NHKで放送中の連続テレビ小説『スカーレット』(月~土 前8:00 総合ほか)。主演する戸田恵梨香が、ヒロイン・川原喜美子が陶芸家として本格的に歩み始めた第14週~第17週について振り返った。

【厳選】『スカーレット』第14週~第17週の名場面

■“ふたりとも間違ってない”からしんどい

――第14週「新しい風が吹いて」(1月6日~11日放送)では、父・常治の死から3年が経ち、喜美子は31歳に。陶芸家として名の知れるようになった夫・八郎(松下洸平)を支え、家庭円満に見えたが…。幼なじみの信作(林遣都)に「いまの喜美子は喜美子じゃない」と言われてしまいました。

【戸田】喜美子自身、「ほんとうにやりたいことをやれていない」という気持ちはあったと思います。でもその中に、ハチさんのことをただひたすら支えたい、フォローしたいという思いがから回ってしまうのが第14週でした。

 ハチさんもそんな喜美子の思いを受け止めているんだけれど、それもハチさんにとっては苦しい…。ふたりの思いがどんどんと絡まっていく様が、演じていてけっこう苦しかったです。喜美子と八郎は、いつも“ふたりとも間違ってない”というのが、しんどいんです。

 サニーの開店に際してコーヒー茶わんをつくりましたが(第12週)、そのときに代金をもらうかもらわないかで考えが食い違ったときも、ふたりとも正しいんですよね。どちらかが間違っていたら楽だと思うんですけれど…。

 信作が「もうちょっと、おまえがやりたいことをやってもいいんちゃうか」と背中を押してくれるのは、信作だからこそできることですし、信作だからこそ、喜美子の心にぐさっと刺さるんですよね。だけど喜美子は、「まずハチさんが」って考えてしまう。喜美子と八郎の愛情が本物だからこそ、しんどいことってあるんだなと、この作品を通して知りました。

――第15週「優しさが交差して」(1月13日~18日放送)では、久しぶりの食器の大量注文に心躍らせる喜美子。しかし、八郎が弟子の三津(黒島結菜)のアイデアを容れて、和食器のセットを作ろうとしていること、銀座の個展の場所を下見に行こうとしていることを聞かされ、動揺する。

【戸田】第15週は喜美子が絵付け小皿の大量注文を受け、久しぶりにものづくりに対して燃える気持ちを思い出して没頭していくので、「ああ、喜美子のこの姿がみたかった」と個人的に思った週でした。ハチさんのことも支えたい、でも同時に、絵付け小皿も頑張りたいっていう2つの欲が同時に生まれて、どうバランスをとればいいのか喜美子はわからなかったけど、ハチさんが背中を押してくれました。

 だから、ハチさんのことは三津にまかせる、と喜美子が決断できたのだと思います。ただそれをきっかけに三津の八郎に対する気持ちが膨れ上がっていくので、よかったのかどうかはちょっとわからないですけれど、喜美子と八郎がそれぞれ陶芸家として大きく一歩進んだところなので、そこはよかったと思いました。

■三津は「いなくちゃいけない存在」だった

――三津に対しての、喜美子の感情はどのように感じましたか?

【戸田】喜美子は、「ハチさんを信じている」という気持ちです。いままで積み上げてきたハチさんとの関係、愛情や絆というものに自信があるから、「ここは口出ししなくてもいい」と判断する。それは「妻の強さ」かなあと思いました。三津の言動って 「ハチさんのこと好きなん!?」と喜美子からつっこんでもいいくらいだっ
たのですが、三津自身もわざとじゃないし、喜美子も自信があるから、つっこめないんですよね。陶芸の師匠と弟子としても、女の意地っていうのがあるのかなと思いました。

 三津がもっと恋愛の駆け引きを仕掛けてくる子だったら、ハチさんがもうクビにしているはず。それでも、喜美子がハチさんに新しい風を吹かせたいと考えて、三津を弟子入りさせました。最初は、ハチさんも「いや弟子はいらない」と言っていたけれど、ちょこちょこっと三津から出るヒントになるような言葉をもらって、実際に作品をつく っていけるようになるから、やっぱり三津はふたりにとっていなくちゃいけない存在だったんだと思うんです。

