NHK・BSプレミアムで9日(後9:00~10:29)、松本清張ドラマ『黒い画集~証言~』が放送される。60年以上前に書かれた松本清張の短編小説「証言」は何度も映像化され、今回で7度目となる。しかも、今回は、舞台を現代に置き換え、主人公(男)の不倫相手を女性から男性に変更。この大胆なアレンジについて、原作関係者は「清張もこの脚色を面白がると思う」と太鼓判を押したという。

【場面写真】松本清張ドラマ『黒い画集~証言~』より

■松本清張作品には「身につまされ引き込まれてしまう魔力がある」

 一見幸せな家庭生活を営む男が足を踏み入れてしまった、若い相手との甘美な不倫関係。男はそれを家族に隠し通すため、ある事件について「偽証」せざるを得なくなる。そこから人生の歯車が狂っていく男の悲喜劇と、恐ろしい“不倫の代償”――なぜこの作品が、今なお私たちをひきつけるのか?

 制作統括の後藤高久氏は、「上質なサスペンスであることはもちろんなのですが、それ以上に清張氏の描く人間ドラマには誰もが身につまされ引き込まれてしまう魔力がある。普通の人がほんのちょっと道を踏み外したことから、とめどなく転落していく様子が、それはそれはホントに恐ろしいお話なのです」と評価する。

 令和版『証言』では、原作のエッセンスはそのままに、現代日本ならではの磨きをかけ、バイセクシャルや偽装結婚という現代的な要素を取り入れながら、耐える妻の思いもよらない逆襲をビビッドに描く。主人公・石野貞一郎役で主演するのは、谷原章介。妻・幸子を西田尚美、貞一郎の不倫相手、梅沢智久を浅香航大が演じる。

 谷原も松本清張作品の魅力について「罪を犯したことがないような善良な市民が、ふとしたきっかけで別の一面をあらわにしていく。そんな心の奥底を描く人間描写が魅力でしょうか。これは誰にでも起こりうる物語だという観点で見ていただけると、より一層楽しめると思います」と、語っていた。

■同性愛の設定が加わり「グッと作品の求心力が強まった」

 7度目の映像化となる今回、「(脚本・演出を担当する朝原雄三)監督と打ち合わせするまで、まさか男性同士の恋愛話になるとは思ってもいませんでした」とぶっちゃけるのは、制作統括の原克子氏。「設定を変更したことで舞台を現代にした必然性がグッと増し、ラストまで見応えのあるものになった」と、朝原監督の脚本を絶賛する。

 谷原は「同性愛の設定が加わったことで、原作よりさらに複雑で挑戦的な内容になったと思う」と、大胆なアレンジに怯むことはなかった。役作りのために年末年始も節制し、7キロちかく減量して撮影に臨んだらしい。

 相手役の浅香も「僕が谷原さんの不倫相手役という設定変更には驚きましたが、グッと作品の求心力が強まった気がします。僕自身、役者としてもチャレンジングな作品となりました」と、コメント。

 谷原と浅香のラブシーンの撮影は、金沢ロケの初日、冬の夜、野外だったそう。「撮影場所が燃え盛る陶芸窯のそばだったのが救いでした。ラブシーンは、谷原さんがとても上手にリードしてくださって、円滑に進みました…今思い返すと少し照れくさいですね」(浅香)。「浅香さんと以前に共演したときはここまで近しい関係の役柄ではなかったので、楽しみにしていました。実際に役で相対してみて、改めてとても色気がある役者さんだと感じました」(谷原)。

 そんな2人の様子を撮影現場で目の当たりにした西田は「とても美しくて純粋で、嫉妬してしまうほどでした」。金沢ロケでは、「オフの日においしいラーメン屋さんを調べて一人で並んで食べたのですが、次の日の撮影の時にその話しをしたら、谷原さんも浅香さんも、おいしいものがお好きなので、仕事終わりにおふたりで『行くぞ!』とラーメン屋さんに向かっていました(笑)」と仲良しエピソードも明かしている。

 今作の妻・幸子は、愛する夫の偽証、そして真実の告白と裏切りを許すことができるのか。西田は「幸子の天真爛漫さの奥に潜むしたたかさ、それがとても怖くて物語に引き込まれます。幸子の心理にご注目下さい。それと、ラストが原作とは違っているので、そこも楽しみに見ていただけたら。原作とは異なるラストに違っているので、そこも楽しみに見ていただけたら」と促していた。

■監督・脚本の朝原雄三氏のコメント

 松本清張作品の大きなテーマのひとつは人間の弱さだと思います。人間はその弱さゆえに、失敗を犯し、嘘を吐き、裏切り、犯罪に手を染めてしまう。犯罪にこそ踏み込まないまでも、たいていの人が多かれ少なかれ同じ経験をしていて、それゆえ小説の登場人物たちは、たちまち読者の身近な隣人となります。

 今回のドラマの主人公たちもそれぞれに弱さを抱えた普通の人間たちです。どこにでもいる普通の人間は、誰もが抱える弱さを支え合うための愛情を必要としていて、けれど、その愛情の形は一つではなく、単純ではありません。愛情は自身からも相手からも発せられますが、それを突き詰めると、一体、自身のための愛情なのか、相手のための愛情なのか分からなくなる。

 そんな、どこにでもいる私たちの生活にも潜んでいるはずの弱さと愛情が、主人公たちに引き起こす悪夢を九十分の束の間、お楽しみいただければと思います。