働き方改革の一環で副業・兼業への関心が高まっている中、「アイドル」と「女将」を両立する女性がいる。それが、アイドルユニット・AH(嗚呼)のメンバーとして活動する、りりかる*ことぱぉ。立命館大学を卒業後、実家でもある滋賀県高島市にある老舗旅館『宝船温泉 湯元ことぶき』の若女将を務める傍ら音楽活動を続け、2015年にSuzuと出会いユニットを結成。26歳からアイドルとしてのキャリアも歩み始めた異色の “二刀流”だ。

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■旅館業での収入は「0円」

――大学卒業後にすぐ実家を継いだのは、予定通りのプランだったのでしょうか?

「正直言うと、就活に失敗したんです(笑)。一度社会に出てから、いずれは宿に戻ってこようとは思っていたんですけど、就活をしていた2011年に、ちょうど東日本大震災が起きて、震災の影響か行きたかった企業の採用もストップして。なので、卒業後すぐに実家を継ぎ、並行しながらバンド活動をしていたんです」

――バンド活動からなぜアイドルに?

「25歳くらいの時に当時在籍していたバンドが解散したんですけど、もう一度メンバー募集をする気になれなかったんです。というのも、一緒にやっていたメンバーが結構だらしない人で(笑)。当たり前に遅刻はしてくるし、なんだかバンドで活動するのに疲れてしまったんです。そんな中、今の相方にライブハウスで出会って、『アイドル』として活動しようと」

――現在の活動ペースはどの程度なんですか?

「月にライブ1本の時もあるし、多くても4~5本ですね。やっぱり宿の仕事もあるので、ライブが多い時は正直しんどいです。女将業の合間を縫って、さまざまな制作もしているので」

――両立は難しくないですか?

「ウチの旅館は1日に4組までしか予約できない小規模な宿なので、みなさんが想像するような“若女将像”とはまたちょっと違うと思います。でも仕事自体はまぁまぁ、大変ですね」

――では収入面では比較的不安もなく?

「いえ、旅館業での収入はないんです。去年まで年間30万円もらっていたんですけど、今年からそれもなくなりました」

――えっ?

「実家に住んでいるので衣食住には困ってないんですけど、収入源はほぼアイドル活動によるものなんです。そんなに大した額じゃないけど、将来のための貯金なんかもすべてそこから捻出していて」

――なぜ旅館業ではお金をもらえていないんでしょう?

「最初に『お金を払えないから、他でバイトしながら旅館を手伝って欲しい』と言われたんですよ。老舗旅館ではあるんですけど、一時期経営難に陥ったことがあって。丁度そのタイミングで私が就職することになったので、塾でバイトしながら、宿では若女将として無償で働いてました。けど、軌道に乗ってきても一向に給料はもらえないままきました(笑)」

――そんなことが過去にあったんですね。

「今はアイドル業が黒字化しているので、私も親と喧嘩してまでお金をもらわなくてもいいようになってきました。最終的には土地とか資産が全部私のものになると思うので、もうこのままでいいかなと(笑)。そういう状況の中で、家族で仲良くやっています」

■アイドルソングはほとんど聴いたことがなかった

――AH(嗚呼)の楽曲は、「アイドルソング」をイメージすると面を食らうぐらいの洗練されたサウンドですね。

「私、これまでアイドルソングはほとんど聴いてこなくて。1番好きな音楽はビートルズだし、ジミ・ヘンドリックスやピンクフロイド、キングクリムゾンやサンタナとか。日本だとゆらゆら帝国とか50回転ズですね。ああいう乾いたギターサウンドが好きなんです。オールドロックが好きなお父さんの影響をバリバリ受けていて」

――曲作りはどのようにされているんですか?

「割と適当なんですよね。気づいたら骨格が出来上がっている感じです。トラックは自分でやりきれない時は一緒に演奏してくれているバンドメンバーに仕事として振っています」

――サウンドの全てをことぱぉさんが作る時もあると。

「でもその場合は“経費削減“なんですよ。『ちょっと予算キツイ、節約したい……』ってときは自分で打ち込んでいます」



西川貴教のように滋賀県を盛り上げる存在に

■西川貴教のように滋賀県を盛り上げる存在に

――正直、ファンの方から「もうちょっとアイドル活動に本腰をいれてよ」みたいな要望はないですか?

「それはないです。なぜなら若女将をやっているところからアイドル活動も始めているので、ファンもそれを理解しているから。もし言ってきたら『無茶言うなよ!』って話します(笑)。今のところ多くの人が『体に気をつけて、できるだけ長くアイドルを続けて』って声をかけてくれますね」

――いい関係だ。

「そうですね。最近は宿が閑散期の時、親から『ウチにファンを呼んでイベントやってよ』って頼られるようになったんですよ。一回やって売上が良かったから(笑)」

――ですが4月17日に相方のSuzuさんの卒業公演が決まっています。ことぱぉさんはそれ以降も二足のわらじを履いて活動を?

「もう30歳ですし、いつまでアイドルって名乗っていいものかとは思ってますけどね。でもアイドルもすごく多様化しているし、私のようなタイプでも受け入れられやすくなっている。多分このまま活動していくと思います。“アイドル若女将”はすごくキャッチーな肩書きだと思っているし、とにかくいくつになっても音楽は続けていたいんです」

――ことぱぉさんが描く最終目標はなんですか?

「ウチの宿に歌える宴会場を作りたいと思っています。半分はスナックみたいに、営業も出来る施設にしたい。『歌が上手い女将がいる』ってことをセールスポイントにしつつ、いつでもパフォーマンスできる場を作りたいなと」

――それはユニークですね。

「同時に自分が温泉旅館の名物でありたいなと思っています。というのも、最近滋賀県のアイドルが軒並み解散してしまっている現状があって。なので滋賀の観光大使を目指して、『宝船温泉』の誘致だけではなく、同郷の西川貴教さんみたいに、いつか県を象徴する人になって、地元を盛り上げていきたいですね」

(取材・文/中山洋平 撮影/kaochi)