進学や就職、異動などで新居への引っ越しシーズンとなる春。家を探すときは立地や予算、築年数、設備など様々な条件で探すが、間取りを重視する人も多いだろう。そんな時に見る「間取り図」だが、引っ越しの有無に関係なく愛でる人たちがいることをご存じだろうか? 間取り図好きたち(=マドリスト)は日々、出会う間取り図を眺めて楽しんでいると言う。そんな間取り好きが高じて『間取り図ナイト』というイベントを主催したり、著書を出版した森岡友樹さんにマドリストとしての活動や、日本における間取り図の意味、そして現在携わっている物件サイトの楽しみ方など話を聞いた。

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■“オフ会”は黙々と無言に近い状況で間取り図を回し読むのが基本

――間取り図が好きになったのはどのようなきっかけだったのでしょうか。

【森岡友樹さん】子どもの頃から好きだったのですが、自覚的になったのは一人暮らしを始める18歳の頃、同級生たちが様々なタイプの部屋に住んでいた時だと思います。ただ、子どもの頃から父親がログハウスに関する本を購読していたのを幼少の頃から楽しく見てた記憶もあるので、具体的なきっかけが一つとなると難しいですね。

――間取り図にずっと親しまれてきたんですね。そして、mixiで「間取り図大好き!」のコミュニティを立ち上げられて、大型のコミュニティになるまでに人気となりました。マドリストからここまでの支持は予想していましたか?

【森岡友樹さん】意外ではなくマドリストは一定数居ると思っていました。でも、仲間を募ろうと思ったことはなくて、コミュニティという機能が楽しめそうだなぁと使い出したらマドリストが増えた、という感じでしょうか。

――そして、その後はイベントにまで発展して、チケット完売するほど大盛況に。

【森岡友樹さん】はい。「間取り図大好き!」コミュニティのオフ会は50人近くの間取リストが集まり、黙々とお気に入りの持ち寄り間取り図を回し読みします。ただただ淡々と見て楽しむという、コミュニティの再現が基本。本当に黙々と無言に近い状況で間取り図を回し読みしています。また、『間取り図ナイト』は私が壇上より魅力的で面白い間取り図のプレゼンを行っています。

――そんな『間取り図ナイト』、現在は最終回ツアー中なんですね。

【森岡友樹さん】今は最終回ツアーを47都道府県全てで行わせていただいている最中です。具体的にはあと10都道府県ほど。支持されるイベントになったのは、各地で迎え入れてくれた人々のご助力の賜物だと思っています。もう少し続きますので、もし見かけたらよろしくお願いします。

――多くのマドリストと接してきた森岡さんから見て間取り図にハマる人と言うのはどのような人でしょうか?

【森岡友樹さん】ハマる人…それぞれのハマり方があるので一概には言えませんが…。強いて言うなら柔軟な思考と想像力がある人が多い気はします。一つの答えに縛られないような人というか。

■日本の間取りの複雑さこそが暮らしの多様性に拍車をかけ、妄想しがいを生んだ

――また、森岡さんは以前、『間取り図大好き!』(扶桑社)という本も出していらっしゃいましたね。

【森岡友樹さん】表紙を含めたイラストとデザインチームが豪華だったのもあって、デザインの側面からも注目していただきました。発売当時もいい反応だったのですが、今更ながら更にニーズが高まっています。もう中古でしか買えませんが…。

――現在は販売されていないとのことで残念です…。そうやって多くのマドリストが著書を手に取ったように、SNSでも「全く住む気がない物件の間取り図見るの楽しい」「間取り図見るだけでワクワクする」などの声が多数見受けられますが、間取り図というのは海外だと少し様子が違うようですね。

【森岡友樹さん】日本以外の国の多く、特に日本が模した欧米諸国の文化の中には間取り図は決して多く存在していません。探せばある、という程度です。それはなぜか…例えばイギリスなどでは、住居の種類(呼び名)によってその物件がだいたいLDKと、おおよそでどの位の広さで何室(何ベッドルーム)あって、この全ての室は基本的に独立しており、結果的に何人暮らし向きかとかがイメージできるようになっています。郊外に多いスタイルとか、立地についても多少の予想が立てられる場合さえあります。

