「これほどまでに、パンティに物語があるのか…」。秋山あい氏の著書『パンティオロジー』(集英社インターナショナル)を読んだ感想だ。本書の繊細なレースやフリルが施されたパンティのイラストは、すべて著者の秋山氏が描いたもの。彼女が取材した国籍・年齢・職業もバラバラの33人の女性たちが実際に愛用しているものだ。

【パンティオロジー画像】「脱いだとき床に落ちていてもかわいいと思いたい」50歳日本人女性の場合

■パンティはブラジャーよりもプライベート、より“個人”が見える

 本書はパンティを通して自身の暮らしや人生、性に関する本音を明かす内容で、SNSでは「本の新聞広告を見かけて、目が離せなくなった」「魔界を見つけた…」「同じ女性でもパンティにこんなエピソードがあるとは想像できなかった」という反響も。これまで約100名の女性の300枚ほどのパンティ を取材してきた著者の秋山氏に、パンティを通して見えた女性の思考や価値観を語ってもらった。

――“パンティオロジー”は、現代社会の現象について研究する“考現学(モダノロジー)”を参考にしているんですよね。
【秋山あい】そうです。考現学でよく見られる、身の周りのものを集めてデータ化し、そこから何が見えるか検証するということに興味があって。私のアートワークとして、カフェオレボウルや、捨てられなくなった靴、町の風景など、コレクションしたものを手当たり次第絵に描いてブログで発信していた時期がありました 。そうするうちに、考現学という学問とアートが、自然と自分のなかでつながったんですよね。

――その対象が、なぜ“パンティ”だったんですか?
【秋山あい】パンティの絵をブログにアップしたら、思いのほかおもしろいねと反響をいただいて。そこから自分の持っているパンティをじっくり観察して絵に描くようになりました。でも自分のものだけではワンパターンに感じたので、まずは友達に“セクシー”、“リラックス”、“お気に入り”のパンティ3枚を選んでもらって、取材をさせてもらいました。

――下着はブラジャーとパンティで合わせて購入される女性も多いと思いますが、パンティだけに絞った理由は?
【秋山あい】パンティの方が、よりプライベート性が見られると思ったからです。がむしゃらに絵を描いていた時も、不思議とブラジャーは描きたいとは思えませんでした(笑)。パンティの方が、より生活 に密着していて、持ち主のクセが出る。よりプライベートで、見せないものだと思うので、そこの話が聞けるとおもしろいんじゃないかと思いました。

■100名のパンティをインタビュー「1対1で、その人の歴史を聞いていく」

――実際に、何人の方に取材を?
【秋山あい】いま、100人くらいですね。

――初対面の方から聞き出すのは、難しいこともあるのでは?
【秋山あい】全然、逆だなと思いました(笑)。日本でも海外でも、アーティストというと、一歩距離が遠ざかってしまう。それでも「何の絵を描いているの?」という話になったときに「パンティの絵だよ」というと、興味を持ってくれるんです。絵を描いているということのハードルが良い意味で下がる。身近に感じてくださるんですね。

――本では、「Tバックが苦手なため、本当にスペシャルなときにだけ、ギリギリのタイミングではいている」「失恋をしたときに、元気を出すために買った」「腰のゴムが伸びているぐらいの“ヨレパン”を、時間をかけて大事に育てる」など、かなり詳細にこだわりが語られています。そういう言葉はどうやって引き出しているのでしょう?
【秋山あい】やはり取材は1対1で相手にリラックスしていただける環境で行うこと。隣にお友達がいたら、人間どこかかっこつけちゃう。全部語れないんですよね。いきなりプライベートな質問に入らず、お名前は?  出身地は?  と基本的な情報から聞いていきます。どういう環境で育ったか、転勤族だったか、海外で暮らした経験があるか、そういうことも影響してくると思うので、その人の歴史を聞いていく感じ。みなさん意外にもスルスルと話してくださって、原稿を確認していただくときに「やっぱりここはNGで」と、泣く泣くエピソードをカットすることもあります。

――パンティを通して、その人の考え方が垣間見える。たくさん興味深いエピソードがありましたが、一番印象に残っているエピソードは?
【秋山あい】最初は友達へのインタビューからはじめたんですけど、初めて“知らない方”にインタビューをしたときのことですね。法律関係の仕事をしているフランス人の女性でした。彼女は自分のお母さんに「下着は身に着けるもののなかで一番素肌に近いものだから、いつも素敵なものを身に着けていなさいね」と言われて育ってきた方。さすがフランス人だなと思いましたね。取材場所はパリの場末のカフェだったんですけど、奥のテーブルでパンティを撮影していたら、カフェのお兄さんたちが無駄に行き来するみたいな(笑)。「ちょっとあっちに行ってて!」って言ったり。それを思い出しますね。

――女性が下着を選ぶときの考え方も、色々ありますよね。
【秋山あい】年齢を重ねるごとに、自分のことがだんだん分かってくるので、よりこだわりも強くなるのかもしれないですね。下着だけじゃなく、衣食住すべてにおいてその傾向があると思います。下着にもその人の生き方が反映されていくなというのは感じます。男性のなかには、「えっ、そんなこと考えているの?」と思われる方も多いと思う。

――例えばどんなことですか?
【秋山あい】一概には言えないですけど、「今日はこの予定があって、明日は誰々に会う。だからこの下着にしよう」とか。「その予定に合わせてこういう服を着たいから、それに合うランジェリーにしよう」とか。そういうことを瞬時に考えて、選んでいる。予定を本当に楽しみにして、どういう一日にしたいかを考えて慎重に選ばれる方もいます。一方で、引き出しの前の方にあるものから身に着けて、自分のお気に入りのものに当たれば「今日はラッキー!」と思うことにしている人とか。“女性性”に抵抗があって、あえて下着にこだわらない方もいる。でも落ち込んだ時や自分を変えたいと思った時、モチベーションを変えるきっかけにしている方が多いということには気づきましたね。

――現在は100人の方に取材されている。今後はこの“パンティオロジー”をどうしていきたい?
【秋山あい】最初は100人やったら、何か見えてくると思ったんですけどね…取材すればするほど、知りたいことが増えてきて(笑)。パンティを掘り下げて色々聞いていくと、人々の生き方とか、もっとグローバルな大きいものにつながっていくのはおもしろい。そこを膨らませていきたいです。ハードルが高く時間もかかるだろうけど、中東の女性やアフリカの女性たちはどういうものを身に着けているのか、どういうことを考えているのか取材してみたい。英語版を発信して、海外の方たちにも興味をもってもらえるよう動いていきたいです。