倉庫代わりに使われる廃トラックや、ボンネットバスが走る農道、ディーゼル車が走る渓流沿いの線路など、田舎の風景に思わずホッとする人は多いだろう。モデラ―のワタワタさん、はやまさ鉄道さんは、そんな日本のよくある(あった)風景を生み出してきた。それぞれ、どんなストーリーの元、日本人がホッとするような“原風景”を生み出してきたのだろうか?

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■見落としてしまいがちな、何げない素敵な場面をジオラマで再現していきたい(ワタワタ)

 トラック運転手だった祖父が、大人向けのトラックのプラモデルを作ってプレゼントしてくれたことが、ジオラマ制作の原体験だったと語るワタワタさん。自身も中学2年くらいから本格的に制作を始め、徐々にオリジナリティーを出すようになったという。

「Twitterなどでさび塗装やジオラマを知り、『現実と見間違うほどのリアルな情景を自分の机の上で再現出来たらなー』と思ったのがきっかけです。なかでも、アオシマ文化教材社さんの『ヘビーフレイト』シリーズは部品点数が多く、かなり細かい部分まで再現されていて、初めて出会い、作ったときは衝撃を受けました。見えない部分も再現されているので廃車の一部部品が取れているところなども再現しやすいです」(ワタワタさん/以下同)

 自身の代表作で、SNSでも話題となった『田舎の自動車整備工場の片隅に佇む倉庫代わりの廃車のトラック』は、地元の新潟の風景をイメージして制作された。

「新潟の田んぼだらけの田舎町にある自動車整備工場の片隅に置かれた、地元運送会社カラーの廃車になったトラックで、今も荷台部分は倉庫として使われているって感じのイメージです。地元の有名な運送会社さんで、よく走っているので作成資料も集めやすいですし、2トーンカラーで目立って、程よいレトロ感もジオラマ映えするなって思って決めました。

 トラックは基本的に現役を引退しても海外へ輸出されたりして使われることがほとんどなので、廃車が放置されるのは珍しいのですが、ジオラマとしてうまく溶け込ませられるよう、車両とベースとなるアスファルトや土の部分が違和感がないように汚れ、劣化具合を考えながら工夫して作っています。廃車をテーマにした理由は、ジオラマを作るうえで普通のトラックよりも見てくれた人がいろいろとイメージを膨らませて楽しんでくれるかなって思って。道路には稲を積んだ軽トラなども走らせてみました。

 さびや劣化部分、汚れ具合の表現の仕方にはこだわりました。さびは基本的に茶色とクリアーオレンジの瓶塗料を使い、筆や爪楊枝などで垂らした後にシンナーで拭き取ったりして再現しています。また、立体感が欲しいときはプラモデル自体をカッターナイフで少し削ったりして凹凸をつけた上から先程の塗料とシンナーで作ったりしています。

 また、劣化具合を再現するために、下地塗装用の灰色のサーフェイサースプレーも使用しています。軽く吹き付けるだけで埃っぽい感じやガラスのくすんだ感じが出るのでとてもオススメです。

 実際のそれらをいろんな角度から研究して、「このトラックはどんな経緯でここに置かれて、何年ぐらい動いていないのだろう」など、ジオラマでは表現しきれない裏の設定を、観てくれる人が想像して共感して景色に入り込んでもらう。そのためには、どうしたらいいだろうとか考えながら作成しました」

 本作も含め、こういったジオラマ制作において貫いている信念があるという。

「生活の中で見落としてしまいがちな、何げないけど素敵な場面をジオラマとして切り取って再現していきたいと思っています。その土地その土地のさまざまなな土の地面や雑草の生え方など研究中です(笑)。「駐車場に転がるホイールキャップ」「消雪パイプや錆汁で茶色く汚れたバリケード」とか、いろいろな人に共感してもらえるような“田舎あるある”を詰め込んでいろんな場面を作っていきたいです」

■作品の中に「物語」を込める事ができるのがジオラマの魅力(はやまさ鉄道)

 一方、エフェクターボードの中に、古き良き昭和の原風景を作り出したはやまさ鉄道さんも、その原体験は叔父が作った模型だった。

「子どもの頃に、叔父が自作した畳一畳くらいのNゲージ(鉄道模型)レイアウトをもらい、夢中になったことですね。『いつかは自分でも作ってみたい』と思いつつ、40年ほど過ぎていました。

 その後、渓流釣りが好きになり、いろいろなところに行くようになったことがきっかけで再燃しました。道路や線路はだいたい渓流に沿って作られ、集落も渓流沿いに点在しています。もちろん、自然のままの風景も美しいのですが、自然の中に、線路があり、道があり、家があると、そこに苦労して線路を敷き、道を作り、家を建てて、なんとか自然と折り合いをつけて暮らしてきた人々の物語が想像できます。それを思うと、手付かずの自然とはまた違った魅力を感じ、そんな風景を、Nゲージレイアウトで作ってみたいと思いました」

 40年の時を経て作り出した、代表作「渓上里村」はそんな人々の物語が見事に表現されたもの。同氏の頭の中には、明確な物語のイメージがあった。

「物語については、『渓上里(けいじょうり)村はその昔、平家の落人が自然に湧出する湯を発見して、戦による傷を癒やすために逗留し、その一部が定住したのが村の始まりとされています。以来、周辺の農民たちに農閑期の湯治場として親しまれてきました。しかし、高度成長期の旅行ブーム、さらに近年の秘境ブームもあいまってすっかり観光地化してしまいました。ここでは、戦後間もなくより渓上里駅近くで居酒屋「はや正」を営む店主よりご提供いただいた貴重な写真で、まだまだひなびた湯治場の風情を色濃く残す昭和時代の渓上里村の様子をご紹介します』というもの。すべて私の妄想ですが(笑)」

 そんな同氏がジオラマ制作において大事にしていることがあるという。

「実物そっくりに“リアルに作る”ことに拘らず、“リアルに見える”ように工夫する、という事でしょうか。性格が変にマジメ(?)なものでつい「実物通りに作らなきゃ」と思ってしまうのですが、私の技術では難しかったり、そもそも物理的にムリな場合も多い。

 例えば、植木鉢の花をNゲージのスケール、1/150で実物そっくりにリアルに作ることにこだわったら、そもそも作るのを諦めてしまうかもしれません。諦めるくらいなら、なんとなく花に見えそうな方法をいろいろ考えて試してみればいい。その結果、渓上里村に咲いている花は、みんな線路のバラスト石をエナメル塗料で着色した物です。「お金かけるな手間かけろ」「お金使うな頭を使え」などは、ジオラマ作りにおける私の信念ですね(笑)。

 単に「風景」を再現するだけではなく、作品の中に「物語」を込める事ができるのがジオラマの魅力だと思います。ちょっと大袈裟かもしれませんが、私にとっては小説を書く、ドラマや映画を作るのと同じようなことなのかもしれません。『手元に置ける「物語」』ですね」