昭和50年代の秋田県を舞台に描かれた祖母の梅さんと孫の小梅さんとの日々を描いた漫画『梅さんと小梅さん』が人気だ。祖母と孫の心温まるエピソードや、くすっと笑える家族のやり取り、懐かしいおもちゃやお菓子、おばあちゃんの知恵袋など、古き良き日本の家族の物語に、温かみと優しさのある絵が絶妙にマッチしている。Instagramでは、お互いを慈しみ、思いやる2人の温かな日々の物語に「ほっこりする」「心温まった、泣いた」「こんな温かい家庭を築きたい」といった声が寄せられている。この漫画の作者であるホンマジュンコさん(@umetokoume)に話を聞いた。

【傑作集】「心温まった、泣いた…」昭和が舞台のほっこりエピソード“祖母と孫の日々”

◆祖母と自分を重ねた物語「後悔をしないよう“今”の大切さを伝えたい」

――Instagramで描く心温まる『梅さんと小梅さん』のコミックエッセイが、多くの読者からの反響を受けています。なぜ、祖母と孫の2人の日々を描こうと思ったのでしょうか?

【ホンマさん】 大切なはずの家族との時間を犠牲にしながら、会社員として仕事に没頭する日々のなかで、祖父母のなかで唯一健在だった母方の祖母が他界し、「生前、祖母に何ひとつしてあげられなかった」「(忙しくても)もっと会いに行けばよかった」「もっともっとたくさん話したかった」…と深い後悔にかられました。そのことがきっかけとなり、大切な家族をちゃんと大切にできるように会社を退職しました。自宅で家族との時間を大切にしながら、自分のできる範囲の仕事を自分のペースでこなす、という働き方に変えました。決して時間を戻すことはできないけれど、『梅さんと小梅さん』を描くことで祖母と自分を重ね、その後悔を優しい物語で埋めることができたらと思いました。そして、大切な人がいる方たちが、自分と同じような後悔をしないよう“今”の大切さを伝えていけたら…そんな想いで描き始めました。

――梅さんと小梅さんのように、ホンマさんもおばあさまと過ごしたのでしょうか?

【ホンマさん】 いいえ。生まれたのは秋田ですが、父の転勤で3歳になる頃には秋田を離れ、それからはずっと他県で過ごしたので、祖母と過ごせるのは1年のなかで夏休みとお正月休みくらいでした。祖母と一緒に暮らしている従兄弟たちが、とても羨ましかったです。

――昭和50年代の秋田県が舞台となっています。ホンマさんの実体験なのでしょうか?

【ホンマさん】 実際のエピソードももちろんありますが、すべてではありません。祖母とは一緒に暮らしていなかったので、「本当はもっとこんな風に過ごしてみたかったなぁ」という私の憧れから描いたものや、幼い頃の私と母とのやりとり、私の娘たちと私の母との実際のやりとりなど、さまざまな側面でできたお話を、昭和50年代の秋田県を舞台に梅さんと小梅さんの2人に演じてもらっている、という感じです。

――実際の思い出に近い作品はありますか?

【ホンマさん】 どれも実際の思い出に遠くはないのですが、夏休みやお正月に遊びに行っていたので、私たちのために、夏の暑い日に台所に立ってトウモロコシを茹でてくれたり、別れ際にティッシュに包んで千円札をくれたことは、強く印象に残っています。お風呂の床の丸石タイルやカエルの椅子、黒電話、珠のれんなどの昭和アイテムも、ほとんどが実際に祖母の家にあったもので、大好きだったアイテムたちです。

◆時代が変わっても変わらないもの、忘れてはいけない大事なことを描けている気がする

――『梅さんと小梅さん』のような家庭も少なくなりました。平成から令和へと時代が移り変わるなかでも、「梅さんと小梅さん」で描く古き良き昭和の時代と通じるものがあります。

【ホンマさん】 「大切な人をちゃんと大切にできないまま失ってしまった後悔」と、「人生一度きり。“今”が大切!ということを痛感」したことから描き始めました。そういう意味では、時代が変わってもずっと変わらないものや、忘れてはいけない大事なことを描けている気がします。

――題材はどのようにして決めているのでしょうか?

