神保健福祉士・社会福祉士)は、そのセンセーショナルな内容から、連載当初から大きな注目を浴びた。あえて“セックス依存症”という言葉を使った理由を津島氏は、「私は医師ではなく、漫画家という“伝える側”の人間です。この病気を多くの人に伝えるためには、わかりやすい言葉を使う必要があった」と語る。この記事でもそのスタンスを踏襲し、“セックス依存症”と記したいと考える。

 津島氏は、交際相手がいるにも関わらず、複数女性との浮気行為がやめられないなど、自身の性衝動を抑えられなかった過去がある。だが、とある事件をきっかけに、自分の問題行動に疑問を抱き、病院を受診。医師からは、セックス依存症ではないかとの診断がくだった。『セックス依存症になりました。』には、その際の治療の推移や、同様の疾患を抱えた患者たちの様子が赤裸々に描かれている。

 「この漫画を描くために、“セックス依存症”について様々な本を読み勉強した」と言う津島氏。取材当時、大きな話題となっていたアンジャッシュ渡部の“多目的トイレ不倫”について聞くと、「あくまでも、報道された内容だけで判断した場合ですが」との前提の上で語る。

 「正確に言えば、報道で表されたような人物像は、セックス依存症の特徴と一致するということです。仕事に真面目で、家庭内でも良き夫というような“表”の顔がある一方、“セックス依存症”では表を維持するために裏でストレスを発散する場合が多い。そして裏では、人間関係が雑になるという特徴があります」

 ほかにも、大変なリスクがあるのに止められず、ついつい大胆になって最終的に事件化…という点も、依存症患者によくあるパターン。これはもちろん有名人に限ったことではなく、一般の人も同様だ。裏が充実するほど表がうまく行くと考える場合が多く、「不倫をしているから家族に優しくできると考えている人は、“セックス依存症”の可能性があります」と警鐘を鳴らす。

■やめられない風俗、痴漢、売春に苦しむ人々、“セックス依存症”と“性欲”の違いは?

 だが、ここで疑問が残る。“セックス依存症”は“性欲”と何が違うのか。

 「お酒に例えるとわかりやすいのですが、単にお酒が好きな人と、お酒で問題を起こすアルコール依存症の人との差、といったところでしょうか。こうした依存症に陥る原因は、“自尊心の欠如”が一般的です。例えば幼少期の虐待、性犯罪の被害、いじめ、仕事のストレス。これらを何とかしようとして依存するのですが、それがアルコールに向かう人もいればギャンブルに向かう人もいる。“セックス依存症”では向かう先が性行為なのです」

 津島氏自身も、処方された薬の作用で性欲が減退したことがあるが、にも関わらず問題行為がやめられなかったという。それは、“セックス依存症”による性衝動の目的が性欲解消ではなく、“自尊心の回復”であるからだ。そのため、津島氏の場合は、お金を払った関係である風俗に興味を持てなかったという。もちろん、一口に“セックス依存症”と言っても症状は人それぞれ。漫画で描かれた中でも、風俗通いで身を持ち崩す人もいれば、痴漢を繰り返してしまう人、年配になっても売春を止められない人などが出てくる。単なる性欲ではないからこそ、性的興奮を覚えなくても、問題行動に及んでしまうそうだ。このほか、「本当は異性への不信感がある」にも関わらず、性行為で自尊心の回復をはかろうとする場合も多い。まさに、この依存症が性欲が発端ではない証左だろう。

 また、SNSやマッチングアプリで簡単に関係を持ちやすい現代だけに、一般でも潜在的な“セックス依存症”の人は多いという。マッチングアプリを用いた不特定多数へのナンパ行為、SNSでよく見かける裏垢女子、パパ活・ママ活といったものも、「単なる承認欲求や金銭目的ではなく、依存の可能性がある」と津島氏は分析する。

 「女性の場合で危険なのは、性的な問題行動を起こしても事件化しにくいために発覚が遅れる、ということです。男性の場合は、盗撮、痴漢、強姦などの事件に発展して依存症が発覚し、それをきっかけに治療へ向かいやすい。ですが女性は、援助交際にしても風俗産業にしても、むしろそれが受け入れられてしまうことがある。その結果、現在“セックス依存症”の治療をしているのは、9割が男性なんです」

 また、とくに女性は自身が“セックス依存症”と気づいても、身近な人に相談することが難しいという。

 「女性が男性に相談すると、『じゃあセックスしよう』と言われてそういった関係になり、より依存が強くなる恐れがある。また同性に相談しても、『けがらわしい』と卑下され、自尊心のさらなる欠如が起こる可能性もある。僕のTwitterにも“セックス依存症”に悩んだ方からの相談が殺到しているのですが、そのほとんどが女性。表面化しなくとも、悩む人は大勢います」

■診療できる病院の少なさ、多くの偏見…「漫画を描いたのは正しい知識を広めるため」

 このように、潜在的な依存者が多く存在するとはいえ、現在では“セックス依存症”を診ることのできる医師は少なく、診療できる病院は都内でも数件ほどだ。アルコールや薬物依存症の治療と同様に「自助グループ」も存在するが、まだ一般的に知られていない。

 「日本は性教育も不完全で、昔から“性=悪いもの”と刷り込まれて抑圧される傾向にあります。そのため、なかなか“セックス依存症”への認知は広まりにくく、多くの偏見が生まれてきました。HIVも同様でしたよね。私がこの漫画を描いたのは、正しい知識を広めるためです。いつか、“セックス依存症”という言葉を使わなくても、多くの人が「強迫的性行動症」というものを理解できる社会になってほしいです」

 正しい認識が広まれば、“セックス依存症”の人が自身の症状に気づくきっかけになり、治療が受けられる環境も整うかもしれない。それにより、依存症による性犯罪を防止し、被害をなくすこともできるかもしれない。

 「もちろん、犯罪は犯罪で許されることではないのですが、依存症の不安を抱える人は、まずは病気を自覚することが大事。本人にとっても周囲にとっても、自覚し、また歪んだ認知を正すことが防止につながると私は思います。今後、“セックス依存症”を公表する有名人の方が出てくれば、この動きはさらに早まるのではないでしょうか」

(文:衣輪晋一)

※現在はリメイク版『セックス依存症になりました。<決定版>』を集英社『グランドジャンプめちゃ』(最新話は7/29発売8月号掲載)にて、オリジナル版『セックス依存症になりました。』の続きを、めちゃコミックにて連載中(8/7に第95話配信予定)。