■「ひとりもええなあ」のせりふに鳥肌

――第16週「熱くなる瞬間」(1月20日~1月25日放送)では、喜美子の家に照子(大島優子)と信作が集まり、幼なじみ3人で夜通し語り合うシーンがありました。

【戸田】この三人がそろうと、やっぱりこれこれ!という感覚なるんです。これが欲しかった!という感じ。一番落ち着くし、楽しいし、喜美子の人生の真ん中にあるのがこのふたりなんだなあと思いました。この3人で集まったとたんに、完全にタイムスリップできるんです。こういう経験って私自身はなかなかできないので、子どもの頃から過ごしている人たちって強いんだなと思いました。

――第17週「涙のち晴れ」(1月27日~2月1日放送)では、八郎の応援もあって、喜美子が穴窯を作り、自然釉への挑戦を始めます。その時の喜美子の気持ちについてはどう感じられましたか?

【戸田】喜美子は、ハチさんや家族みんなが、やりたいことをやってみたいという喜美子の気持ちを後押ししてくれることにありがたさを感じたと思います。それと同時に、失敗してなるものかという責任感もむくむくっと湧き上がってきたんです。それなのに、何度も失敗が続きました。

 穴窯をつくる前は、ちゃんと売れるものをつくらなきゃいけないと話していた喜美子が、「売れなくてもいい、自分のつくりたいものをつくる」と言いだして…考え方も発言もまったく変わってしまいます。今まではお金を大事に、家族のために一生懸命やってきた人が、家族がだめになってもやり続けるっていう狂気に似た熱意を持ちはじめるんです。

【戸田】本当に自分がやりたいことと出会った時って、いままで自分が積み上げてきたものもなかったことになるくらい、そっちに突き進んでしまうんだなと。天才になる人の片りんをみた気がしました。

 17週あたりになると、喜美子はなんとしても自然釉というものを完成させたいという気持ちが強くなるんです。窯だきに使うお金について、ハチさんが「武志のためのお金やろ」というのも正論なのですが、喜美子には武志のお金を使って申し訳ないという気持ちはひとつもないんです。ハチさんと離れてからは、ハチさんと離れたことに対して、武志に申し訳ないという気持ちを持つけれど、お金に対してはないんです。恐怖と責任を負っているし、絶対に成功させてやる、成功するまではやめたらいけない、それこそすべてが水の泡になる、と考えているのだと思いました。

 喜美子が穴窯を作ると決め、成功を目指し没入していくころから、急に喜美子の人が変わったようになるんです。17週100 回(1月30日)の放送で、照子が喜美子のもとにきて、「目え、覚ませ」と言ったとき、喜美子は「ひとりもええなあ」と返しました。このせりふが、17週まで演じてきた中で一番印象に残ったせりふです。一番衝撃的で、台本を読んだときに涙がとまりませんでした。

 「ひとりもええなあ」というのは、今までの自分の人生を全部否定するような言葉じゃないですか。今まで、ずっと誰かのために生きてきて、それが喜美子の幸せでもあって、心の支えでもあったのに…。こんな重い言葉があるのだと、鳥肌がたちました。

――2019年に放送された前半の中で印象的だったシーンはありますか?

【戸田】たくさんあるので選ぶのが難しいですね…。でも、フカ先生(深野心仙=イッセー尾形)とのシーンは忘れられないぐらい、自分にとって宝物です。一人芝居をしていらっしゃるイッセー尾形さんのお芝居を目の前で観ることができるなんて、たったひとりの観客みたいなものなので、それを味わえたのは本当にこの上ない、ぜいたくなことだなと思いました。

 喜美子もそうですけれど、私自身もフカ先生についてくという確固たるものができて、フカ先生がいなくなるのはとてもさみしかったです。ずっとフカ先生との時間が続けばいいのになぁと、願わずにはいられませんでした。