昨年反響を呼んだ、ビデオ監督・村西とおるの半生を山田孝之主演でドラマ化したNetflix製作の『全裸監督』。ヒロイン・黒木香役の森田望智は『情熱大陸』に出演、モデルとなった村西もドキュメンタリー映画が公開と、作品に関わる人物が次々とブレイクしていった。現在、テレビ東京系列で放送されているドラマ『来世ではちゃんとします』のキャストに名前が載る後藤剛範も、「ラグビー後藤」役から脚光が浴びた一人。それまでCM未出演だったのが4本も決定、そして今年もすでに2本の映画公開が控えている。多方面から引き合いのある彼に、これまでの俳優としての歩みを聞いた。

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■長い下積み期間 『全裸監督』出演のきっかけとは

 「インタビュー、ほぼはじめてなんで緊張します……」と謙虚に語っていた後藤は、1983年生まれの36歳。明治大学で演劇学を専攻し、唐十郎、寺山修司などの戯曲を扱った公演を行う。その後、劇団員の知人から「入らないか」と誘われ大学を中退する決断をした(現在はオーストラ・マコンドーに所属)。「俳優」としての道を選んだ瞬間だ。だがその後は、年に2~3本ほど小劇場を中心とした舞台への出演。事務所にも所属することなく、日の目を見ない期間が長く続いた。

「同世代は銀行員や外資系企業、独立して社長業など稼ぎが多い奴が多くて、周りからは『演劇って何すんの?』ぐらいに思われてましたね。舞台だけで食っていけなかったので、居酒屋とか、体格を活かしてセキュリティのアルバイトをしたりして。セキュリティに関しては、いまも会社に所属しているんです。でも、注意した相手が仕事で知っている人の可能性も出てくるので、気まずくなりそうだなと(笑)」

 周囲の出世を聞くたびに、自分だけ取り残されていく感覚はあった。それでも、野田秀樹、三浦大輔ら著名演出家の舞台、テレビドラマの端役など、着実に歩は進めていた。『全裸監督』への出演きっかけは、オーディションに参加したことだったが、後に劇場での活躍を見ていた人たちからの推薦があったことを知った。

「めっちゃ嬉しかったですね。話をもらってからオーディションまで時間があったので、めちゃくちゃ筋トレしてパンプアップさせて行ったんですよ。これまでのベンチプレスを更新するぐらい張り切ったらプロレスラーと遜色ない体型になっちゃって『もうちょっと体小さくできる?』と言われました(笑)」

■ラグビー後藤は「俺がやるべき役」

 その後、晴れて自身の名字を冠した「ラグビー後藤」役が決定。全世界190カ国に配信される大型ドラマの主要キャストとなった。

「そもそも、ひとつの連ドラに長く出るのが初めてだったのに、いきなりNetflix制作だし、最初の撮影場所がハワイだったんですよ。プライベートでも行ったことないっす(笑)。撮影の仕方、スタッフさんの立ち回りとか何もかもが初めてづくしで、ずっとふわふわした気分でしたね。共演した山田(孝之)さんや玉山(鉄二)さんは、最初クールで怖かったんですけど、途中からすごいイジってくれて、チームの一員として自覚できて。ハワイは2週間ほど滞在していたんですが、休憩中も役者同士が集まって、演技論というよりは他愛のない話ばかりをしていました。作品の空気感って、演技だけじゃ補えない部分が自分はあると思っていて。『全裸監督』ではそのオフの良い関係性が出ていたと思っています」

 ラグビー後藤は、村西とおるが立ち上げた「サファイア映像」にやってきた社会人ラグビー出身の肉体派男優という設定。裸になって女性との絡みを撮影されるなど、なかなか覚悟のいる役どころに感じる。

「以前にも舞台で『チョコボール後藤』っていう設定をやったことがあるので、そこまででもなかったです(笑)。そもそもAV男優も、視聴者のために体一つで魅せているわけじゃないですか。そういう尊敬があったんで、ラグビー後藤という役も『俺がやるべき役だ!』っていう気持ちでしたね。モデルになった方の映像も見ましたし、他の作品も演技を中心にずっと見ていて。全裸監督が終わってしばらくはAVをまともに見れないっていうか、緊張するようになりましたね」

予想以上の反響 知らない人からもLINE

 Netflixが発表した、2019年にもっとも国内で見られた作品が『全裸監督』だった。主演の山田孝之も「今まで20年俳優をやってきて、知り合いからのメッセージがこれまでの作品の中で一番多かった」と語るほどの反響の大きさ。後藤もそれをひしひしと実感している。

「ここまでとは思っていなかったです。全然知らない人からLINEが来たり。あと、これ別に暗い話じゃないんですけど、いま自宅で介護してるんですよ。毎日在宅ケアの先生や助手の女の子が来るんですけど、ちょっと恥ずかしがりながら『全裸監督見ました』とか言ってくれて。自分が一番頼ってる人たちが喜んでくれるのはすごく嬉しくて、改めてこの作品の恩恵だなと思いますね」

 大きな影響力のある作品に出て、周囲の目は変わった。では、自身はどうだろうか。

「自分自身の目線はあんまり変わってないんですよ。たぶん、周りの見方が変わったのを目の当たりにしているからかな……。自分は今までと同じ行動をしていても『やっぱり態度変わっちゃうんだね』って必要以上に敏感に受け止められたり。でも、今後もそれは続いていくと思うんで気にしてないです。変えたと言ったら、趣味の筋トレの仕方を変えたぐらいじゃないですかね」

 と本人は笑う。学生時代から続けてきた「筋トレ」は、キャラ付けにも一役買っているが、メンタルも支えてくれた重要なルーティンの一つだ。

「見た目と違って中身が女々しいっていうか、ナヨっとしたころが結構あるんですよ。でも筋トレをしていると前向きでいられるし、ストレスが溜まっても解消できる。スポーツマンは精神が清まっているじゃないですけど、筋トレのおかげで全然売れていない時代も乗り越えられている気はしています」

■舞台俳優にもっとスポットを

 『全裸監督』のキャスティングでは、後藤剛範の他にも、舞台、インディペンデント映画を中心に活動してきた俳優が多く起用されているのも特筆すべき点。「容姿」と「所属事務所」に偏りがちな国内作品の風潮に一石を投じている。

「俳優業って、大半の人が何年も売れてない時期を過ごして、なんなら辞めていくのが普通で。劇団には技術がある人がたくさんいるので、もっとスポットが当てるような仕組みができればなあっていうのは常に考えていますね。でも、それってずっと言われ続けていることじゃないですか。それでも変わらないのは『もっと作品に出て、演技経験を積んでいかないと』っていう目先の考えの人が多くて、仕組みを作るっていう大きなことに頭がまわらないのが理由としてあるんじゃないですかね」

 そうした仕組みを作ってみては…?と問いを投げかけると、含みをもたせながらもこう答えた。

「『全裸監督』がたまたま大きな作品だっただけで、まだまだ下積み段階だと思ってるし、自分自身一人前の俳優として思えてないないので一歩ずつ進んで考えたいと思います。山田(孝之)くんからは『やりたいことあるならすぐやれよ』って言われますけど(笑)」

(取材・文/東田俊介 撮影/山口真由子)