がん治療や脱毛症等で悩む人々にウィッグを提供する“ヘアドネーション”。元々アメリカでは一般的なボランティアであったが、国内で先駆けて活動を始めたのがNPO法人JHD&C(ジャーダック)。10年前から、賛同サロンなどを介して寄付された健康な髪でウィッグを作り、頭髪に悩みを抱える子どもたちに完全無償で提供している。最近では山本美月や相武紗季など、芸能人も積極的に参加される姿も見られる。活動の意義と課題を広報の今西由利子さんに聞いた。

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■広がるヘアドネーション 約4割が子どもたちからの寄付、ジェンダーレスの動きも

――提供先を18歳以下の子どもたちに指定されているのはなぜですか。

現在流通しているウィッグのうち「子ども用」は、サイズの展開やバリエーションなどの選択肢が少なく、安価で手に入れることも困難です。また、学校などの集団生活の場において、見た目が他人と違うことが大きなストレスとなって不登校になったり、治療後の復学へのハードルになるケースもあります。子どもたちの日常生活をサポートし、その可能性の芽を育むという意味でも、当団体では18歳以下を提供対象にしています。

――近年、国内でもヘアドネーションが各地で広がってきましたよね。

はい、メディアを通して著名人がヘアドネーションしたことを知ったり、SNSをはじめとしたインターネットで知ったりする方が多いように思います。ここ数年のさまざまな天災によって個人のボランティア意識が高まり、身近なボランティアとしてヘアドネーションに参加する方が増えたのではないかと考えています。

――子供が子供に髪を寄付するニュースも度々目にします。

最近特に顕著なのは、10代以下の子どもたちからの寄付が増えていることですね。最年少では、七五三を終えたタイミングで3歳くらいの方からの寄付がありました。ヘアドネーション総数のおよそ4割が子どもたちからで、夏休み期間中などはさらに増える傾向にあります。新聞コンクールや読書感想文などのテーマに「ヘアドネーション」を取り上げたり、事務局の見学を希望する親子の数がこの2~3年で増えたりしているため、親子を対象にした体験イベントも3年連続で開催しました。また、少ないながらも男性からの寄付が増え、逆にウィッグを申し込む男の子も珍しくありません。年齢の幅だけでなく、徐々にジェンダーレスな活動になっている感覚があります。

■ウィッグ1つで生活に変化「学校で明るく振舞えるようになった」「自分の笑顔を鏡で見るのは久しぶり」

――実際にウィッグの提供受けた人の声はいかがですか。

子どもたちからは、「ウィッグのおかげで気軽に外出できるようになった」「周囲の目が気にならなくなった」「学校で明るく振舞えるようになった」などの声が寄せられています。また、活動初期にウィッグを提供した当時高校生だった女性が、「自分の笑顔を鏡で見るのは久しぶりです」とおっしゃっていました。これは、私たちも非常に印象的な出来事として記憶に残っています。

――提供を受けた本人だけでなく、ご家族からもうれしい声が届くそうですね。

はい。「娘は毎日、元気に楽しく学校へ通っています。ウィッグをつけて、鏡の前でセットする時間も長くなりました。週末は、ヘアスタイルに合わせた洋服選びも楽しいようです。髪の毛の力ってすごいですね。母としてもうれしく思います」「ウィッグを手にしてから、娘はおでかけの際に以前は嫌がっていたスカート等、女の子らしい格好をするようになったり、可愛いバッグや小物を欲しがるようになりました。ご提供いただいたウィッグがきっかけで、今まで胸にしまい込んでいたことを表現できたり、新しい自分を見つけることができたのなら、母親としてとてもうれしいです」このようなお声を頂戴します。

