テレビ朝日系で21日に放送されるドラマスペシャル『スイッチ』(後9:00)。脚本は坂元裕二氏、主演は阿部サダヲ、ヒロインに松たか子、「鉄板」といっていい組み合わせが実現した本作で、監督を務めたのは、浜辺美波&北村匠海主演の映画『君の膵臓をたべたい』(2017年)、平手友梨奈主演の映画『響 -HIBIKI-』(2018年)、有村架純&坂口健太郎主演のドラマ『そして、生きる』(2019年、WOWOW)などを手掛けてきた月川翔氏。どんなドラマが完成したのか、坂元脚本の魅力とは? 撮影中の裏話など、月川監督に聞いた。

【写真】月川翔監督

――坂元裕二さんの脚本を演出するのは今回が初めてとのことですが…

【月川】念願の[坂元裕二脚本]を監督できるチャンスが巡ってきたのは望外の喜びで、何が何でもやり遂げたいと思いました。

――坂元さんは、『東京ラブストーリー』(1991年)、『Mother』(2010年)、『最高の離婚』(2013年)、『カルテット』(2017年)など、数々の名作ドラマを誕生させ、近年は舞台や映画でも活躍。先日、NHKで放送されたリモートドラマ『Living』でも話題を呼びました。更新され続ける坂元脚本の魅力は何だと思いますか?

【月川】僕は会話の面白さが坂元脚本の魅力と感じていて、会話一つでキャラクターのものの見方や感じ方がありありと伝わってくる。なんなら登場人物の普段の態度まで、想像できる。表面的には軽妙なやり取りが多くて、それ自体笑えるんですけど、その奥に人間性が垣間見えたり、哀愁や悲哀が感じられたり、物事の本質を丁寧に描いているところだと思います。

――好きな作品を挙げると?

【月川】『Mother』と『カルテット』。『Mother』は毎話感動して泣いていました。『カルテット』は、第1話を見たときに、「面白い」と思ったと同時に、これはいったいどういうシナリオで、どうしてこうなったのか、研究したくなりました。まず、脚本を買って読んで、自分ではこういう演出はできなかったもしれないと思ったので、土井裕泰監督にお会いして、「どういうふうに作っていったんですか?」と聞いて、学ばせていただきました。

――監督が監督に取材することはよくあるんですか?

【月川】普段から、ほかの監督とお会いする機会があれば、自分が感銘を受けた作品について聞くようにしているんですが、自分から会いたいです、お時間くださいと連絡をとって、会いにいったのは『カルテット』の土井さんが初めてでした。

――月川監督の探究心の強い一面を持った方なんだな、と思いました。

【月川】自分で経験して見つけてきたことなんて、数が知れている。このやり方が正しいと思ってやってきたけど、本当はもっといいやり方があるんじゃないか、ほかの監督のやり方から学べるところがあるんじゃないか、と思って、お話を聞ける機会があったら聞くようにしているんです。いろいろお話を伺うと、作品それぞれだよね、ってところに着地することが多いのですが、それでも何かしらの気づきにはつながっているような気がします。

■『スイッチ』あらすじ

 横浜地検みなとみらい支部の検事・駒月直(阿部サダヲ)と、横浜ゴールド法律事務所の弁護士・蔦谷円(松たか子)は、学生時代から7年間付き合っていた元恋人同士。別れた後も、お互いに恋人ができると紹介しあう食事会を開くなど、腐れ縁を10年以上続けていた。

 ある日、直は料理研究家である恋人の佐藤亜希(中村アン)を、円は広告代理店勤務の恋人、鈴木貴司(眞島秀和)を紹介し合うため4人で食事をすることに。貴司と亜希を交えたぎこちない食事会を終え、それぞれカップル同士で観覧車に乗り、夜景を楽しむことになった4人。観覧車の中で、奇遇にも直と円はそれぞれプロポーズされるのだが…。そんな中、直が担当している「みなとみらい連続突き飛ばし事件」が、新たな展開を見せ始める。

――今回の『スイッチ』はどのように取り組まれたのですか?

