国産プラモデルが1958年に産声をあげてから60余年、黎明期から現在に至るまで、その歴史を支えてきたのは戦車・艦船・航空機といったスケールモデル(※縮尺に基づいて忠実に再現した模型)だ。今回、ジオラマの1枚絵に「境界」という演出法を取り入れている大塩恒平氏(@0040shio)を取材。プラモデルに“物語性”を付与するための技法を聞いた。

【写真】ジオラマの必殺技法公開「三角構図」「レイヤー分け」「線遠近法」「情報の集中」

■ジオラマにも「境界」という演出を取り入れたかった

――本作「Welcome to Germany」を制作するきっかけは何ですか?

【大塩恒平】まったく関係ないジャンルで恐縮なのですが、仲谷鳰さんによる漫画『やがて君になる』にて踏切や橋脚、飛び石が人間関係の「境界」として効果的に使われていました。この漫画を読みながらジオラマにも「境界」という演出を取り入れることができないかと考えたのがキッカケです。そして作り出したのが、欧州へ派遣されたアメリカ軍が「境界をこえて」ドイツ本土へと侵攻する、という本作です。百合恋愛漫画も読み方によってはミリタリージオラマ作品のインスピレーションとなるから不思議ですね(笑)。

――Twitterではジオラマの元ネタも紹介されています。元ネタに触発された理由は?

【大塩恒平】電話線を持ち上げて潜り通る戦車の写真を見た瞬間、電話線=境界という図式が頭の中で閃きました。「境界をこえる」=「電話線を持ち上げて通る」が自然な演出として効果的だなと感じました。元ネタの写真は建物も崩れておらず撮影場所も不明ですが、今作ではドイツ国境に近い町とし、建物も崩して戦闘の後に国境へ踏み入るアメリカ軍という演出を強化しました

――使用したキットやフィギュアは何ですか?

【大塩恒平】シャーマンM4A3E8戦車と、壊れた車はどちらもタミヤ製です。ドラゴン社のフィギュアとタミヤのフィギュアを元にエポキシパテで改造しました。建物はミニアートという東欧のメーカーの製品を改造して使用しています。

――シャーマンへの思い入れはありますか?

【大塩恒平】ブラッド・ピッド主演の映画『FURY』に登場するシャーマンの印象が強いです。すべて実物を使用した劇中の映像では、強力な戦闘力を誇るドイツ軍の戦車に対し時には数で、時には捨て身で肉薄する姿が印象的でした。シャーマンは強くないからこその格好良さがありましたね。

――昨今、ジオラマで力を入れている部分は何でしょうか?

【大塩恒平】物語性と演出です。従来戦車や航空機といったスケールモデルでは実物通りの模型を作るという事が正解であり主流でした。でも自分は物語性に力を入れています。また、物語を効果的に鑑賞者へ訴求する演出にも力を入れています。

――では、力を入れている演出部分で苦労している点は?

【大塩恒平】言葉も動きもないジオラマ作品で物語を作るという点は難しいなと感じます。そんな時こそ、この作品が影響を受けたように漫画やアニメ、映画といった異なる分野の作品を鑑賞して刺激を受けています。それは一種の“異種格闘技”とも呼べるかもしれません。

■“新しい物語”を、模型制作を通じて発信したい

――1枚絵でストーリーを表現するうえで、大事にしているのは?

【大塩恒平】名画と呼ばれる絵は5つの構図に分かれることが知られています。その中の1つである3角構図を意識しています。台座の両端から戦車の頂点を結び3角形を作ることを意識しました。こうすることで安定感のある絵を作ることができます。また、左斜め手前への電話線、右斜め手前への戦車。これら2つを交差させることで疑似的に線遠近法を作っています。

――様々な技法を盛り込んでいるんですね。

【大塩恒平】その他には「レイヤー分け」というものがあります。これは、奥から背景の建物(一番大きい)、真ん中に戦車(中ぐらい)、手前に車(小さい)と段々状になるようにレイヤーを分けることで、見やすくて絵として完成された作品になるようにしています。

――鑑賞者の視点など意識されているんですね。

【大塩恒平】はい。ジオラマの1枚絵においては“情報量の集中”が重要です。誰しも人物に真っ先に目が行きますがそれは模型でも同じです。なので、人を戦車の砲塔付近、つまり中心に集めることで、目線が「境界をこえる」という最も伝えたい動作に引き込まれるよう情報量を集中させています。

――こうした技術を盛り込んだうえで、次に挑戦したいジオラマを教えてください。

【大塩恒平】たくさんありますね。前述した部分に共通する事として、単純に格好いいだけでは無いジオラマを作りたいと思っています。“新しい物語”を、模型を通じ発信していきたいです。