芸歴25年にして、170本以上の作品に出演してきた大倉孝二。ドラマだけでも『踊る大捜査線』『ケイゾク』『新選組!』『電車男』『西遊記』『アンフェア』『ショムニ』『カルテット』『アンナチュラル』と、彼が出演した名作は枚挙に暇がない。同世代には、ムロツヨシや安田顕、滝藤賢一などがおり、近年の彼ら“バイプレイヤー”俳優陣の主役昇進も注目されているが、大倉は「主役願望は一切ない」と語る。その理由とは。

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■役柄分析・役作り・作品での立ち位置も「考えない」その理由こそ名脇役たる所以?

 ドラマ、映画、舞台だけでなく、過去には教育テレビ『ひとりでできるもん!』やバラエティ番組『ココリコミラクルタイプ』にもレギュラー出演していた大倉孝二。8月からは、小芝風花主演のホラーコメディドラマ『妖怪シェアハウス』にぬらりひょん役として出演する。

――初の“妖怪役”とのことですが、お話を受けたときどう思われましたか。

【大倉孝二】僕が演じるぬらりひょんは、何百年も人間の社会にまぎれて過ごしていた妖怪。現代では弁護士やコンサルタントを生業としながら生きているんですが、割と正義の味方のような描かれ方をしているんです。監督からは「ひょうひょうと演じて欲しい」と言われていますが、正義側を演じることに慣れてないので、「大丈夫かな?」と思ったのが率直な感想ですね(笑)。

――役作りはどのように?

【大倉】基本的には、脚本に書いてある通り。あとは監督の要望や、共演者の皆さんのお芝居に合わせて自分のやれることを…という感じですね。だから僕はあまり、自分の役柄を決め込んで現場に入るということはありません。役柄について分析もしません。

――どうしてですか?

【大倉】どの作品でも、すでに脚本家や演出家の方々がいろんなことを考えて役が作られているからです。そこに僕がどう近づけるか、そこからさらに面白いと思える味付けが出来るかどうか。あまり役柄を分析すると、「このキャラはこんなセリフ言わない」という抵抗心が生まれることもあります。それはかえって、お芝居の邪魔だと思うからです。

――今回の作品の中で、ご自身の立ち位置はどのように考えられていますか。

【大倉】それもあまり考えてないですね。いつも現場に入ってから、皆さんの出方、立ち回りを見て、自分のポジションを探していく感じです。基本的にこだわりがないんですよね。そういった意味では、ぬらりひょん役は合ってるかもしれないですね(笑)。

■「辞めたい」と思いながらも、バイトをしながら切り詰めて生活していた若手時代

――「面白いことがやりたくて」演劇を始めたそうですが、芸人やテレビの世界ではなく、最初に舞台の世界を選ばれたのはなぜですか。

【大倉】それも流されるがままですね(笑)。舞台を見たこともなく、舞台俳優になりたいわけでもなく、なんとなく舞台芸術学院に入ったんです。そこで、劇団「ナイロン100℃」があまりに皆が面白いというので、生まれて初めてお金を払って観に行きました。翌日、友達にその話をすると、皆が「ナイロン100℃」のオーディションを受けると言い始めました。それで、「じゃ、俺も」ぐらいの気持ちでついていったんです(笑)。

――そして合格。

【大倉】受かった時は普通に「やったー」と思いましたね。卒業生にいとうあさこさんがいたのですが、彼女は本気で舞台女優になりたいと思っていたそうです。でも今は芸人の世界に。僕は俳優になる気持ちはそれほど強くなかったから、世の中って分からないものですね。

――若手時代は、切り詰めて生活していた時期もあったそうですね。

【大倉】基本的にバイトと演劇しかしていませんでした。「大人計画」や「劇団☆新感線」の方々とかいまや有名ですけど、昔は近いところにいて。当時、バイトの控室で八嶋智人さんや阿部サダヲさんがテレビに出始めたのを見て、「なんで俺バイトしてるんだ」とか思ったりしていました。