【ホンマさん】 主に、「大好きな人と一緒にいる幸せ」「何気ない日常」「昭和の懐かしさ(懐かしいアイテム)」「ちびっこあるある」などを軸において、実体験や妄想、想像で物語に仕上げています。

――とても優しい気持ちになれる「勤労感謝の日」の出来事は、ホンマさんの体験談なのでしょうか?

【ホンマさん】 私の体験談ではありませんが、“梅さん”というキャラクターを描くなかで、梅さんはきっと小梅さん以外の家族からもこう言ってもらえるような、誰からも愛されるおばあちゃんだと自分で確信できたので、自然と筆が進みました。

――「クリスマスプレゼント」は、小梅さんの梅さんを思う優しさと「入れ歯」というオチがくすっと笑えました。これは本当にあったお話なのでしょうか? それともラストの「入れ歯」はフィクションなのでしょうか?

【ホンマさん】 祖母の入れ歯に強く憧れていたことは事実です。欲しくて欲しくて、祖母が入れ歯の手入れをする時など、いつも凝視していました。小梅さんが梅さんの入れ歯に強い憧れを抱いているのは、そんな昔の私の姿です。

――「梅さんが先に寝た日」のような“あるある話”や、「冬至」で描く“おばあちゃんの知恵袋”のようなお話もあります。コミックエッセイを描く際に、気をつけていることはありますか?

【ホンマさん】 実際の出来事は頭の中に“なんとなく”残っているものですが、イラストにする時には“なんとなく”ではうまく読者に伝わらないと思っています。特に“あるある話”は、自分の記憶だけを頼りに描き起こすのではなく、必ず実際のモノを調べてなるべく忠実に描くようにしています。「梅さんが先に寝た日」で例えると、天井にある昭和風の電気など、細かいディテールも、その時代を感じてもらえるように調べて描くようにしています。知恵袋的なお話も同じで、自分の記憶だけでは間違った情報かもしれないので、やはりしっかりと調べて事実を確認してから描くように心がけています。

◆「梅さんと小梅さん」が単行本化も、人生最大の奇跡

――どのくらいのペースで描いているのでしょうか?

【ホンマさん】 以前は1枚完結のイラストだったので、ほぼ毎日描いていました。いまは1作品4コマ構成が多く描く量が増えたので、2日に1作品程度のペースで描いています。3日以上は空かないように心がけています。

――とても優しいタッチの絵ですが、このお話だからなのでしょうか? それとも普段からのホンマさんの作風なのでしょうか?

【ホンマさん】 昔から水彩の優しい雰囲気が好きなので、他に作風を変えて描いたりはしていません。ただ、もともとはグラフィックデザイナーとして広告デザインの仕事をしていたので、そちらではクライアントの要望に応じてさまざまなテイストのものを制作していました。

――淡いベージュをベースに、淡いピンク色がアクセントとなった淡い色合いもとても素敵です。描く色にもこだわりがあるのでしょうか?

【ホンマさん】 文章を深く読み込まなくても、“昭和”“ノスタルジー”“人の温もり”が、色味でひと目で感じ取れ、見てくださった方の心が温かくなるようなイラストを描きたかったので、このような雰囲気にしています。頬はもちろんですが、耳の上や膝、ひじ、指先にも淡いピンクを入れることで、血色のよい温かさを感じてもらえるように心がけて描いています。

――なぜ、コミックエッセイの公開の場をInstagramに選んだのでしょうか?

【ホンマさん】 1つひとつのイラストをじっくりと見てもらえる場だと思ったからです。

――今年4月には単行本『梅さんと小梅さん 親友はおばあちゃん』が発売されました。発売に至った経緯について教えてください。

【ホンマさん】 Instagramでの私の投稿を、KADOKAWAの編集担当の方が偶然見つけてくださり、直接ご連絡をいただいたことがきっかけです。人生最大の奇跡です。

――読者の方にどんなことを伝えたいですか?

【ホンマさん】 自分の人生も、大切な人の人生も、たった一度きり。命にも限りがあります。歳を重ねればなおのこと、明日必ず生きているとは限らない。だからこそ生きている“今”を大切に、先延ばしにせず、会いたい人には会いに行き、伝えたいことはいつかではなく“今”伝えてほしいと心から願っています。私自身がそうできず後悔したので、なおさら感じています。