――長屋が「テラスドハウス」、一戸建てが「デタッチドハウス」など、呼び方があるそうですね。その分類だけである程度、どのような家か想像できる場合が多い、と。

【森岡友樹さん】はい。一方で多くの和建築では、欧米に比べて部屋の規模感は大小様々です。また室(しつ)という概念とは別に間(ま)という概念があるなど、古くなればなるほど居室寝室の独立性が担保されていない物件が多いです。例えば4LDKと言われても様々なバリエーションやサイズが想定されるわけです。この和建築と欧米式の建築(更に和洋のミックス)が混在しているのが日本の不動産なのです。

――確かに、長屋や一軒家と知ったところでどんな家か想像するのは難しいです。

【森岡友樹さん】そうですよね。必然、イメージのミスマッチが起こりやすく、予め具体的なイメージ共有を需要側と供給側とでできた方がマッチング精度が向上するわけです。そんな日本独自の理由により間取り図が発展して来たのだろうと推察しています。そういう意味では、内見を無駄足にならないようにする為には重要な情報だろうと考えます。また、この間取りの複雑さこそが暮らしの多様性に拍車をかける一助でもあり、妄想しがいを生んだだろうことは容易に推察できると思います。

■不動産はとてもとても自由だ!ということを感じてもらえたら嬉しい

――そして現在は、“物件をたしなむ”サイト『物件ファン』でご活躍です。他の不動産サイトが物件を探す人に情報を提供するのが目的であるのに対して、『物件ファン』はどのようなサイトになるのでしょうか?

【森岡友樹さん】本当にそのまま、物件をたしなむサイトになるといいなと思っています。日常のように不動産情報に触れ、自分のニーズや社会との関係性や地域性やら、自分にとってより良い暮らしに思いを馳せてもらいつつ実際に貸借りしたり、売買するときまでに不動産リテラシーがさらに向上してるといいなぁという思いです。また、日本中ですでに面白い不動産屋さんや素敵な不動産屋さん、大家さん、建築関係者が活動されていて、そういう人たちとも出会ってほしいという思いもありますね。

――サイトを見ていると、物件情報ではなく読み物として楽しめます。そして、普通に探したら出会えないような家でも、ちょっと見方が変わって住んでみたくなります。

【森岡友樹さん】そうですね。誰かにとって良くなくても、別の誰かにとっては最高な物件かもしれないという可能性を感じてもらえたらとかも考えています。まぁともかく不動産はとてもとても自由だ!ということを感じてもらえたら嬉しいですね。

――まさに、物件をエンターテインメントとして楽しむことができますね。ちなみに、サイトに掲載する物件はどのように見つけているのでしょうか?

【森岡友樹さん】すでに日本中で活躍されている素晴らしい不動産屋さんの情報と、スーモさんやアットホームさんなどの検索サイトから探していて、稀に読者投稿もいただいたり、大家さんや不動産屋さんからの自薦もあります。

――サイトへの反響はいかがですか?

【森岡友樹さん】物件ファンで出会って実際に販売や賃貸される物件ももちろんありますし、問い合わせもあります。でも一番興味深く受け取るのは「物件ファンで働きたいです」という連絡ですね。仲間が増えてるなぁという風に受け取っています。

――就職希望も! 物件を通して輪が広がっていきますね。

【森岡友樹さん】はい。先日は小説家の人とお話させて貰ったり、地域活性の企業さんやら地方行政さんとお話しさせていただいた事もあります。物件ファンは皆さんと成長させていきたいメディアだと思っています。もし何かご一緒できそうでしたらご連絡いただけると幸いです。お気軽にお問い合わせください。

――最後に、4月の新生活に向けて家探しをする読者にアドバイスをお願いします。

【森岡友樹さん】最近は初期費用がかからないシェアハウスや、比較的に安く滞在できるゲストハウス、ウイークリーマンションなんかも出てきているので、2月3月に慌てて家を探す必要性が下がってきていると思います。せっかくの新生活のための新拠点、楽しんで満足度の高い物件探しをして貰えたらと思います。