【月川】坂元さんを交えての打ち合わせの場で、「僕はこのキャラクターたちの態度や生き様を客観的に観察する立場で物語をとらえていこうと思っています」と伝え、坂元さんからも「監督がよろしければ、それで」という確認ができたので、余計なことはせず、ある事件を巡って検事と弁護士として対峙することになった元恋人同士の2人のやりとり軸に観察するように撮っていきました。

 撮影中に感じたことは、普通の人が出てこない(笑)。みんな個性的なんだけど、突飛ではない。誰もが心のどこかで感じているようなことを少し飛躍させることで、とんでもないオリジナリティのあるキャラクターが生まれてくる。これも[坂元裕二脚本]の魅力だと、改めて思いました。心のどこかでみんなが思ったことがあるよね、というところを広げた言動を登場人物がするから、観る者の心を捉えて離さないんだな、と思いました。

 阿部さん、松さん、眞島さん、中村さん…、役者さんたちのお芝居もとても豊かで、目の前で繰り広げられている言動以上に想像を膨らませてくれるんです。阿部さんと、松さん、二人のシーンでいうと、アイスペールの中の氷をグラスに入れようとして、うまく入れられなかったハプニングがあったんですが、直と円だったらこうするだろうな、という動作でさりげなく切り抜けていったことがありました。それがまたキャラクターの説得力を生んでくれて。台本どおり、こちらからお願いした指示通りでありながら、登場人物がそうせざるを得ないかのように自然に見せきる表現力に深い感銘を受けていました。

――阿部さんは、坂元作品の『anone』(2018年)や『Living』に出演しており、松さんは坂元氏が作詞を担当した曲「明日、春が来たら」で歌手デビュー、『カルテット』で主演を務められました。阿部さんと松さんは、映画『夢売るふたり』(2012年)で結婚詐欺をはたらく夫婦を演じたほか、舞台や映画で何度も共演している。“坂元ワールド”の住人ともいえるふたりの共演がますます楽しみになってきました。

【月川】撮影している時は、こちらが少し無理のある動きをお願いしても、役者さんたちが「はい、わかりました」と自然とやってくださいました。編集をしながらいろいろと気づくことが多かったんです。あれ? これアドリブかな?と思って、台本を開くと、ちゃんと書いてある。シーンをつないでみて、役者さんのささいな動きにもいちいち説得力があることを発見していったのは、僕にとって初めての経験でした。

――本作は、40代の大人のラブストーリーというのも見どころかと思いますが…

【月川】10代の恋愛を描いた作品では、キスシーンが、ゴールになっていることも多いのですが、今回の40代の大人たちのラブストーリーは、キスをしたその先にある、大人の照れというか、気恥ずかしさまで描いた、生っぽいものになっています。大人の視聴者の皆さんならご自身の人生経験から想像していただけるだろうという信頼のもと、登場人物それぞれから感じる余白を楽しんでいただきたいと思っています。

■『スイッチ』あらすじ(続き)

 横浜地検みなとみらい支部の検事・駒月直(阿部サダヲ)が担当していた「みなとみらい連続突き飛ばし事件」で、ついに死者が出てしまう。通行人の背中を突き飛ばして逃走するというこの事件の7人目の被害者が犯人を目撃し、捜査が進展すると思われた矢先のことだった。

 これまでは週刊誌が犯人を「背中どん男」と名付けるなど、どこか軽視されていたこの事件だったが、事態は一気に深刻化する。しかし任意で警察の取り調べを受けることになった男・大木和馬(篠原悠伸)が犯行を自供。加えて7人目の被害者の衣服繊維が付いた大木の手袋も発見される。ひとまずは傷害で逮捕令状を請求できると浮足立つ警察だが、直は殺人の証拠が見つかっていない段階での見切り発車に危機感を覚える。

 一方、横浜ゴールド法律事務所の弁護士・蔦谷円(松たか子)は、事務所の所長・八角夏美(高畑淳子)から大木和馬の弁護を頼まれる。依頼人である大木の父親は、大手建設会社の次期社長と目されている大切な顧客のため、絶対に釈放を勝ち取らなければならない、事務所にとっての重要案件だという。ある理由から刑事事件を一切引き受けないと決めていた円だったが、条件付きで、渋々ながら大木を弁護することに。

 物証を発見し、安心しきっている警察の調書を読んでいた直は捜査ミスを発見。さらに大木の担当弁護士が、元恋人で10年以上腐れ縁が続く円だと知りがく然とする。

 検事と弁護士、それぞれの立場から事件の真相を追い求める二人――。一見単純に見えた事件の裏に隠された衝撃の事実が明らかになったその時、彼らにも人生の選択の時が訪れる!?