新型コロナウイルス感染症の影響で、日本プロ野球機構(NPB)の開幕が大きくずれ込むなか、読売巨人軍のYouTube公式チャンネルが話題を集めている。練習風景やトレーニング指南などに加え、エース・菅野智之投手が自身の投球の球速を次々と当てる「菅野智之投手、驚異の感覚」をはじめ、「元木ヘッド いじりアナウンス」「ジャイアンツ釣り部」「早口言葉に挑戦してみた」「即興ラップを披露」など実に多彩な内容。球界の盟主だけに、規律も厳しいイメージがあるが、企画やサムネイル画像は、遊びゴコロにあふれ、ファンとの距離を縮めている。球界No.1のチャンネル登録者数(19.9万人※5月19日現在)を誇る読売巨人軍が、一体どのようにしてどのようにして様々なコンテンツを生み出しているのか?読売巨人軍ブランドコミュニケーション部、同ファン事業部に話を聞いた。

【写真】坂本選手、亀井選手が試合では見せない満面の笑み…読売巨人軍YouTubeサムネイル

YouTube参入は「チームや選手により親近感を持ってもらいたい」

――スポーツ紙やニュースなどでも取り上げられることが多い読売巨人軍が、いつ頃から、どのような経緯でYouTubeに参入したのですか?

【読売巨人軍ブランドコミュニケーション部】マスメディアには出ない球団独自の映像を発信することで、チームや選手により親近感を持ってもらいたい、という意図で、YouTubeチャンネルを2016年3月に開設しました。その後長らく模索していた時期が続きましたが、昨年12月に、情報発信強化を目的としたデジタルコミュニケーションの専従部署「ブランドコミュニケーション部」を新設。これが大きな転機となりました。

――86年に及ぶ歴史と伝統を重んじ、「巨人軍は紳士たれ」という言葉に象徴されるように、読売巨人軍=規律が厳しいというイメージを持っている人もたくさんいると思います。そのなかでこうした形で情報を発信することへの反対意見などはありませんでしたか?

【同部】初めてFacebookを開設した際(2011年7月)には、SNSに対して慎重な意見も多くありました。ですが、デジタルメディアによる情報発信の重要性が高まっていることは、球団内で徐々にコンセンサスを得られるようになり、YouTubeを始めた時点で特に反対はありませんでした。

成り行きで決まった菅野投手の「超一流の遊び」…驚きと興奮で鳥肌

――今年2月にスタートした春季キャンプ以降、ほぼ毎日動画の更新が行われています。その内容もドキュメンタリー的なものから、選手のトレーニングの様子、円陣に焦点を絞ったものや練習オフ日のものなど実に多岐にわたっています。どのようにして、このような多彩な動画の撮影を行っているのでしょうか?

【読売巨人軍ブランドコミュニケーション部】新しい部署が発足して初めて迎えた今春のキャンプでは、毎日企画会議を行って、一軍、若手、投手、野手など日々のテーマを決めて、ファンの方々が求める情報と、球団として出したい情報を試行錯誤しながら、本数を多く出しました。ここで良い反応が得られたことで方向性に自信が持てたと思います。

 動画運営において心がけていることは「ファンの方々がどのような映像を求めているか」と「どうすれば映像で選手の価値を高められるか」。この2つを念頭に置き、そのためにできるだけ長い時間カメラを回し、何気ない会話などから垣間見える選手の人間性や魅力などを拾っていけるように心がけています。目の前で大勢のプロ野球選手が練習をしている状況で「ネタに困る」ということはありません(笑)。

――動画の中身もさることながら、サムネイルやテロップなどの編集からも遊びゴコロが感じられます。

【同部】テロップを丁寧に入れることは心がけています。それは演出的な意図はほとんどなく、聴覚に難のある方や音が出せない状況で見る方にも楽しんでいただきたいという思いからです。スマホで見る人も多いと思うのでできるだけ大きい文字を入れるようにしています。サムネイルも1番見てほしい場面、面白いと思う場面を切り取って「見たくなるような」ものを目指しています。入れる文字は「大きく・簡潔に」。ベースとなる画像との兼ね合いも考え、見やすくするため色合いにも気を遣います。

――数々の動画を撮影、編集してきたなかで、一番印象に残っている動画はどれですか?
【同部】当チャンネル内で最高再生回数217万回(5月19日現在)の「菅野智之投手、驚異の感覚」です。菅野投手がブルペンで自分の球速を投球前後に次々に言い当てるという内容です。事前打ち合わせなどもなく、成り行きで始まった「超一流の遊び」を目の当たりにし、撮影中にも関わらず驚きと興奮で鳥肌が立ちました。

――動画を撮影し始めて、選手、コーチ、監督からはどのような声が上がっていますか?

