英BBCとNetflixの共同制作ドラマ『Giri/Haji』で大役を掴み、いきなり世界デビューを果たした新人女優・奥山葵。大きな夢を追いかけ、従来のような日本での女優活動の経験や成功実績を踏まずに世界へ飛び出した若き才能の素顔とは?その仕事観などボーダーレスな意識を持つ新世代女優の生き方に迫る。

【写真】ノースリーブのワンピース姿で劇中とは異なる大人の色気を溢れさせるインタビュー撮り下ろし

■初めてのオーディションで掴んだ世界デビューへの切符

――平岳大さん、窪塚洋介さん、本木雅弘さんと日本人だけでもそうそうたる顔ぶれの共演者に囲まれた世界デビュー作で、主人公の娘・多紀役を好演。女優としての存在感を世界にアピールしました。本作が女優デビュー作ともなったわけですが、まず女優を志したきっかけを教えてください。
【奥山葵】小学生の頃に映画『ハリー・ポッター』を観て“魔法使いになりたい”と思ったんですけど、それは不可能だということに気づいて、それなら『ハリー・ポッター』の映画に出たらいいんじゃないかと思いつきました。単純ですよね(笑)。高校3年生になって、将来のことを真剣に考え始めました。そのときに、『ハリー・ポッター』に出るためになにもアクションを起こさないまま死んでいく姿を想像したら、なんだか孤独な気がして。それで、高校卒業後に上京して俳優をめざすことを決めました。

――上京後は、キャスティングディレクターの奈良橋陽子さんが代表を務めるアップスアカデミーで演技を学ばれたそうですね。
【奥山葵】アップスアカデミーに入学を決めて、上京後に演技の勉強を始めました。ただ、『ハリー・ポッター』に出たい気持ちだけで上京してしまったので、「これは無理だ…もう実家に帰ろう」と何度か北海道に帰ったりもしました。それでも辞めずにいくつか舞台を経験しながら演技レッスンを続けていたら、『Giri/Haji』のオーディションのお話をいただきました。

――それまでドラマや映画など映像作品のオーディションは受けていたのでしょうか?
【奥山葵】『Giri/Haji』が初めてのオーディションでした。台本の読み方から教えてもらって、ビデオ審査を受けて、そのあと監督と直接会って目の前でお芝居をするという流れでした。この頃、お芝居をするのが楽しいと思い始めた時期だったので、最終審査で初めて平さんと一緒にシーンを演じたときはすごく舞い上がってしまったんです。ただただ「楽しい!」って(笑)。多紀役に決まったときは、『ハリー・ポッター』の舞台のロンドンに行ける!と大興奮しました(笑)。

■セリフの会話を楽しみながら流れに身を任せた撮影現場

――オーディション合格後は、撮影までにどんな準備を?
【奥山葵】引き続きアカデミーで演技を学びながら、英会話学校に通ったり、台本から多紀のキャラクターや作品について感じたことをジュリアン・ファリノ監督とSkypeで話し合ったりしました。ジュリアン監督は私の意見をしっかりと聞いたうえで、多紀のキャラクターを一緒に作りあげてくださいました。ほかにも、ヘアメイクさんやスタイリストさんがそれぞれの多紀のイメージを伝えてくださったり、私もいろいろ考えて多紀の雰囲気や服装のイメージをいくつか提案したり。すべてが初めての経験だったのですが、そんなふうにクリエイティブな作業をしながら準備をするのが、とても楽しかったです。

――ロンドンでの撮影初日は緊張しましたか?
【奥山葵】私はあまり緊張しないタイプみたいで、撮影現場では楽しく撮影をしていました。ただ、ふとした時に隣に座った窪塚さんを見ると、「『GO』の窪塚洋介さんだ!」と改めて気がついて。『GO』が好きだったので、不思議な感覚になりました。

――初めての現場でのお芝居はいかがでしたか?
【奥山葵】俳優さんたちとのセリフの会話をひたすら楽しんでいました。ロドニー役のウィル・シャープさんはアイデアマンで、毎回おもしろいお芝居をされるんです。ダンスをするようにお芝居されるというか、本当に素敵なんです。ウィルさんは時々アドリブを入れるんですけど、英語なので返すのが難しくて。でも、それが多紀にとっても自然なリアクションで、2人の関係性なんじゃないかと感じました。

