「業界一のアニメオタク」として名高い声優の鬼頭明里。以前から「声優にならなければ、イラストレイターになっていた」と語っていた彼女は、新型コロナウイルス感染拡大を受けて自身のイベントが中止になった際、恨み節ではなく、SNSで自身の手書きイラストを5枚投稿。合計で約10万“いいね”がついた。『鬼滅の刃』原作が完結し「鬼滅」熱が収まらぬ一方で、声の活動の再開にはハードルが立ちはだかる。鬼頭の自粛中の過ごし方や今後の展望、さらに自身の新アルバムについてもじっくり話を聞いた。

【画像】『鬼滅の刃』20巻発売!炭治郎や禰豆子の特別イラスト(全5枚)

■『鬼滅の刃』竈門禰豆子役との共通点「自分を出すのがあまり得意ではない」

 『虚構推理』岩永琴子役、『グランクレスト戦記』シルーカ・メレテス役、『鬼滅の刃』竈門禰豆子役を務めている声優の鬼頭明里。2014年にデビューし、『タイムボカン 逆襲の三悪人』でヒロイン・カレン役を務めたのをきっかけに多くの役柄を射止め、現在では『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバルALL STARS』近江彼方役、『鬼滅の刃』竈門禰豆子役など多くの話題作に出演している。「ニュータイプアニメアワード2018-2019」声優賞(女性)では1位を獲得。今最も注目される声優の一人だ。

 アーティストとしてのデビューは2019年で10月にシングル『Swinging Heart』を発売。翌年の2020年、2ndシングル『Desire Again』をリリースし、この度、6月10日に1stアルバム『STYLE』を発売した。だが過去のインタビューでは「アーティスト活動は考えてない」と発言。この真意はどこにあったのか。

 「自分には務まらないと考えていたんです。アニメキャラクターの声とイメージで歌うキャラクターソングは担当してきて、それは割と得意だと思っていたのですが、カラオケへ行っても、私、歌っている方の歌い方に寄せて歌っちゃうタイプなんです(笑)。アーティストさんといえば、自分だけの歌い方を持っているというイメージ。そういった意味で、『私には出来ないのではないか』と考えたんです」(鬼頭明里/以下同)

 だがアーティストデビューが決まり、1stシングルも発売されることになる。

 「私にとって本当にサプライズでしたね(笑)。私は声優ということもあり、演じるキャラクターの人生観まで考え、普段彼ら彼女らがどのように過ごしているのか、自分だったらどのように感じるか、当てはめていく仕事をしていました。この影響もあったのか、楽曲によって声と歌い方を無意識に変えてしまう癖があったみたいです(笑)。おそらくその歌のイメージを自身で掘って出した答えがその結果となったのでしょう」

 アーティストデビューによって、図らずも“自分自身”と向き合うきっかけが作れたと彼女は語る。

「これまでの私は、役を“演じていた”が故に、“自分”とはなんだろう、“自分の表現したいこと”はなんだろうと、あまり考えてこなかったように思います。キャラソンの場合は、完全にキャラクターの気持ち、声で歌うんですが、アーティストとなると“自分が表現したいもの”をお客様に届けなければいけない。――そう言えば私は昔から、人の気持ちを考えてばかりで、自分を出すのがあまり得意ではありませんでした」

 そして自分を探す旅が始まった。

 「バラードなど、これまであまり聞くことのなかった音楽やアクション映画など見たことのないジャンルの映画を見るようになりました。“自分が好きなことってなんだろう”と深く考えたのは今回が初めて。とても刺激になっています」

 アーティストデビューして半年経った今も“自分とは何か”を模索中。そもそも彼女の探究心は折り紙付きで、そのせいか演じる役柄も『ラブライブ!』の学生アイドル役から、『グランクレスト戦記』では王道メインヒロイン役、『ようこそ実力至上主義の教室へ』ではクールな役、『まちカドまぞく』ではダウンテンション、その他、老婆から『鬼滅の刃』竈門禰豆子役などの人外まで、驚くほどに幅広い。

 「自分が体験してこなかった人生を演じることも多いのですが、その場合は、どういう状況でどう育ち、そして現在の状況を考え、“それがもし自分だったら”と考えます。そこにキャラクターと状況を重ね、お芝居として声に載せるのです」

■コロナ禍で声優業界も変化。空き時間に鬼頭が試みていること 彼女が仕事をする上で、もう一つ大切な要素がある。共演者との掛け合いだ。「たとえ、“絵”が間に合ってない場合でも、共演者の皆さんとの掛け合いで生まれてくるものがあるんです」。そんな彼女にとって大ベテランや先輩との共演・やり取りは“財産”となる。

 「緒方恵美さんとの共演では、役の掘り下げ方が本当に素晴らしさに感動しました。私も頑張っているつもりなのですが、皆が納得するまで突き詰めていくその姿からは多くのことを学びました。先輩の宮野真守さんですと、いらっしゃるだけで現場を明るくしてくださる素敵な人間性がまずあり、お芝居も素晴らしい。それだけではなく台本を手に家庭教師のようにシーンと役柄についてアドバイスをいただけました」

 また先輩であり、貴重な“オタク仲間”でもある悠木碧との交流も彼女にとって重要だ。

 「悠木碧さんは私がド新人の頃からよくしていただいてます。オタク趣味が合うということもあってフランクに話してくださるようになったのですが、お仕事の相談はもちろん、プライベートでも食事やカラオケへ行ったり。とてもありがたい存在です」。現在、コロナ禍で自粛中だが、「LINEで『このアプリゲーム、お勧めだからやってみて』といったメッセージが届くんです」と笑う。

 そのコロナで声優業界も様変わりしている。先日、『サザエさん』の新作が作れなくなっていることが報道されたが、それは業界全体の話でもあるという。だが彼女はその機会をポジティブにも捉えている。「YouTubeでいろんなMVを見たり、ライブ映像を見て、ライブパフォーマンスの勉強をしています。2ndシングルのリリースイベントが中止になった際はもちろん残念でしたが、だからこそファンとのつながりをもっと持とうとも考えました」。その一環でSNSに“らくがきイラスト”を投稿したのだそうだ。

 「この状況下、気持ちが沈むことも多いと思うんですけど、今回のアルバムは、楽しい気持ちになれたり、寂しい気持ちに寄り添えたりする、いろんな楽曲が詰まった一枚になっています。アルバムを聞いて、いろいろと元気をだしていただけたらうれしいですね」

 仕事が出来ないというネガティブを、自身の勉強やファンとのつながりに時間を使う&ポジティブに変えていく彼女の姿に我々も学べることは多い。『鬼滅の刃』の盛り上がりも連日話題になっているが、声優活動や歌の可能性にも挑戦し続ける彼女とともに“自分を見つめ直す旅”を楽しむ機会としたい。

(取材・文/衣輪晋一)