「父親視点のリアルな心情」「妻のポイントを稼ぐための育児という発想が面白い」などと、親世代から共感を呼んでいる育児漫画『そのオムツ、俺が換えます』(講談社)。作者の宮川サトシさんが、我が子との日々だけでなく、ママ(妻)に自身の頑張りを“見せる育児”が痛快に描かれている。宮川さんに、作品を描き始めたきっかけや父として育児で心がけていることなど本音を聞いた。

【漫画】オムツ交換や読み聞かせは1P、宮川さんの心の中にある「育児ポイントカード」とは…ほか微笑ましくてエキセントリック!? パパが登場する育児漫画フォトギャラ

■最初は「育児漫画」に躊躇…でも描きたいことは山ほどあった

――単行本化もされている『そのオムツ、俺が換えます』を描き始めたきっかけについてお聞かせください。

【宮川サトシ】きっかけは、講談社のサイト『ベビモフ』(当初は『BABY!』という名前でした)の立ち上げ時にお声掛けいただいたことです。最初は育児漫画を描くことに、あまり良いイメージを持っていなかったんです。

――と言いますと?

【宮川サトシ】漫画家の先輩たちが「描くものがなくなったときに手を出すジャンル」と言っているのをよく聞いていて…。自分は「まだまだこれから!」という時期でもあったので、お話をいただいた際にはやや躊躇しました。

――なるほど。で、実際そこから描いてみようと思ったのは?

【宮川サトシ】『ベビモフ』の担当さんと育児トークをして打ち合わせしていくうちに、描きたいエピソードが山ほどあることに気づいたんです。自分なりの描き方(切り口)さえ見つかれば、個性的な作品として成立すると判断し、お受けさせていただくことにしました。

――その狙い通り、パパの不器用な育児風景がとてもユニークです。特に、子供ではなくママに評価してほしいという“妻に見せる育児”にすがすがしさも感じました。世のパパたちの本音だと思いますが、漫画にする潔さにためらいはありませんでしたか?

【宮川サトシ】ためらいはなかったです。むしろそこを取ってしまったら自分が描く意味がないぐらいに考えていたので。基本、僕の漫画は「雑念」でできているので、育児をしている時の頭の中、雑念を全部さらけ出したかったんです。

――読者からの反響で覚えているものがありましたら教えてください。

【宮川サトシ】毎回たくさんの感想をいただきましたが、特に早朝妻が寝ているうちに娘をこっそり連れ出して散歩に行った話で、自意識過剰な行動から思わぬ妻の本音が知れた瞬間を描いた場面には、多くの反響がありました。我が家だけの面白エピソードを描いたつもりなので、あるあるという共感や、泣けたといった感想は意外でしたが、みんな同じなんだなと改めて思ったりもしました。

――あれは多くのママたちが抱える本音でもあると思います。

【宮川サトシ】あと、まだ結婚を考えていなかったり、子供はいらないと考えていた読者さんから、「読んでいて子供が欲しくなってしまった」と感想をいただいた時は、作品がちゃんと届いたように思えて嬉しかったですね。本音を描きすぎてお叱りのコメントをいただいたこともあったのですが、結果的には自分の描き方は間違っていなかったのかなと、安心もしました。

■育児漫画のおかげでフランケンのような男が徐々にパパに

――普段はギャグ漫画なども描かれている宮川さんですが、「子育て」をテーマに描くことで何か変化はありましたか?

【宮川サトシ】育児漫画を描くために子供をひたすら観察する必要があるので、それはやってよかったと思っています。育児について話すトークイベントのお仕事もいただいたりして、より子育てについて考えるようにもなりました。

――仕事の幅も広がったんですね。

【宮川サトシ】今は娘と毎日思いきり仲良く過ごしていますが、もともと小さな子どもとはどう接していいかわからなかったフランケンのような人間なので、育児漫画を描いていなかったら今みたいな関係が築けていたかどうかは怪しいです。

――お子さんと過ごす中で「パパ」になっていき、人間としても成長した、ということですかね。作品を通して読者に伝えたいことは?