■日本人俳優の違和感や意見を受け入れていた監督、脚本家

――平さんや窪塚さんは海外でも活躍されていますが、女優活動やお芝居についてのお話はされましたか?
【奥山葵】おふたりからは、今回の現場について「これはイギリスの現場のやり方で、このチームのやり方」「日本の現場はまた違う」ということを教えていただきました。それから、カメラへの向き方や立ち位置、アップで映っているときなど、カメラがどこをどう撮っているかなど技術的なことも丁寧に教えてくださいました。私にとって初めての現場だったので、とても気を使っていただき、撮影の基本的なことをいろいろ話してくださいました。

――本作はイギリス制作の作品ですが、日本の描き方がとても自然で、日本語のセリフへのこだわりも感じました。
【奥山葵】現場にいるみんなに少しでも違和感があったら、セリフを含めてかなり細かい部分まで意見を出すようにしていました。監督も脚本家さんも私たちの意見を取り入れてくれて、日本人として違和感がないように、そこはかなりこだわって撮っていたと思います。

――最終話の幻想的なダンスシーンはとても印象的でした。
【奥山葵】登場人物たちのそれまでの心情や関係性などがコンテンポラリーダンスで表現される、とても難しいシーンでした。どうやったら、ちゃんと伝えられるのかをすごく考えて、撮影前に多紀の成長や感情の流れを頭のなかで整理したりもしました。当然ながら、キャスト同士が交錯するダンスもしっかりと踊らなければいけないですし、7話かけて培ってきた物語を2~3分のダンスで表現するというのは相当ハードルが高いですよね(笑)。

――長いシーンでしたが、ワンカットで撮ったそうですね。
【奥山葵】本番前に何日間かリハーサルをして、みんな筋肉痛になっていました(笑)。本番は丸1日かけて撮ったんですけど、俳優と一緒にカメラマンさんも入るので、タイミングが難しかったです。

■俳優としての活動の場に国の意識はない

――本作は、イギリスではBBCで昨年放送され、今年Netflixで全世界配信。堂々の世界デビューになりました。本作を経て女優業への心境の変化はありましたか?
【奥山葵】俳優という職業を深く考えるようになりました。以前よりも芝居に向き合うようになったと思います。もし、本作への出演が決まっていなかったら、俳優を辞めていたかもしれないので、ラッキーだったと思います。

――世界で活動されている俳優を見ると、日本で舞台などで経験を積んで映画やドラマといった映像作品へ進むなど、俳優としての経験と実績を積んでから世界進出へ乗り出すという流れが一般的だったと思います。しかし昨今では、スポーツ選手でもいきなり海外をめざす選手も増えています。経験値の蓄積といった下積みとしてではありませんが、奥山さんは日本での女優活動についてはどのように意識されているのですか?
【奥山葵】「確かに言われてみれば」とは思います。でも、私自身はあまり日本の作品だからとか、海外の作品だからと区別して考えてはいなくて。『ハリー・ポッター』への出演を目標にしていたので、いきなりイギリス作品に出演することができて、ラッキーでした。今はとにかく台本をいただいて、いろいろな役を演じられることが嬉しいので、国は関係なくクリエイティブな人たちと一緒にお仕事ができたら幸せだなと思っています。俳優としての活動の場に、国の意識はとくに感じていません。

――目標にしている俳優はいますか?
【奥山葵】アラン・リックマンさんです。優しさと悲しさ、そして強さを合わせ持った独特な雰囲気がすごく好きで、ああいう俳優になれたらいいなと思っています。『ハリー・ポッター』がきっかけで私が生きる目標を見つけられたように、私が出演した作品が誰かにとっての『ハリー・ポッター』になれたら素敵だなと思います。そんな作品や人と出会えるように自分の信じることを一生懸命突き詰めていきます。
文:奥村百恵/撮り下ろし写真:逢坂聡
スタイリスト:濱田恵(mugico.)、ヘアメイク:田中誠太朗(Reno Beauty)