『ガンダム』でクローズアップされるのは、戦いのシーンやそれにまつわる人間たちの物語。戦いが終わって数十年後の話が語られることは少ない。モデラーのMAEさん(@MAE_model)は、そんな“戦いの後”に訪れた平和な日常を想像して作品を制作。そこには、平和へのメッセージが込められていた。

【写真】「一体どんな戦いをしてきたのだろう…」“ベテラン”感のあるMAE氏作『ズゴック』

■物語の背景にある想い「今の平和は戦争の犠牲者の上に成り立っている」

――代表作は、サビて朽ちたザクのインパクトが大きいですが、これはどのようなイメージの元、制作されたのですか?

「主人公である老人の子どもや孫たちも戦争に巻き込まれてしまいました。その戦争も終わって数年後、悲しみは消えることはないが徐々に思い出に変わっていきます。動物たちと戯れる平和で平凡な日々を送ることができていますが、この平穏は戦争で亡くなった人たちが残してくれた尊い遺産。生き残った人々は、その犠牲者に思いを馳せながら毎日を大切に送らなければいけません…。

 『人の命を奪う戦争は憎むべきものだが、その犠牲の上に今の平和が成り立っている。その平和な世の中を生きる者たちは、犠牲者への感謝を忘れてはならない』という想いが、この作品を含め自分が作るすべての作品の背景にあります。ちなみに、この作品は、『UCハードグラフ ジオン公国軍ランバ・ラル独立遊撃隊セット』をベースに制作しました。作品名は『平穏』です」(MAE氏/以下同)

――ザクの横に腰掛ける老人も非常に印象的です。“平和”を描くうえでこの老人の存在は大きかったのでしょうか?

「以前から、民間人が登場するジオラマを作っています。ジオラマというと、戦闘シーンであったり、戦闘前後の兵器と兵士が登場することが多いのですが、そのシーンの裏側で生活している民間人の笑顔こそ復興のシンボルと思っています。日本は、太平洋戦争や東日本大震災など大きな出来事を乗り越えてきました。戦争と震災をオーバーラップさせるのは不謹慎かもしれませんが、復興に携わった人たちの“負けるもんか”という思いは、共通しているのではないかと思います。どんな苦境でも必ず笑える時は来る、という思いを老人の笑顔に託してみたいと思いました。

 また、長い時間を生きてきた“老人”には、いろんな経験やエピソードがあります。老人を見ることによって、この作品に起きた“過去”を想像してもらえればと思っています」

■モビルスーツの装甲を想像し、どのように凹んだかを表現

――ジオラマを制作する際、表現に一番苦労したところは?

「大きく凹んだザクの頭部の表現に苦労しました。自分の解釈では、モビルスーツの装甲は鋳造で作った硬く重い装甲と、車のボディーのような薄い鋼板によって作られた部分があると思っています。頭部は車のボディーのような構造をしていて、強い衝撃を受けるとグニャリと曲がるのではないか?と思っています。その材質の硬さや厚さを表現する手法に苦労しました。

 ガンプラは、考証が全く必要ないとは言いませんが、自由な表現が可能ですし、自分なりのストーリーを作り出すことも可能です。正解も間違いもない、自由なガンプラの世界を楽しんでいます」

――ザクの頭の凹みだけでなく、サビなどの“劣化表現”も非常に完成度が高いです。どのような手法で表現されたのですか?

「以前から、いろんなサビ表現を行ってきました。本物のサビを粉末にして塗料にしてみたりもしました。展示会などで『サビは何色で塗っているんですか?』と質問を受けることがあります。アドバイスにはなりませんが、とにかく『サビに見えるように塗る』としか答えられません(笑)。塗料自体を混色して塗ってますし、ー度塗った上から重ね塗りもします。同じ機体のサビでも、白地の中のサビと赤地の中のサビとで異なる色を使うことがあります。同じサビ色を使っても、隣り合う色の色相差の大小によって、同じサビ色に見えなくなることがあるからです。これを同じようなサビに見えるように、サビ色の色味を変えたりします。1/1の実物とは異なり、模型的な表現になりますが、要は『サビに見えるように塗る』これが自分なりの工夫です。塗装材料としては、ラッカー塗料、アクリル塗料、エナメル塗料はもちろんですが、パステルや本物のサビの粉末なども使用しています。もっともこの作品に関しては、自分の思いとは裏腹に、ネコの塗装に注目される方が多かったですね(笑)」

――「ザク」以外にも、劣化表現を施した作品が見受けられますが、その魅力とは?

「サビや退色など劣化の表現は、そのストーリーの中で『人が介した証』『無機質である兵器を有機に近づける』表現であり、テクニックだけではなく、作者のアーティスト性を表現する幅が広がるところが魅力だと思っています。

 私は、戦車模型や航空機模型も制作しますが、『機動戦士ガンダム』シリーズに登場するモビルスーツは、それらと同じ“兵器”です。兵器がどのように使用されたのか、どんな場所で使用されたのかなど、その背景を想像しながら制作するのが楽しみになっています。人の手を介した証として、そのストーリーを回顧する記号として劣化表現や退色表現が多くなっています」

――MAEさんにとって、劣化表現とは?

「材質の違い、環境の違い、使われ方の違い、時間の経過など、見る側に対して、多くの情報を与えることができます。故に、手を抜くと簡単に見抜かれてしまいますし、伝えたいものが伝わりません。まだまだ表現の幅を広げ続けなければいけないと思っています」