【宮川サトシ】僕ら夫は育児をするにはするのだけど(当たり前だし)、心の中で「俺今、下手なりにも育児している!育児している俺を見てほしい!」と思ってやっているということを、世の奥様方にちょっと知ってもらいたかったというのはありますね。

――まさに「見せる育児」ですね。

【宮川サトシ】すべての夫がそう思っているのかはわからないので代表して言うつもりはないですが、たぶんみんなもそういったしょうもない雑念を抱きながら育児をしているんじゃないかなって…。

――ママたちにはなかなかわからない部分かもしれませんね。

【宮川サトシ】過去編(妊娠・出産編)でも描いた、父親としてのスイッチが入るのが、妻の母親スイッチが切り替わるのよりも圧倒的に遅いという話とかもそうで。よく夫婦間でそういうズレがあって険悪になるみたいな話を聞くので、そのあたりのメカニズムを知る上で、夫のトリセツ的にこの漫画が機能してくれたら、ママたちも多少は腑に落ちるんじゃないかなと。

――確かに夫婦にとって大事なことですね。

【宮川サトシ】夫が「何か手伝うよ」と言うと、「手伝うんじゃなくて自分でやれること探してやれよ!」みたいにお叱りコメントが飛んでくる昨今ですが、その「何か手伝うよ」を言うまでの、夫の頭の中の幼稚ではあるけど悪気のない思考だとか、そういうところが伝わるように描いていたところはありますね。誰だって喧嘩なんかしたくないですから、特に子どもの前でなんて。

■今の最重要任務は「お姉ちゃんになる長女を寂しがらせない」

――心の中に自分だけの“育児ポイントカード”を持つというのも、宮川さんならではの面白い育児法です。最近、育児ポイントが貯まったと感じた出来事はありますか?

【宮川サトシ】妻に聞いたところ、日常のすべてでポイントは貯まっているとのことで…。これと言って特筆すべきポイントゲットのエピソードはないのですが、お風呂に入れている時に娘の笑い声が大きければ大きいほど、「ポイントが貯まってるな~」とは感じています。お風呂での遊びは毎回工夫してプログラムを組んだ上で臨んでいるので。

――現在奥様は第2子を妊娠中とのことですが、家族が増える今のお気持ちは?

【宮川サトシ】2人目の出産でしっかりしなきゃと思っているのが、お姉ちゃんになる第1子のことです。彼女を寂しがらせないように、むしろこれまで以上に愛情を注がなくてはいけない。それが親としての最重要任務で、そのバランスは僕がいつも見ているから任せろと、安心して産んでくれと、そんな話を妻にいつもしています。

――素晴らしい考えですね。

【宮川サトシ】で、そのときの僕の頭の片隅には、「獲得予定のポイントが貯まってるな」という雑念(邪念)もちゃんとあります。

――(笑)。

【宮川サトシ】僕個人としては、1人目の時と同じく、やっぱりまだ実感もないですし、仕事がまわるのだろうかとか不安も正直あります。でも、次はおそらく男の子らしいので、また新しい人生の“味変え”の時がやってくるのかと思うと、いくらか楽しみでもありますね。

――弟ができることを、娘さんはどのように感じていますか?

【宮川サトシ】「うれしい、たのしみ、よしよししてあげたい。でもお父さんとお母さんがとられるのはいやだ。でも弟がとらなければやっていける。とられたらひとりでいきていく(本人談ママ)」とのことです。

――複雑な感情が入り乱れていますね。とても愛おしいです。

【宮川サトシ】親から見ていると、下の子がやってくることに不安を感じている時期もあったのですが、今は楽しみのほうが勝っている印象に見えます。娘には「頼りにしているよ!」と、僕らが彼女を必要としていることを言葉にして伝えるようにしているので、はりきっているようにも見えますね。

――育児漫画は今後も描かれる予定ですか? お姉ちゃんになる娘さんの成長もぜひ作品で見てみたいです。

【宮川サトシ】需要があれば描きたいですね。先日2人目ができたことを知人に伝えたのですが、1人目よりも反応が弱くて…(当然なのですが)。そういうリアルなところを描きたいとちょっと思ったので。

――第2子出産へ向けて、父としての目標をお教えください。

【宮川サトシ】今後は「3人」で育てることを意識しています。娘に頼れるところは頼って仕事を与えて、各自が無理をしないようにストレスを減らして、やりがいも見つけていけたらいいですね。その全体的なバランスを、司令塔になってちゃんと見て伝えていこうと思います。

――司令塔! 一家を支える父らしい重大任務ですね。

【宮川サトシ】あとは仕事でちゃんと4人分の食い扶持を稼ぐことですね。それが1番大変な気がしています。