――ウィッグ1つで生活や人生が大きく変わることもたくさんあるのですね。

ウィッグの提供を受けた方だけではなく、髪を寄付してくださる方も同様です。重い障害を抱え、寝たきりの生活を送られている女性の方がヘアドネーションしてくださった時、「いつも人の助けを借りて生きている私が、髪を寄付することで誰かの役に立つことができます。社会への恩返しをする機会を与えてくれたこの活動に心から感謝しています」というメッセージが寄せてくださいました。ヘアドネーションは髪を寄付する人・ウィッグを受け取る人・ウィッグを作る人がいて成り立つボランティアなのだと改めて認識する機会になりました。

■髪を寄付するもしないも“個人の自由”、髪を切らずにチャリティ参加できる仕組みづくりも

――活動が広がっていく中で、 “髪を切ったら寄付しなければいけない”という義務感や、寄付をしなかった方に対する非難が出てくることもあるかもしれません。

ご指摘の点、まさにその通りで、私たちも非常に危惧しております。髪を寄付するのもしないのも、長く伸ばすのも伸ばさないのも、同調圧力のような「空気」に左右されるものであってはならないと思っています。髪を寄付してくださる方には感謝の思いしかございませんが、だからといって寄付しない方が肩身の狭い思いをするようなことはあってはならない、どんな髪型にしようとその人の自由な意思が尊重されるべきというのが私たちの考えです。

――「髪がない」ことも個性として受け入れられる社会づくりも目標として掲げられていますよね。

そもそも、髪を持たない人がウィッグを必要とする大きな理由の一つが「他人の目が気になるから」です。
ヘアドネーションをする人が、他人の目を気にして義務感を必要以上に感じたり、空気に圧されて寄付したくないのに寄付するような流れは、私たちの理念に相反します。ボランティアやチャリティは、当人の自発的な意思によって行われるべきであると考えています。髪を寄付する人も、髪を持たない人も、髪型を強制されることなく、自己表現の一つとしてのびのびとヘアスタイルを楽しんでほしいと切に願っています。

――活動費はどのように工面されているのでしょうか。

全て募金や寄付金、助成金で賄われており、ほとんどが「個人からの寄付」です。おかげで活動の独立性が担保されていますが、その反面どうしても不安定な部分がございます。そこで、安定して活動資金を捻出するために、オリジナルシャンプーの販売を開始しました。このシャンプーの収益金の全額がウィッグ製作費用となります。「髪を洗う」という日常生活の延長線上で気軽にチャリティに参加でき、また、髪を伸ばしたり切ったりすることが難しい方にも活動に参加していただけることが大きな特長です。これまで非常に多くの方から寄せられた「髪を切らずに参加できることはないか」というご要望にお応えする形で始まったプロジェクトであり、私たちは「新しいヘアドネーションの提案」と考えています。

――ヘアドネーションの活動を通して、どのようなことを期待されていますか。

以前、ウィッグを受け取られたお子さんが、「ヘアドネーションでできたウィッグを使うことで、こんなにもたくさんの方が応援してくださっていることが分かって、とても励まされました」とおっしゃっていました。ヘアドネーションに協力することで、その受け取り手である「髪に悩みを持つ子どもたち」の存在に初めて気づき、支援の手を差し伸べる方が大勢いらっしゃることが脱毛に悩む当事者にとって大きな支えになっており、そうした理解の輪が広がっていくことを願っています。また「ボランティアの入り口」としてヘアドネーションに参加することで、さまざまな社会問題や多様性について考えるきっかけになれば嬉しいです。

――これからヘアドネーションの活動をどのように広げていきたいですか。

こう言っては矛盾するようですが、私たちはヘアドネーションを「広げていきたい」とは考えていません。いつまでもヘアドネーションがもてはやされる世の中とは、すなわち「外見に対する先入観や思い込みがある社会」なのではないでしょうか。誰がどんなヘアスタイルであっても問題視されない、多様性を受け入れる社会になることが最も望ましく、その中で私たちの活動も自然と「お役御免」になればいいなと思っています。とはいえ、今はまだ過渡期の段階です。ウィッグを必要としている方が1人でもいらっしゃる限りは、皆さまの髪の毛と思いやりの心で作られたウィッグを、1日でも早くお渡ししていきたいと思っています。