【同部】原監督や阿部二軍監督もアップした動画を見てくださっていて、原監督からは「よく頑張っているじゃないか」と声をかけていただきました。選手たちからも「見たよ」と言ってもらうことが多々あり、自らアイデアを持ちかけてくることも増えてきました。

コロナ禍だから「動画」でファンのストレス発散を

――コロナ禍でプロ野球の開幕の見通しが立たないなか、こうした動画での情報発信はファンにとってうれしいことだと思います。球団にはどのような声が寄せられていますか?

【読売巨人軍ブランドコミュニケーション部】更新頻度を誉めてくださる声をよく頂きます。それと「他球団ファンなのにチャンネル登録してしまった」というコメントをいただきました。開幕を待っているのは巨人ファンだけではなく、全チームのファンなのでチームの垣根を越えてすべての野球ファンに見てもらえるような映像を発信していきたいです。

――先日は、原監督をはじめとする代表6人による6000万円の寄付、マスク、除菌ペーパーの寄贈と、医療従事者へ向けた監督、選手の動画メッセージが大きな話題になりました。

【読売巨人軍ファン事業部】病院など医療機関が物資や器具が不足する中、懸命に命を救っているというニュースを見た選手会長の菅野智之選手から4月上旬、「大変な戦いを強いられている医療現場を、できるだけ具体的な形で支援したい」と申し出があり、この呼びかけにキャプテンの坂本勇人選手、丸佳浩選手、岩隈久志選手、原辰徳監督、阿部慎之助二軍監督も賛同して、6人からの寄付となりました。

 動画内でも選手が語っていますが、特に自らも感染のリスクにさらされている医療従事者には敬意と感謝の思いでいっぱいです。球団としても、少しでも医療スタッフを支えられないかと考えました。寄付先を東京都としたことについては、86年間、東京を本拠地としてきたことに加え、最も危機的な状況にある首都・東京の感染拡大を抑えないことには、日本全体の感染終息も難しいという考えもありました。
 また、寄付だけでなく「支援の輪を広げていきたい」という思いがあり、特に原監督は「苦しんでいる人、戦っている人を支援する寄付の文化が日本にも広がってほしい」と考えていました。この思いを受け、読売新聞と読売光と愛の事業団が基金を設立しました。皆様から寄せられた善意のお金は、事務経費に充てず、医療支援に限定して使っていただきます。

 これら一連の行動の先には、スポーツを心から楽しめる日常が1日も早く戻ってほしいという願いもあります。

――このような状況だからこそ、「動画」で選手、監督の声を直接発信していく意味が非常に大きいように思えます。

【読売巨人軍ブランドコミュニケーション部】自由な外出もままならない中で、見る人が明るく、楽しく、元気が出るような映像をアップすることで、選手の情報を伝達するだけでなく、野球ファンの方々のストレス発散などにも役立てればうれしいです。

――最後にYouTubeのチャンネルとしての目標とファンへのメッセージをお願いします。

【読売巨人軍ブランドコミュニケーション部】チャンネル登録者数30万人が今年の目標です。「YouTubeを見て巨人ファンになった」「巨人のYouTubeを見て野球に興味を持った」という方々が増えて欲しいです。いずれ有名人や他競技アスリートとのコラボなどのコンテンツができれば面白いと思います。

【読売巨人軍ファン事業部】ファンの皆さんも、さまざまな困難を強いられていると思いますが、みんなで耐えてウィルスに打ち勝った先に、当たり前の日常の幸せが戻ってくると思います。選手たちは現在、開幕に備え、練習を続けています。裏方のスタッフも練習を支え、チームが一体となって、皆さんに喜んでもらえるプレーができるよう、励んでいます。開幕した日にはぜひ、プロ野球を楽しんでいただければと思っています。