――それだけ聞くと、すごく舞台に情熱をかけて夢を追いかけていたように感じますが。

【大倉】昔から今までずっと仕事は楽しくないし、「辞めたい」と思ってるんですけどね(笑)。やればやるほど、自分ができないことを実感させられる職業ですから。若手時代には演出家からしょっちゅう「クビだ」とも言われてましたし、「あ、クビなんだな」と思っていたら次の舞台に呼ばれて。「辞めたい」って言ったらそれはそれで怒られるし、怒られたくないじゃないですか。それでなんとなく、今まで続けてきてしまった感じです(笑)。

――目の前の客を笑わせる“生の感動”が好きだったのでしょうか。

【大倉】そういう意味で言えば、子どもの頃にお楽しみ会で自分で脚本を書いたりしてたんですよ。周囲から言われたからですが。自分が書いたお芝居でクラス中が沸くというのは、やはり来るものがありまして。だから、初めて舞台に立ってお客さんが沸いたとき「これ、俺が好きなやつかも」と思ったのかも知れません。

■“バイプレイヤー”の難しさと“ベテラン俳優”としてのプレッシャー「危機感は毎日ある」

――ターニングポイントとなる作品はありましたか。

【大倉】映像のお仕事をいただけるきっかけになった作品は『ピンポン』ですね。またその頃、同時に野田秀樹さんや三谷幸喜さんの舞台など、大きな場に呼んでいただけることが増えていました。ただ、ギャラが支払われるのは公演のかなり後なので、「こんなに忙しいんじゃバイト出来ないじゃないか」とくさっていました(笑)。後に入ったギャラで当時の生活費のための借金を返す日々も続き、「俺、何やってんのかな」と(笑)。

――それがいまや、名バイプレイヤーとして引っ張りだこです。

【大倉】ある作品を見たとき、「あの人、印象に残ったね」と言われる仕事を常にしなければいけないと思っています。本当にいつ仕事がなくなるか分からないので。その危機感は毎日のようにあります。

――主役を立てながらも個性を求められる“バイプレイヤー”としての難しさは感じますか。

【大倉】印象的な場面がないときは、特に難しいですね。シーンが少なくても印象的であれば戦えるんですけど、そうじゃないお仕事を頂いたときに、下手に印象を作るのはかえって悪目立ちする。普通のシーンで、どうやって漂う印象を残せるか…そういうのは難しいなと思います。

――近年、松重豊さん、ムロツヨシさん、滝藤賢一さんら“名バイプレイヤー”と呼ばれてきた方々の主役抜擢が注目されていますが、大倉さんは主役願望はありますか。

【大倉】全然ないですね。いや、主役をやりたくないって言っているのではなく、自分が演じて楽しめる役を頂けることが僕にとっての一番なんです。だから、主役か主役じゃないかは僕にとって全然重要じゃなくて、そもそも自分が中心になったり、皆を引っ張っていくようなポジションは絶対向いてないと思います(笑)。

――今ではベテラン俳優と呼ばれる立場かと思いますが、そのプレッシャーはありますか。

【大倉】ありますね。前までは劇団員のノリで、ミスしても「すみません」ぐらいの気持ちでいたんですよ。でも今は、僕が失敗することはない、という雰囲気も感じられます(笑)。それは僕が力をつけたんだという過信ではなく、制作の方々が過去の僕の作品を見て、覚えていてくれて、声をかけてくれているからだと思います。今回の『妖怪シェアハウス』でも年齢が上の方なので、「人の印象に残る」妖怪になれるように頑張りたいと思います(笑)。


 なんとなく舞台の世界に入り、役作りも一切せず、「何においてもこだわりがない」と語る大倉孝二。しかしその言葉の背景には、脚本家や監督のあらゆる要求に忠実に応える柔軟性と、思考ではなく感覚で動く天性の役者としての風格を感じた。

 それは決して言語化できるものではなく、彼自身すべてが無自覚で、感性でやってのけてしまうのであろう。だからこそ、作品の邪魔をすることなく、しっかりと個性を発揮しながら、これまで170以上もの役柄を演じ分けられてきたのだ。

 『妖怪シェアハウス』では、妖怪と人間の同居生活を通して様々なドラマが展開していく。現実離れした設定ではあるが、大倉演じるぬらりひょんがお岩さんや座敷童子たちとどのような掛け合いを見せ、どのような個性や世界観を形成してくれるか、今作も期待したい。


(取材・文/衣輪晋一)