第二次安倍内閣において安倍首相の「懐刀」「女房役」として政権を支え、記者会見では鉄壁の「菅話法」などと呼ばれ、いくつもの批判やメディアによる追求を交わしてきた菅義偉内閣官房長官。だが、ここにきて、その防御力・安定感に陰りが見え始めている。「桜を見る会」を巡る問題では、その場しのぎの答弁も目立ち、答えに窮する場面も多い。いまや歴代最長の任期を務めている菅官房長官を我々はどう評価すべきか。新聞12紙を毎日読み比べし、テレビやラジオで軽妙にニュースを語る時事芸人・プチ鹿島に、今年の菅官房長官の動静を分析してもらい、さらにはプチ鹿島流、“官房長官論”を語ってもらった。

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■今年の漢字は『令』でしたが、僕は『菅』だと思う

 第二次安倍内閣がスタートした2012年から内閣官房長官を務め、歴代最長の在職日数となっている菅官房長官。今年は4月1日の新元号発表を契機に、普段、あまり政治に関心のない層にも「令和おじさん」として注目集め、「ポスト安倍」としてもにわかに脚光を浴びる存在にもなった。

「今年の漢字は『令』でしたが、僕は『菅』だと思います。今年前半は『令和おじさん』でスポットライトが当たり、安倍首相を支える役割に徹しているという自負はご自身にもあったとは思いますが、一方で、菅原一秀・河井克行という自分に近しい人を閣僚に送り込んだ。その結果が、ものの見事にスピード辞任。これで潮目が変わりましたね。そこにきて今後は『桜を見る会』でのあの説明。これまでは“鉄壁”とも言われていましたが、要はちゃんと答えていなかっただけとも言える。三谷幸喜さんの作品にみられる、小さいことを取り繕ったために、その結果、問題が大きくなっていく…という喜劇の法則を見ているようでしたね」

 菅官房長官にとっては、浮沈の激しい1年だった言えそうだが、『令和おじさん』景気はすっかり鳴りを潜め、ご存じのとおり、今年後半は「桜を見る会」についての説明に追われることとなった。

「『桜を見る会』については、“そんな小さなことばかり追求していないで、もっと大きな話、例えば外交の問題を議論すべき”という意見もありますが、僕は決してそうは思わない。よく“桜の木の下には死体が埋まっている”と言いますが、僕はこの数年間の長期整権の振る舞いが、あの“桜”の下に全部埋まっていると思うんです。安倍内閣は情報発信が巧妙です。特に政治にあまり興味関心のない層に向けた情報発信が巧みです。それに活用されていたのが『桜を見る会』だったわけで、SNSを見る人に対して、“あのタレントと令和おじさんが写真を撮っている”というだけの情報で、いわゆる“フワッとした民意”を巧みに掴む。そして、都合の悪い情報と相殺しようという考えが見えます。そんな安倍政権の“ふるまい”=本質が露見した。小さなことにこそ、こうした本質が現れるんです」

■官房長官の役割はひな壇バラエティでいうところの“裏回し”

 すでに述べたとおり歴代最長の在職日数を誇り、第二次安倍内閣の長期政権を支えた重要人物であることは間違いないだろう。官房長官としての実力を我々はどう評価すべきか?

「11月20日の読売新聞に、「懐刀二人のせめぎ合い」という見出しの記事があり、そのなかで、立憲民主党代表の枝野幸男さんが「私が首相になっても菅さんに官房長官をやってほしい」と漏らし、羨んでいたと書かれています。この発言の真偽はわかりませんが、少なくとも読売新聞がこう報じたのはとても面白いですねよね。いわば対抗馬と目される人物からも認められるというね」

 では枝野氏も羨む、菅官房長官の上手さとはどういうところにあるのか?

「芸人で言うなら裏回しのうまさでしょうか。しかし最近は裏回しのえげつなさを報道で見つけるのが読みどころだったりします」

■在職日数は歴代最長の菅氏、だが歴代最強の官房長官は「間違いなく後藤田正晴さん」

 枝野氏も羨む“裏回し”ぶり。職人官房長官という一定の評価は議員内でも得ているようだ。在職日数を見ても、さらには実際に長期政権を支えているという点からも、昨今の答弁に問題は多々あれど、「内閣官房長官」という点では菅義偉=最強の官房長官ということになるのか? 歴代最強の官房長官は? と問うと、プチ鹿島は「後藤田正晴さんですね」と即答する。

「先日、中曽根さんが亡くなった際、安倍政権と比較する記事が多かったですが、政治ジャーナリストの角谷浩一さんは「安倍内閣と中曽根内閣を比較し、似ているという人もいるが、官房長官が違う」とおっしゃっていました。同感ですね。中曽根内閣の時の官房長官が後藤田さんです。彼と中曽根さんというのはイデオロギー的には全く逆。それでも中曽根さんは後藤田さんを官房長官に据えた。有名な話ですが、イラン・イラク戦争時に自衛隊を海外派兵しようする首相に対して絶対に認めなかった。そしてそんな後藤田さんの意見を中曽根さんも尊重した。自分と思想が異なる人を自分の女房役におく。そういう器量のある人が今の政治家にいるのか、とも思います」

■記者と官房長官の丁々発止のやりとりこそが見どころ

 官房長官会見といえば、2019年11月15日に森達也監督『i-新聞記者ドキュメント-』が公開された。この作品は東京新聞社会部記者の望月衣塑子氏が、周囲からは異端視されながらも圧力にも屈せず、官邸記者会見で菅官房長官に対して鋭い質問を投げかける姿を描いた社会派ドキュメンタリー。多くの問題を浮かび上がらせた作品だが、この作品は官房長官(そしてメディア)のあるべき姿も示唆している。

「トランプ政権について悪く言われがちですが、それでもメディアとは臆面もなく激しくやりあっていますよね。その点は見習わざるを得ないと思います。あのドキュメントで森達也監督は実現できるなら菅官房長官の後ろからカメラを回したかったのではないでしょうか?そう、記者たちの個々の顔を映したかったのでは。記者という集団ではなく個々の仕事ぶりを。『桜を見る会』に関しては、さすがに望月記者だけでなく、毎日新聞など他紙からも厳しい追及がありました。そうした記者との丁々発止はあるべきで、たまらず菅さんが苦笑いをする、官僚からの差し紙が渡されるとか、そういうシーンが日常的にあるべきだと思います。少しは会見の場もまともになってきたと思いますし、そうした丁々発止があってこそもっと多くの人が政治に興味を持つようになると思います」